高校入学時には,まず紙の辞書を

 平成17年新学期をに向けて 辞典協会

紙の辞書VS.電子辞書

長野県伊那北高等学校教諭

 いうまでもなく辞書は英語学習において重要な位置を占めている。新学年を立ち上げる時にはどのような辞書を、どのような形で生徒に推薦するかは大変重要だ。数ある優れた英和辞典から推薦辞書を決めるのは難しい。さらに最近では電子辞書という新たな選択肢が加わった。英語科では本校2003年度生に対して従来の紙の辞書を中心に推薦したが、国語科では電子辞書を選択肢に加えて推薦した。その結果、新入生280名に対して電子辞書が200台以上購入された。教室では電子辞書が使われることが多くなった。
2004年度の推薦辞書については、このような状況からどのような選択肢を生徒に提示し、その後の授業でどのような指導をするか逡巡した。研究室に訪れる出版社の方に様子をうかがうと、英語科での新入生に対する電子辞書の指導については次の3通りがあるようだ。

  1)電子辞書は持ち込み禁止
 2)積極的に電子辞書を推薦しないが、容認、もしくは黙認
 3)電子辞書も紙の辞書と並列して推薦

聞くところによると、電子辞書の県別売り上げ台数で長野県は全国3位とか。長野県は全国でも上位に入る電子辞書推進県のようだ。10数冊の辞書その他を搭載する昨今の電子辞書では英語科だけの判断とはいかず、他教科の意向も反映しなければならない。特に国語科からみると電子辞書の登場は歓迎する状況だ。これまで、使用頻度が低かった国語、古語、漢語辞書の利用率が上がったからだ。電子辞書の功罪について十分検討する時間もなく,電子辞書が確実に教室に入り込んでいる。

 5、6年前の指導は楽だった。電子辞書は1語1訳のそれこそ電卓並みの性能。「こんなのダメだ!」と使用禁止もできた。ところが、英語上級者の使用にも耐えるような辞書が搭載されるようになり、機種によっては英和辞典を数種、さらに英英辞典や活用辞典まで備えるようになって状況は一変した。もう内容にけちをつけることができなくなったのである。机の場所をとらず、英単語をひくだけでなく、漢字や和英、さらに百科事典的な使いかたもできるようになった電子辞書を全面否定することは難しい。

そこで、2004年度生については将来的には電子辞書も容認することを前提に紙の辞書を推薦することにし、20年ぶりに複数の辞書ではなく、統一した一冊を推薦した。その理由は生徒が電子辞書を使用することになれば、語数の多い中級者向け辞書を紙の辞書で持つことは必要なくなるだろうと判断したこと。紙の辞書は辞書入門と位置づけ、辞書の読み方の指導に重点を置くことにしたことからである。いわば第2の参考書として利用して、辞書を読むという態度を身につけることに特化したのである。

  そういった観点から某社の最も標準的な学習英和辞典を選定した。あまり厚くなく、基本語の説明が手堅く、充実していて、授業中に読み合わせることができるというのがその理由である。学年の担当者間で、授業中一回は全員で辞書を引く機会を設けることを決めた。これは辞書の使い方を身につけるには、まず紙の辞書で熟達し、「辞書を読む」という習慣をつけるのが必要だと判断したためである。ただ、未知の単語の意味を確認するためならどんな媒体でも問題ないだろうが、数ページに及ぶ記述がなされている基本語の全体像をつかみ、必要とする記述にいきつくには、電子辞書より紙の辞書である。そういった場面での使用を通して、紙の辞書の利点も実感してもらおうという意図である。現在の普及版電子辞書では、発音はせず、カラーではなく、イラストも表示されない。しかし、こうした機能もまもなく普及版電子辞書で実現されるだろう。それでも紙の辞書にこだわるのは、辞書を読む楽しみ、偶然開いたページでの思いがけない発見、といった辞書本来の持つ魅力が紙の辞書を通してより体感できると考えているからだ。生徒には状況に応じて辞書を使い分けるような能力も身につけて欲しい。

(2005年4月) 「第三回 学習辞典推薦キャンペーン」