1988

噴煙第8号 パソコンシンドローム

 Might & Magic (Role Playing Game)

  1. 第1章 旅立ち
  2. 第2章 戦い
  3. 第3章 終焉

第1章 旅立ち

X月X日(水曜日)

 今日ここヴアーンの国、ソービカルの町へ到着した。ここへ我々は何をしに来たのだろうか、いったい何を好き好んでこの町へと降り立ったのだろうか。いや、そういうことは問うまい。何故生まれてきたのか、何故生きるのか、ということは問うてはならないのだ。

 元来私は顕花は嫌いだ。小学校5年生の時、何かのきっかけでクラスの男子と掃除中に喧嘩をした。体格に恵まれているだけでなく、力も異常にある彼に私は教室で馬乗りになられた。入道のようなその子をなんとかはねのけるとか、動かすとかしたいのだが、岩のように動かない。私は悔しくてしょうがなかったけれど、なんともならなかった。小学校6年の時にクラスの民主化(ガキ大将を中心としたグループが女子の胸をやたら触ったり、パンを買わせたり−今では一緒にやっておけばと思うのだが)を求めて決闘をした。時刻を決めて隣地区との境のたんぼに集まりにらみ合った。隣のクラスの子供たちは爆竹を鳴らして威勢をつけてくれた。しかし、10分も経たないうちに私は友達と一緒に土手に座って泣きじゃくっていた。特別痛かったり、怪我をしたりしたわけではない。わけもわからずただ泣いていた。それ以来喧嘩はしていない。喧嘩をしてもとうてい勝てないと思うからしないことにしている。生徒も殴ったことがない。もし、生徒が逆襲してきたら勝てないと思うからだ。

 その私がなんの因果でこんな国に来てしまったのだろうか。私のほかにはまだ見ぬ息子永(ひさし)。永は騎士になる道を選んだ。私の後ろには妻のあやか。彼女は射手である。正確な弓さばきで我々を援護してくれるはずであるが、最近私が射られるのではないかと恐れている。その隣には弟の健。口数は少ないが敏捷さとすばやさでは右に出るものはいない。そして最後列に並ぶのは魔術師の道を選んだまだ幼いあすき。まだ未熟で我々がヴァーンの国のどこにいるか言い当てることしかできない。そして隣には従姉妹のみずき。彼女は高貴な僧侶の道を選んだ。

 我々の背負い袋にはカロリーメイトのような乾パン20切れが入っているにすぎない。このヴァーンの国にはほかに食べ物らしい物は何もない。これ1切れで1日生きられるのだから安いものだ。着ているものは粗末な衣類一枚、手には木でできたすりこぎのような棍棒だけである。

 とにかくこの国での生活が始まった。しばらく、「何故」「どうして」とは問うまい。


第2章 戦い

X月X日(土曜日)

 ソービガルの町で何日か過ごした。この国にはおよそ人間らしいものが存在しない。もの言わぬ善良な町民もいるのだろうけど、たいてい善良な町民とは目だたぬ存在で我々と関わりあうのは避けているのだろう。無愛想な主人のいる宿屋のほかには$5で40日分の乾パンを売って生活している食糧屋。いまはとても手のでない武器や盾、鎧を売っている武器屋、少し遠いが我々に訓練をづけてくれる訓練場と病や傷を治してくれる寺院がある。そのほかにも家は存在するが我々に顔をみせはしない。万事金が力のこの世界では金を通じてしか関わりを持てないのである。

 この町は危険きわまりない。一歩宿を出るとそこは金と力だけがものを言う無法地帯である。道理をわきまえぬ怪物、怪獣、化物が俳諧している魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界である。百鬼夜行とはよく言ったものでそのままのことがこの世界では起こっている。昨日もようやく分かりかけた地図を片手に町の西北へ行くと死にかけた骸骨と人食い鬼の集団に会った。彼らになんの動機があるわけでない。我々だって彼らと戦う動機なぞあろうはずがない。しかし戦いは否応なく始まる。私と永は先頭に立ってただただ棍棒を振り回す。そのうちのいくつかは骸骨に当たる。あやかはひたすら、まだ覚えたてのパチンコで後ろから攻撃する。健は残念ながら戦いでは活躍の場はない。ひたすら防戦に努めている。あすきはまだ幼いがそれでも、「祝福の呪文」すなわち我々の攻撃が少しでも正確になるようにと祈っていてくれる。何故戦うのか。何故このような殺戮を繰り返さなけれぱならないのだろうか。そのことは問うまい。骸骨にも人食い鬼にも恨みはない。彼らこそ静かな生活を邪魔されて怒っているのだろう。しかし、この戦いは止められない。やめればそれは即我々の死を意味しているからだ。永も私もかなり傷ついたが、目の前の怪物たちも目に見えて疲労し中には気を失うものも出てきた。渾身の力を込めて棍棒を振り落とすと最後まで抵抗していた人食い鬼もようやく倒れた。

