1990年に数研出版からChart Networkとい英語通信が発刊されました.その1号か2号に慶応大学の高橋先生から「名文は無用」という記事が発表されました.大学入試の英文を当時,少し注目されていた英文解析ソフト(語数のほかに英文の難しさをいろいろな指標によって分析するソフト.受身が○○%で英文に力がない,といった分析もされました.
 当時,慶応の理工学部の問題に強い反感を抱いていて私はさっそく高橋先生にあてつけのような文を投稿しました. 

同感!「『名文』は無用!」

                               1990年 Chart Network No.5   

投稿第1の理由        
投稿第2の理由
入試英文の特徴(1)
入試英文の特徴(2)
英文分析ソフトによる「入試英文出力例」


CHART NETWORD N0.4 高橋先生の「英語入試問題を考える:「名文は無用!」は2つの点で興味深かったので、思わず投稿します。

 

投稿第1の理由

 第一は高橋先生の勤められる慶応大学の入試問題について、昨年より疑問を持っていたことにあります。まずは、次の問題を見て、解答して下さい。

 

次のア〜オの人物の言葉となるように(  )内の語句を正しく並べかえ、番号で記入しなさい。大文字や句読点については考えないでよい。

ア. A woman tired out by family and others cares.

(1.wings like a dove  2.and be at rest  3.oh, that I had  4.would I fly away 5.for then)

イ. A man well knows our wealth and possessions will be of no use to us when we are dead:

(1.we can carry  2. we brought  3. and it is certain  4.nothing into this world  5.take)

ウ.A person who firmly thinks the pen is mightier than the sword: 

(1.they that  2. the sword  3.with the sword  4.shall be killed  5.take)

エ. A schoolmaster telling his students not to do evil deeds:

(1.lives 2.that men do  3.after them  4.the evil)

オ.A man who suddenly becomes well known to the public:

(1. one morning and  2.myself  3. I awoke  4.famous  5. found)

いかがでしょうか。

並びかえ自体はそれほど苦労せずにできるかもしれませんが、できあがった英文を見てどのような感想を持たれるでしょうか。

 一読して、たたけば埃のでる古い英文であることはあきらかです。英語教師=英文学専攻という時代のかたがたには懐かしい英文として、遠き昔を思い出されるかもしれません。

 いずれの言葉も出典を明らかにすることができる名言だそうですから、英文学に造詣の深いかたにはその出典を明らかにすることが出きるかもしれません。そういう意味では「英語を専攻する」人の常識ともいえるでしょう。

 ところがこれが1990年入試の理工学部で出題された問題となると、様相は一変します。将来理学・工学を専攻しようとする学生に大学はいったいこの問題で何を問いたかったのでしょうか。

 

 高橋先生が述べておられるように大学入試は高校の教育現場に多大な影響を与えています。大学入試の登場する英文、出題が大学の高校生に求める英語力に一つの目標を提示している面もあります。多くの生徒達が入学試験でより高得点をめざして学習している現実がある以上、入試突破でつちかった英語力がその後の学習、活動の力となるものでなければなりません。しかるに理工学部という特定の学部で英語専攻者もその出典を断言するのが怪しいような「名言」を提示する必要があったのでしょうか。うがった見方をすれば、出題者の極端なまでの個人的な趣味で出題内容が決定されているようにみえます。 大学側から「名文は無用」と発言されて、こころから「その言葉を待っていました」と声援を送りたい気分です。さらに数学などでは高校の教師と大学入試出題者が一同に会して入試問題の批判検討を定期的に行っているそうです。英語でもそのような場を設けて、高校教師が直接出題者の意図を確認し、注文をつけられるような場が設けられればよりよい入試問題ができるのではないでしょうか。

 


投稿第2の理由

 

 第2に高橋先生が触れられたRightWriterについて筆者も最近試用する機会がありましたので、その報告をします。

 高橋先生も紹介しているように、「いかに説得力のあるビジネス英文を書くか」という観点から英文を分析するこのソフトでは、ある英文を「難易度(readability)、説得力(strength)、表現(descriptive index)、語の使い方(jargon) の4点から指標を提示し、最後にアドバイスを付記するソフトです。(慶応入試問題の分析を参照)

最近、過去4年間の大学入試問題中、科学的英文40題を検討する機会がありました。これは自分なりに科学的視点から多岐に渡る読み易く、高校生に理解しやすいと思う英文を選定したものです。たまたま試用できたRightWriterでこの英文を分析してみると、いくつかの特徴的なことがありました。


