怒れ! 英語教育関係者

          「欠陥英和辞典の研究」の怒りの手紙 

          (英語教育 1990年1月号)

                

       先日,「欠陥英和辞典の研究』(副島隆彦 & Dictionary-Busters ) (別冊宝島102) (JICC出版局) という本が出されました。表紙にずたずたにされた新英和中辞典第5,ライトハウス英和辞典(共に研究杜)が示すように,露骨な英語辞書編集者及び研究社への挑戦の書です。この本は著者のひとりよがりと独断・偏見に満ち満ちた「こげおどしまがいのもの」でした。

 私はさっそく出版社に「以下の点でこの本を出版したことを深く恥じるべきである」,という手紙を出しました。

 

* 随所にみられる中傷,揶揄,著者の曲がった人生観は辞書について冷静に検討する以前に読者の心理的障害となる。

* 勝手に英和辞典のあるべき姿を設定して.それにそぐわないものをあしざまに非難している。

* 最初に「ライトハウスたたきあり」という「売らんかな主義」が見えかくれしており,ライトハウス固有の問題に絞れていない。

* 他の英和辞書と精緻に検討する事なく,まるでライトハウスだけが取り上げているような記述が目立つ。

* 著者の独断で「造語」「造文」と判断しているが,他の辞書を参照せずに思い込みが強い。

* 近年の語法研究の成果を全く無視している。

* 英英辞典を参照している.といっているが,全く読めていない。

* 自分の貧弱な読書体験だけで,「使われない」と判断している。

 

 というようにこの本自体は全く取るに足らない本であります。そこでこころある人はこの本をまともに取り合わない可能性があります。しかし,全国紙に大々的に広告を打ち,かなりの高校生が使用している上記辞書は欠陥である(「全英文例文のうち約20%,使いものにならない」〔12べ一ジ〕〕という印象を何も分からない高校生に与えてしまうのは,問題だと思います。この本を「問題にならぬ」と一蹴するのが分別ある大人の立場だとは思いますが,予備校講師によるこれほどの欺瞞に満ちた英語観はやはり徹底的にたたいて欲しいと思います。この本を買うまでのことはないでしょうが,「英語学者と呼べない連中が作った辞書だ」などと思い上がった著者に対しては正々堂力と完膚なきまで,その誤った言語観を正してあげるのがよいと考えます。そうしなければ.この種のセンセーショナルであることだけが取柄の本が次から次へと登場するでしょうし、「欠陥辞書」と断言された辞書を使用している英語学習者は浮かばれないと思います。