 あたりには彼らの武器が散乱し、見るも無惨な光景が繰り広げられている。さっそくみずきは我々の治療を始めた。健の出番はこれからである。彼の得意とするのは罠や鍵を開けること。まだ、未熟な彼は失敗することもあるがとにかく彼に任せるしかない。人食い鬼の持ち物を捜すと案の定、何か入った袋が見つかった。健の指先がすばやく罠をつきとめていく。硫酸の罠だ。硫酸の入った袋が巧妙に仕掛けられ不用意に開けると硫酸が我々に飛び散る仕掛けである。健はまだ安心して見ていられないがなんとかこの袋を開けた。中にはこの国で通用する金貨が数枚と役に立つか分からない短剣が一本入っていた。この戦いで我々はこの世界でいくらか成長したかも知れない。何がしのお金も手に入った。我々が手にしたいと思う武器や鎧を手にいれるにはこのような無益な戦いを後どのくらい繰り返さなければならないのだろうか。そして、この戦いを繰り返す人間世界では確実に沈滞し退化してしまうだろう。しかし、この国へ来た以上もう戻るわけにはいかない。
 


第3章 終焉

X月X日(冬休み)

 この国へ来て3年になる。この国の時の流れは大変奇妙である。我々は日に1度しか食事をしない。あの乾パンをだ。我々は寝たいと思うときに寝る。時には寝込みを襲われることもあるがたいてい無事に朝を迎え一晩にして体力も、傷も元通りになる。あっという間に一日が終わることもあれば、長い一日もある。年をとるのも人によって違う。私はもう5才も年をとったが娘のあすきはつい昨日3才の誕生日を迎えたばかりである。娘のあすきは物覚えが悪い。一つのことを覚えるのに人の倍はかかるようだ。しかし、いったん覚えるとしっかり頭に入るらしくてそれをしきりに使いたがる。3才の誕生日を迎え今年から「飛行」の呪文を使えるようになった。この呪文のおかげで我々はやっとこの小さな町ソーピガルから他に4つあるという町にも行けるようになった。単調な戦いの明け暮れの後ようやく我々もこの住み慣れたソービガルの町からヴァ−ンの国を旅できるようになったのである。

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X月X日(成人の日)

 あれからどのくらい経ったのだろうか。もう私にとっては三〇年の月日が流れ去っている。永もあすきもりっぱに成長した。永はクレタ島元祖迷宮に棲むというミノタウロスを昨日は一撃で倒してしまった。あすきは隕石の呪文を覚えて久しい。この呪文を彼女が唱えればどんなに怪獣がいようともたちどころに倒れてしまう。彼女はまだ十八の年頃だというのに岩山で飛竜(ワイバーン)の群れに会うと喜々としてこの呪文を使う。思えば生まれてこのかた戦いの連続、戦いの中で育った彼女は飛竜のような怪獣をなんとも思わないらしい。この国には色々な怪獣がいる。3日前には初めてキメラに会った。ライオンの頭・山羊の体・へびの尾を持つこの怪獣は遠くギリシャ神話の世界でベレロフォンに倒されたそうだが、今度は我々の餌食となった。そういえば殺戮に次ぐ殺戮を繰り返したせいで最近ではドラゴンや吸血鬼でさえ我々を見ると逃げ出してしまう。

 我々は一体何の為にこの国へ釆たのだろうか。この国にあるという6つのお城を訪ね3つの城主の願い事を忠実に聞いてきた。北壁の城の王は自分の好きな酒の材料としてメデューサの首、飛竜の目、ドラゴンの歯まで集めた。南壁の王の為にはアフリカの傭兵よろしく反政府分子の討伐にあたった。考えるとどれもこれもまともな使命とは言えない。ただ金の為に自分たちの尊厳を辱めることをして多大な時間を浪費してしまった。

X月X日(水曜日)

 我々の旅もとうとう終わりに近づいた。この世界の創造主のメッセージも集まりようやく我々がこの国へ降り立った理由がわかった。多分明日このカードを持って行けばこの30数年に及ぶ旅も終りを告げるだろう。殺戮を積み重ねてきた我々には風格に似たものが備わり始めているが、それには十分すぎる血の臭いもしみついている。しかし明日でこんな生活におさらばである。最近になってあすきから呪文を習っているあやかは私に催眠の術と敏捷の術をかけようとしている。この呪文にかかると私の行動が一時的に早くなり宿でのふとんの上げ下ろし、町での買物に役に立つと言うわけである。

 とにかく今日はもう寝よう。明日には創造主から我々ヘメッセージがあるはずだ。古今東西の怪物、怪獣、化物そして暗殺者、吸血鬼の冥福を祈ってもう寝よう。