これは旺文社から英語教師用に無料で配布されている情報誌,Interactive vol. 19に掲載されたものです。
テーマはリスニング指導と文法指導の融合。すぐに書けると思ったのですが,なかなか筆が進まず嫌々書いた感じがあります。編集の方もそんなところを察知したのか,実はかなり添削を受けました。タイトルからして,「生徒に完ぺきを期待しない」と穏当なものになりました。
本校のListening授業
本校では2年次に選択科目としてオーラルコミュニケーション時間枠が設けられている。週1コマの授業を学年のほぼ80%の生徒が選択した。1週に1時間のOCを3週で1クールとし,1時間をALTとのTT,2時間を市販テキスト[1]を利用した授業を行っている。
OCの授業のListeningでは,通例授業の冒頭に10分程度で学習するように編まれた教材の2課分を65分かけて演習している。まだ始まったばかりで,試行錯誤の連続だが,生徒にとっても,また教師にとってもListeningに特化した65分はなかなかハードな時間だ。
この授業ではまず冒頭に放送を1回聞いて問題を解く。この時は,”Concentrate! You can listen to the tape only once. You can never listen to it again. Concentrate!” と連呼して問題に突入する。
これからは精読ならぬ「精聴」に入る。「精聴」とは私の造語であるが,英文読解にも速読と精読があるようにListeningにもざっと聞いて問題を解く「速聴」と1文1文正確に理解する「精聴」のバランスが大切だ。速聴ばかり繰り返していると,「なんとなくわかる」という段階からの脱却は難しい。
この精聴の時間にはいくつかのパターンを試しているが,いずれの場合もここぞという1文はDictationをすることになる。
Dictationでは3回ほど該当の部分を書き取るポーズを与えながら再生する。その後生徒同士でチェック。さらに再生。生徒同士でチェック。この段階でもまだ完成することはまれ。黒板にほぼ全員が書き取れた部分を板書し,まだ書き取れていない所を空所にしてさらに聞く。最後に残る部分は,大体次の3パターンに分類できる。
1) Please (feel ) (free) to give us call.
多くの高校2年生はfeel freeを知っているだろうが,定期試験としてして出題した書き取りでは成就率は10%ぐらいだった。これは既知の単語と実際に聞こえる音が乖離しているためだ。今後演習を通してできるだけ多くの単語と実際の音と結びつけることが必要だ。
2) If you’d like to go, call me, and the ticket (will) (be)(yours).
機能語を含む句は時に弱く発音され1語に聞こえる。ここは文法知識の出番だ。will be yoursの部分は速く発音されれば何回聞いても「ビゆズ」ぐらいにしか聞こえない。どんなに物理的に音を追っても3語には聞こえてこない。文法的な知識や意味を考えて,「ここには○○の単語が来るはずだ」と予測して聞く必要がある。Try to listen using your knowledge and intuition!が私の生徒へのアドバイスになる。品詞を予測したり,前置詞を補ったりする基礎的な文法を有効に使える場面だ。
3) I got a baseball game ticket for next Saturday, the (Cincinnati Reds VS ) the Chicago (Cubs).
問題となる部分は通例設問部分にはならない。しかし,どこの試合を見るかは実生活では重要な情報のはず。クラスの野球部の生徒全員にしつこく聞いたが最後まで Cincinnatiは聞き取れなかった。ここでの私のアドバイスは「知らない物は何度聞いてもわからない!」だ。If you don’t know the word, you can never figure it out. Just give it up! 読む時と同じで品詞の予測,さらにおおよその意味の推測をするしかない。語彙力をつけること,固有名詞だと判断できる力が求められる。
下克上のListening
Listeningやspeakingはいわゆる学校で実施される筆記テストとの相関が低い。最近実施した定期テストのうち,独立して40分にわたって実施したListening Test (80点満点)と英語U,Writingのテストとの相関をとってみた。英語UとWritingの相関係数は0.8。それに対して英語UとWritingの平均とOCのテストととった相関係数は0.5。
この相関のなさが教室内ではどういうことかというと,普段の筆記試験を不得意としている生徒がDictationやListening問題では正解率が高く,普段は高得点をとっている生徒がことListeningに関すると平凡な成績になる逆転現象が起きることを意味する。このため,Dictationで書き取った単語や文をペアでチェックすることが有効になる。どの語を聞き取れて,どの語が聞き取れないかは個人差がかなりあり,それはいわゆる筆記の学力とあまり相関がないので思わぬ生徒が活躍することがある。また,聞き取れた,聞き取れないは即物的な演習で,極めてはっきりした活動なので,creativeではないが,受け身になりがちなListeningの授業を活性化する手軽だが有効な活動だ。
私のリスニング力
その昔,いつか映画やテレビドラマが英語ではっきりすっきりわかる日が来ると思っていた。ところが,そんな時は来ない気がしてきた。
最近Region 1(北米のDVDコード)も再生できるDVDプレイヤー[2]を購入した。これとAmazon.USAでテレビ番組をBox Setで購入すると安価に多量のDVDソフトが視聴できるようになる。「ザ・ホワイトハウス」(The West Wing)[3]を購入して見たが,その機関銃のように話される,背景知識を多量に必要とする英語には苦労した。科学特捜班(CSI: Crime Scene Investigation)も見たが,こちらは科学用語が頻出し,辟易。
私にとって英語は未だはっきり,すっきり聞こえてこないが,Listeningの換算が甘いTOEIC.IPのScoreは数問は確実に不正解であったのに,スコアだけは495[4]だった。おそらく日本で英語を勉強した平均的な日本人の英語の聞こえ方はこんなものだろう。そこで,生徒にListeningに関して話す時は,次のようなことを言うことにしている。
「日本で英語を勉強したら,英語がはっきりすっきり聞こえてくることはありません。私なんか今でもはっきりなんか聞こえません。うまく聞こえた時でも,障子越しに隣で日本人同士が会話しているのを聞く感じです。大切なことはこの不快感に慣れることです。聞こえてくる英語に身をまかせ,文法や語彙,使える物は何でも使ってこんなこと言っているのだな,と遠くで感じるのです。」
[1] HyperListening Intermediate (桐原書店)
[2] EVER GREEN EG-DVDP2200C 7000円前後の価格で,Region Free (どの地域のDVDも視聴できる)で,pal方式(ヨーロッパや中国のテレビ),NTSC方式(日本や北米のテレビ)いずれのDVDも視聴できる。
[3] たとえば,The West Wing Complete First SeasonならSeason 1(全22話)で,$65。
[4] ご存じの方も多いだろうが,Listening Sectionのfull scoreは495であるが,様々な問題集によれば,100問中93,4題の正解でfull scoreになる
interactive Vol. 19 旺文社 2005年7月10日