戻るパソコンの英語教育への活用について

 (「英語教育」,大修館書店,1984年6月号)

1.パソコンと英語教師               

2.パソコン利用について

(A)成績処理

(B) 各種統計

(C)英語研究・研修の道具として

(D)教育用プロゲラムの点検と開発


はじめに

 

パーソナル・コンピューターいわゆるパソコンが世にでて5,最近では40万円程度で数年前までには考えられなかった高性能機が手に入るようになりました。パソコンの低価格化によりマイコン少年が登場し,各学校にもちらほらとパソコンが導入されはじめているようです。(長野県ではほぼ1校に1台ずつの導入が完了,今年からは10台単位での導入の計画もあるようです。)パソコンと教育というとすぐに英語と数学への利用が語られます。現に我々英語教師のあずかりしらぬところで,英語教育ソフトが作られ,販売され,かつ教育ソフトの売れすじになっているようです。筆者の知る限りでも3つのソフト会社がすでに,New Horizon, New Crown, New prince各教科書に準拠したソフトの制作を完了し,15,O00円程度,全巻で3万から4万円で発売されています。

 このようにからめてで英語教育とパソコンの結びつきが深められているのが現状ですが,英語教師がパソコンに取り組むことの趣味的響き,文系であるため数学教師が積極的にかかわっているのを傍観しているのが現実ではないでしょうか。本県での非公式な調査でもパソコンを所有する教師はかなりおりますが,英語の教師となると5人に満たないのが現実のようです。

 今回は2年という短いかかわりですが,私の英語教師としてのパソコンの活用方法について報告します


1.パソコンと英語教師

  まずはじめに英語教師はパソコン修得の最短距離にいるのだということを強調したいと思います。その理由の第一は大部分の教師が英文タイプを使いこなせることです。パソコンが中年以上のサラリーランのあいだでもてはやされながら,脱落者が多いのは,ーボードのアルファベット配列に拒否反応をおこすからです。英語教師はまちがいなくこの壁を乗り越えられます。第二に現在パソコンを動かすのに支配的な言語はBASICといい,アメリカの若者によってつくられたものです。この言語はしたじきに英語を用いでいます。PRINT,IF THEN,INPUTなどといった基本的命令はともかくSTRING,SWAP,VAL[UE]といった命令になると英語の知識がものをいいます。また,エラー表示もSYNTAX ERRORなどといわれてピンとくるのも英語教師ならではと思います。

 

[図はBASICによる集計プログラムと,出力結果] 
 


2.パソコン利用について

 パソコンを論じるとき,いつでもつきまとう問題は「パソコンはいったい何ができるのだろうか」ということです。現在パソコンの利用範囲が限定されていない以上これについて明確な解答を得るのは不可能でしょう。ともかく試行錯誤でできることを見つけるしかありません。

 ここでは私が現在までやってきて英語教師としてできそうだと考えたり,おこなってきたことをあげます


(A)成績処理

 

 学年とか学校全体ではすでに多くの学校で行われていることだと思います。英語科の場合,小テストは避けて通れないものであり,この処理には苦慮しているのではないでしょうか。私のばあいは,定期テストだけ残し,あとは最後にはゴミ箱行きという状態でした。各評価に活かすかどうかはともかく,いったいどういう流れをとっているのか,個人的にはふだんどうなのだろうか,ということを見るにはパソコンは最適です。データの入力さえすれば各回,各個人の平均,グラフなども出力してくれます。私の場合もすでに100回を越えようとしている小テストのまとめに利用しております。また各学期末には添付したような個人真を作成し,生徒にフィードハックしています。まさしくバソコンなくしてはできなかったことです。 


(B) 各種統計 

 本誌においてもよく各種調査が行われその結果が発表されますが,その労力は大変なもので,なかには,それにかける時間が大部分を占める場合もあるのではないでしょうか。これもデータの入力さえできれば,パソコンがきれいにやってくれます。添付の表は2回にわたって行なった基本動詞の変化の定着度を調べたものです。誰がどの単語ができないのか全体にはどの動詞が弱いのかということが,2枚の表でわかリます。この種のソフトは数も多くだされています。統計にかかわる単純作業をなるべく軽減することによって,結果の分析,対策に時間が1かけられるのではないでしょうか。


     (C)英語研究・研修の道具として

  原書や雑誌を読んでいるとかならず,わからない単語,知らなかった表現,めずらしい表現に出会います。また英字新聞など読んでいるとThe more...,the more ...といった表現に授業と時を同じくして出会ったりします。そういった英文を書きとめたりするのですが,カードはたまるばかりで,頭脳には定着せず,必要な時にはみつからずと,悪循環です。そこでこういった表現を随時入力し,必要な時にとりだしたり,テスト形式で定着を図ることも考えられます。私は最近アルクから出版された語い力診断テストを入力し,自己診断できるようにしました。これは220問を60分で行い,2,000語レベルから14,O00語レベルまでの7段階について,正答率とまちがえた問題をPRINT OUTするものです。同僚の先生方にもやっていただきましたが,大変好評でした。他にもさまざまな自己訓練および,Bとくみあわせて研究用に利用できるでしょう。

 


(D)教育用プログラムの点検と開発

  多数の教育ソフトが発売されています。1巻が3,000円も5,000円もするとなるとなかなか買う気になれません。また,このような,業者によって制作されたものにはいいかげんなものがあるといわれます。私たちにプログラムについての知識があれば英語の専門家の立場から批判を述べることが可能だと思います。家庭を対象にした低価格のパソコンに共通の仕様ができました。これはステレオのごとくパソコンを普及させようというものです。その目玉商品として英語学習ソフトがとり扱われるとしたら,私たちがその質を点検する立場にあります。

 また将来各校に教育補助としてパソコンが導入されることがあれば,外部からの言葉に振りまわされずに主体的にパソコン活用の道を採れるのではないでしょうか。

 情報化社会到来と騒がれている時なので,そろそろ英語教育界においても,コンピューターの普及にともなう波及効果について論じられてもよいのではないかと思い,筆をとりました。