センター試験は受験生の「英語力」を検定したか?

センター試験当日に実際の試験を1年後に控えた高校2年生がセンター試験に挑戦する「センターチャレンジ」を英語,数学,国語で実施した.2年全体260名の平均点は95点で,大学入試センターの中間報告109.95には15点ほど及ばなかった.結果はともあれ生徒にとっては,今後の英語学習の方向性をつかむうえで参考にもなり,また刺激にもなったようだ.

自校で実施し,処理も本校職員が行ったため各設問別の正解率もわかった.全49問の正解率を眺めると「本当にこの設問は生徒の『英語力』を検定しているのか」と疑問に思う設問もあった.今回の報告では,生徒の『英語力』とは何かという根本的な議論はせずに,「センター試験の総合点が高いものは英語力もある」という極めて便宜的な前提で論をすすめたい.その上で平均点が全国平均に同じになるように本校受験者上位169名(これで平均点は110点)を基本データとして分析した.

一般的な推論として,もし各設問が正しく生徒の英語力を検定していれば,高得点のグループほど問題の正解率が高く,得点が低いグループほど正解率が低くなると考えられる.

例えば第4問B2の問題は本校生徒では3番目に正解率の低い難しい問題であった.この問題では本文第1パラグラフの “The research data were gathered in the following way:” で始まる部分を正確に読み,さらに選択枝の英文 “The researchers selected them depending on chance.”の意味が正確に理解できる力が求められている.全体の成就率で80%を超えた生徒は6名しかいなかったが,その全員がこの問題に正解している.以下同様に次のグループでは54%,その次のグループが40%...と見事に全体の成就率の低下に比例してこの設問の正解率も低下している.従って「センター試験全体の得点が高ければ,その受験生の英語力はそれだけ高い」という前提が成立すれば,この設問は受験生の英語力をある程度正確に検定している問題といえる.

 

第4問B問2

得点率

人数

構成率

正解者数

正解率

80%-

6

4%

6

100%

70%-

13

8%

7

54%

60%-

25

15%

10

40%

50%-

65

38%

12

18%

40%-

60

36%

10

17%

全体

169

100%

45

27%

















正解率の低かった問題について同様の分析をしていくとこのパターンにはまらないものもあった.それは評判の悪い発音問題である.

第1問Bは同じ語を含む4つの英文が与えられ,発音が他の3つと異なるものを選ぶ問題である.問2がほぼ全体の成就率に連動して正解しているのは,この問題が発音問題ではなく,単に「次の英文のなかで,意味,用法の異なるthereを含む英文を選びなさい」という文法問題に過ぎなかったからだと考えられる.それに対して,そうしたヒントの得にくい問1では,全体の成就率とはまったく関係なく,どの得点層でも同じような正解率を示している.正解率の低さ(16%)といい,全体の得点との相関のなさといいこの問題は受験生の英語力を正確に検定していない問題だと考えられる.

全体で最も正解率が低かった問題は第1問C問3だった.上位169名で正解者13名(正解率8%),その下位91名に5名の正解者がおり,全体では6.9%であった.成就率の推移を見ると一見学力層と相関しているように思われる.実際に教えている生徒たちなので個々の生徒を調べてみた.驚いたことにこの正解者群には高校入学後1年の留学体験を持つ生徒5名中,4名が入っていた.この会話文が3名の話者から構成され,無意識にその会話の流れを追えるような生徒でなければ,確信を持ってその正解にはたどり着けないということだろうか.その4人を正解者群から除くと,上位層からの正解者が消滅した.第1問C問3は留学体験を持つような英語に習熟した生徒の検定には適しているが日本国内で普通に英語の勉強をしてきた受験生には全く検定の役にたっていないようである.

 

第1問B 問1

第1問B問2

第1問C問3

得点率

正解者数

正解率

正解者数

正解率

正解者数

正解率

80%-

1

17%

4

67%

1

17%

70%-

3

23%

5

38%

2

15%

60%-

3

12%

7

28%

1

4%

50%-

12

18%

13

20%

8

12%

40%-

8

13%

16

27%

1

2%

全体

27

16%

45

27%

13

8%















紙による発音問題の無意味なことは様々な方面から色々な形で指摘されているが,今回もそういった指摘の1例になりそうだ.

 

第1問C問3

得点率

正解者数

正解率

80%-

0

0%

70%-

0

0%

60%-

1

4%

50%-

7

10%

40%-

1

2%

-39%

5

5%

全体

14

5.4%

 

第1問C問3

得点率

正解者数

正解率

80%-

0

0%

70%-

0

0%

60%-

1

4%

50%-

7

10%

40%-

1

2%

-39%

5

5%

全体

14

5.4%































3年次から始まる業者のマーク模試は今年のセンター試験に準じた形で問題が作成,出題されることが多い.問1Cでは3人の話者による会話文が登場しそうだ.生徒たちは,1年間の訓練の成果でこの問題には何とか対処できるようになるだろう.しかし,センター試験の訓練を受けていなかった生徒にとってはほとんど運試しの役割しか果たさなかったような設問に対して,これから日本全国の受験生が練習する必要があるだろうか.私には大変無意味な作業のように思える.

業者の問題作成に関わっている人たちにはこのような無意味な問題形式を真似た作問をしないことを願いたい.センター試験作成者は個別の問題の精緻な分析をすすめ,今年のこの問題の妥当性について謙虚に見直していただきたい.生徒の英語力を的確に検定していないと思われる設問形式については潔く捨てる決断力を持っていただきたい切に願うところだ.