入試英文の特徴(1)

  まずREADBILITY INDEX(高橋先生の言をかりますと11th grade で「大学で4年間英語を勉強する必要がある」という目安になりますが)は次のような内訳になりました。

       3rd  -   1             10th - 9

          5th  -   3             11th - 5

          6th  -   2             12th - 2

          7th  -   4             14th - 1

          8th  -   2

          9th  -   9             平均 9.4

 RightWrighter で推賞しているreadability は 7th gradeから11th gradeですから、おおむねその中に入っていますが(11th gradeで日本の大学終了程度!)、14th レベルと診断された英文が出現した時にはいささか驚きました。選んだ英文は「読み易い」という観点から選定したもので、自分ではそのように判断していた英文の一つであったからです。

もっともこのソフトでは1文が長いことを極端に嫌いますので、大学入試問題では常識的な1文40語から70語という英文を20語程度の英文に書き直すことによって、14th gradeでも簡単に9th gradeまで下げることが可能です。


入試英文の特徴(2)

  分析して気になったのは、readabilityよりstrengthです。英文の受け身の出現頻度、曖昧な単語の試用頻度(thingsといった単語)、逃げていると思われる表現(It seems, perhaps, it is likely..)で決定していると思われるこのインデックスは10点法であらわされます。試しに英語Uの英文を2つ分析したところ0.65という似た数字が提示されましたが、上記英文中ではStrength Index 0と表示された英文が12(約3分の1)ありました。0.2以下の6つの英文を加えると半数近くの英文が「受け身の多用・曖昧な単語、表現の頻出」という結果です。科学英文といっても未来の話、古来の話、宇宙の話、と断言しにくい分野の英文を含むということもありますが、中には厳密に事象を記述、紹介する英文も含まれているわけですから、受験生はいかにも弱々しい英文を日常的に読まされていることになります。

 繰り返しになりますが、ここで選定した英文は相対的には読み易い(1文が短い、論旨が明確)英文の範疇に入ると考えています。もっとわかりにくく、難しいとされている英文を分析をしたらどのようになるでしょうか。大部分が Readability Index 14th,Strength Index 0ということになるでしょう。

 このソフトに全幅の信頼をおいているわけではありませんし、前述したように何を指標に分析しているか分かればソフトが推賞する英文に書き換えることはさほど困難でありません。さらにできあがった英文が原文より格段に読みやすいかというとそういうわけでもありません。

 しかし、いかにもアメリカ的なこの英文分析ソフトは英文というとらえどころのないものを数値で表し、助言を与えるという普段の英語教師では持ち得ない新鮮な視点を与えてくれます。


 

英文分析ソフトによる「入試英文出力例」

 

Oh, that I had wings like a dove for then would I fly away and be at rest.  We brought nothing into this world and it is certain we can carry nothing out.  They that take the sword shall be killed with the sword.

    <<* S1. PASSIVE VOICE: be killed *>>^

The evil that men do lives after them.  I awoke one morning and found myself famous.

 

                     <<** SUMMARY **>>

 

Overall critique for: b:keio.jdw

Output document name: b:keio.OUT

 

READABILITY INDEX:  3.25

 

    4th        6th       8th       10th      12th      14th

      |*   |    |    |    |    |    |    |    |    |    |

    SIMPLE      | ------ GOOD ----- |               COMPLEX

    Readers need a   3th grade level of education.

 

STRENGTH INDEX:  0.62

 

    0.0                      0.5                      1.0

      |****|****|****|****|****|****|*   |    |    |    |

    WEAK                                           STRONG

    The strength of delivery is good, but can be improved.

 

DESCRIPTIVE INDEX:  0.79

    0.1                 0.5                 0.9       1.1

      |****|****|****|****|****|****|*** |    |    |    |

    TERSE  | ------------ NORMAL ------------ |     WORDY

    The use of adjectives and adverbs is normal.

 

JARGON INDEX:  0.00

 

SENTENCE STRUCTURE RECOMMENDATIONS:

     7. Most sentences begin with pronouns.

        Try using other sentence start conditions.

 

                    << WORDS TO REVIEW >>

Review this list for negative words (N), jargon (J),

colloquial words (C), misused words (M), misspellings (?),

or words which your reader may not understand (?).

           evil(N)  1                   killed(N)  1

        nothing(N)  2          

              << END OF WORDS TO REVIEW LIST >>

                   <<** END OF SUMMARY **>>