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2 本来の観光とは何か?

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 京都は日本の代表的な観光地であるとか、これからの京都は観光で生きていかなくてはいけない、とかいったりしますが、いったいこの「観光」とはどのような意味でしょうか。

 『易経』に「観国之光、利用賓于王、」(国の光を観る。もって王に賓たるによろし)とあって、「観光」のことばはこの「国の光を観る」から来ているといいます。国の風土を観て、その国の王に仕えるのがよい」といったような意味らしいですが、少なくとも現在使われているようなリクレーション的な「観光」とはずいぶんニュアンスが違うようです。表面的な風景や史跡の見物・見学といったようなものではなく、その背後にある風俗や制度、生活、歴史といったその土地の本質的なものを洞察する、といったニュアンスが強いように思います。

 いわれてみればたしかに、現代の観光は名所旧跡の眺望、寺社の堂舎や庭園の見物と寺宝の拝観、その途中での名物の賞味と土産の買い物、温泉に宴会、といったものが中心で、どちらかというと規定の観光コースにのせられているかの感があります。多くの人が観光といっているのは少し悪く言えば、お金を落とすように仕組まれた仕掛けで、それがまんざら嘘でもなくてしかもけっこう楽しませるようにできているのです。これは昔からあって、物見とか遊山とよばれていました。正確にいうと現在一般にいわれている観光は「観光」ではなく「観光業」といったほうがいいかもしれません。

 このような物見遊山はけっして悪いものではありません。わたしだってします。真剣に考える必要はないかもしれません。けれども気を付けなければいけないことがあります。人間の心理は不思議なもので、お金を取るとそれはいいもので、タダのものはたいしたものではない、という先入観がある、ということです。宣伝してガイドブックや雑誌に載ったり、車内ポスターに貼り出されたりすると、値打ちのあるものという気がするものです。仕組みに投資をするから広告を打たなければならなくなるのですが、それはけっきょく拝観料や入館料に跳ね返るし、その周辺の業者も恩恵を蒙るからますます盛り上がるのです。しかし、宣伝をしないものでもいいものはたくさんあります。無料で何気なくあるものでも一流のものはたくさんあります。北野天満宮でも本殿は安土桃山時代の国宝建造物で、華やかな欄間彫刻がきれいですが、参拝するのに別にお金はとられません。弘法大師空海をお祀りする東寺の御影堂は、南北朝時代の軽やかな国宝の住宅建築ですが、履き物を脱いで建物の中まで入ってお参りすることができます。それは信仰施設という価値観が優先しているからだと思います。これらが拝観料をとるいわゆる「観光地」に劣っているようなことは決してありません。つまり、わたしたちは「観光」という仕組みにうまくのせられているところがあって(なかには騙されている、というのもあります)、そこを考えてみるなら、いわゆる通俗的な「観光業」についてはやはり一度考え直して、より主体性のある「観光」を取り戻してみることもたいせつではないかと思うのです。

 

 わたしは、京都の大学で学生に、みなさんは京都の大学で京都の歴史や文化を学ぶ学生なのだから、もう一見さんの観光客からは卒業しなければいけません、とよくいいます。たとえば庭園です。京都の庭めぐりが好きな人はたくさんいて、あっちの庭を見てきれいだな、こっちの庭を見てこれもすばらしい、はじめのうちはそれでもいいのですが、大学で京都の歴史を学んだのだったら、そうして個別に見た庭園を、たとえば時間軸に整理するとか、系統立てて置き並べてみるとか、そんなふうに知識を軸に個々の経験を再構成することがたいせつだ、というのです。つまり自分の考えの中で経験を体系づける、ということです。そのためには、とりあえずその地域(当面は京都)の歴史を勉強する、ということは絶対に必要になると思います。

 一般向けの連続教養講座の中に「京都学」を標榜するものがあります。しかしそのほとんどのものは、京都の産業だとか仕事をしている人の自慢話のオムニバスになってしまっています。どうしても地域起こしや宣伝になる嫌いがあります。しかし「京都学」は本来学問ですから、京都とは何をしてきた町なのか、京都の何が人を引き付けるのか、そしてさらにいうならそもそも文化とは何なのか、わたしたちは文化とどのように関わっていくべきなのか、といった体系的なことを学ぶべきなのです。どうしたら地域の活性化ができるか、経済効果をもたらすことができるか、というのは次の問題で、あまり表層的なことにこだわると、京都の人々にはあるいは一時的な利益はあるかもしれませんが、京都に魅力を感ずる人にはいずれ見放されることになるでしょう。身近の利益を焦って、人々は京都に何を求めてくるのか、という人間の根幹に関わる心理の大動脈を見失ってはいけません。

京都駅は観光の入り口

 

 

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