その瞬間,文字通り体から血の気が失せた.19日に実施されたセンター試験を自分で解き,自己採点を始めたばかりのことだった.今年は3年の担当,後半は過去のセンター試験の問題や,予想問題を扱うことも多く,生徒の手前,勘違い以外で問題を間違うことはあってはならないことだった.それなのに3問めの第1問,B,問1(1)I haven’t thought about it.最も強調して発音されるものを一つ選べ,という問題で@haven’tを選び,不正解!なんと3点の減点だ.正解の意図はわかるような気がする.「直前のWhat job do you eventually want to have?の問に対して,thoughtは新情報だから」というのだろう.しかし,「どういう職業につきたいですか」という問に対して,「まだ,考えていません」という時,thoughtが重要な情報だと断言できるだろうか.
たまたま中学1年の息子の英語教科書を見ていた.学習を始めてまもないUnit 3の口頭練習にI like soccer. I don’t like tennis. (New Horizon 1, p.27)と文強勢の練習をしている.特別のことわりのない限り,否定部分を強く発音するというのは中1の早い段階で学習しているのだ.いずれにしろ,What … wantという問で,答のthoughtが強調されると言われても仕方ないな,と自分の不明を恥じた.翌朝,同僚とセンター試験の問題の話題に及んだ時,恐る恐る,「実はねぇ.第3問の発音間違えたんだよ」と切り出したところ,「えぇ!そうですか.実は私も最初@を選んでしまいました」という答.これに意を強くして,他の同僚に話すとやはり@を選んで間違えたとのこと.私はこの時,忘れかけていた「裸の王様」を思い出した.高校で英語を教えるプロにあってセンター試験の発音問題で間違うことはあってはならないことである.したがって,自分から「間違えた」とはなかなか切り出せない.誰かが,「大様は裸だ!」と叫んでようやくことの本質が明らかになる.
時期を同じくして予備校が試験的にインターネットで配信する現役生対象のセンター問題の解説を視聴する機会があった.この問題に対する解説はおおよそ,「この問題はあまりいい問題でない,というのが僕らの評価です.センターのintended answerであるAもいいが,@でも良かったのではないかと考えています.皆さんがこの問題を間違えても仕方ありません」というものであった.現役生に対策を明示できない問題とはどういうものだろうか.全く検定の意味をなしていないと断じてもよさそうだ.
今年も現役2年生を対象に「センターチャレンジ」を実施した.参加生徒265名で平均点は97.6点.上位191名でセンター発表の平均点に近い109.6点.実は最も正解率の悪かった問題は,当初から指摘されていた第2問C問2の並べかえ問題で,正解率は8.9%(正解者17名).2番目に悪かったのは,これも物議をかもし出しそうな第4問B問2のデータ件数に関する問題(これは英語の試験+常識問題の様相が濃い)で13.1%(25名).3番目に悪かったのが当該の問題で16.2%(31名).昨年同様,得点の高かった受験者とこうした問題の正解者の間に相関が認められるか確かめてみた.平均点以上で正解した生徒の全体の占める割合を出した.並べかえ問題は70%,常識も必要とするデータ件数の問題では60%だった.これに対して発音問題は平均点以上の生徒は45%しか占めていなかった.発音問題と全体の総得点には感覚的には全く相関が認められない.
昨年受験生を苦しめた機能語の強弱問題がなくなったのは喜ばしいことである.例によって,業者の主催する模試では必ずこの問題が出題され,予想問題集でも取り上げられていた.生徒には,自虐的に,「この種の問題はそれほどパターンがないので出題されないかもしれない」といいながら,一方で対策もたてた.センター試験の結果が生徒の進学先を大きく左右する現実がある限り,そのセンター試験で得点を重ねることは,生徒にとっての一大関心事である.しかし,その対策は大学入学後も,そして将来にわたって有用である必要もある.紙による発音問題のばかばかしさは繰り返し指摘されている.そして,今年も有効な対策を立てたり,指示を出すことのできない「発音問題」が出題されてしまった.一体,出題者はこのような事態をどう受け止めているのだろうか.是非,出題意図,そしてそれによって受験生に期待される学習指針を明らかにして欲しい.