Hail To The Thief
1. 2 + 2 = 5 (The Lukewarm.)
2. Sit down. Stand up. (Snakes & Ladders.)
3. Sail to the Moon. (Brush the Cobwebs out of the Sky.)
4. Backdrifts. (Honeymoon is Over.)
5. Go to Sleep. (Little Man being Erased.)
6. Where I End and You Begin. (The Sky is Falling in.)
7. We suck Young Blood. (Your Time is up.)
8. The Gloaming. (Softly Open our Mouths in the Cold.)
9. There There. (The Boney King of Nowhere.)
10. I will. (No man's Land.)
11. A Punchup at a Wedding. (No no no no no no no no.)
12. Myxomatosis. (Judge, Jury & Executioner.)
13. Scatterbrain. (As Dead as Leaves.)
14. A Wolf at the Door. (It Girl. Rag Doll.)
2002年6月から翌年2月までの作業で完成した「Hail To The Thief」は2003年6月にリリースされた。その間、いくつかのライブ・ツアーをこなし、同時並行でトムは3種類のデモ・アルバムの作成を続けていた。
それらに収められたかなりの数の楽曲からメンバーがそれぞれ厳選し、更に完成度を高めていくという作業の後に完成をみる。
当初は「The Gloaming」というタイトルでのリリースを予定していたものの、一説には2000年のアメリカ大統領選挙の開票を巡る騒動の中でブッシュを批判したスラングをそのまま拝借したとも言われているが、真偽は明らかではない。
このアルバムは全14曲・56分という彼等の作品中でもっとも長いもの。また、各楽曲には副題が付けられている点も注目される。
オープニングタイトルの「2+2=5」はジョージ・オーウェルの小説「1984」からの引用だが、実際は2+2が5だと信じ込ませようする資本主義社会への反発が歌われている。いきなりアンプにシールドを差し込むノイズから始まるこの曲は、前半は小刻みなリズムとギターのアルペジオをバックに静かな歌い出しだが、"BECAUSE"というシャウトからはレイディオヘッド独特のハードなサウンドに変貌する。「もっと注意を払うんだ!」と訴え続けるメロディーもピートも存在感充分なメッセージ性を感じさせてくれる。
続く「Sit Down, Stand Up」は"OK Computer"のセッションで作られていたもの。ルワンダ問題からインスパイアされている。リズム・マシーンがパターンを変えながら念仏の様なトムの歌を支えていく。副題は「悪賢い連中と野心家」。
「Sail To The Moon」はトムが息子の為に書いたラヴソング。歌詞中に出でくる"ARK"(箱舟)は息子の名前"NOAH"と連動していることでトムの想いが解る気がする。何とも摩訶不思議なサウンドで、まるで夢の世界に入り込んでしまったかの如き感覚が生まれる。
「BACKDRIFT」はシーケンサーとリズムボックスを中心としたエレクトリカル・ナンバー。「Go To Sleep」はスィフトの「ガリバー旅行記」をテーマにしたナンバー。トムがアコースティック・ギターをリズミカルに弾きながら歌い、終盤にはジョニーのチョーキングを多用したギターが絡み締めくくる。
「Where I End and You Begin」は生者必滅、輪廻転生を恐竜絶滅になぞらえ、やや感傷的に捉えた作品。幻想的な旋律をバックに変則的なドラムとベースのビートにジョニーのカッティングが冴えたギターがサポート。トムはこの曲を60年代にあのホルガー・シューカイが在籍していたバンド"CAN"を意識して作ったと証言している。実験的なアプローチにそのあたりがうかがえる。
続く「We Suck Young Blood」は、アフロ・アメリカンの労働歌をイメージして作られた。サウンドとしてはフリー・ジャズを意識しているそうだが、やはりレイディオヘッド独特の世界が顕然と存在している。「The Gloaming」は前述のとおり最初のアルバム・タイトルとして作られた曲。薄暮れ時の不気味な雰囲気と強迫観念的な恐怖を歌っている様だ。無機質な連続的ノイズをバックにホラーチックとさえ思えるメロディーとリズムが不吉。
「There There」はシングルカットされたレイディオヘッドの代表曲でもある。このスタイルになるまではライヴやデモなどで様々なアプローチを試み、当初は10分近くあった原曲がここまで醸成された。ロックバンドとしてのスタイルに徹したこの作品は、同じスタイルの編成(ギター、ベース、ドラム)であるにも関わらず、初期の"PABLO HONEY"・"BEND"のそれらとはまったく違った趣を見せている。特に複雑な演奏をしている訳でもなく、単調なタムタムによるビートに乗って曲は進むのだが、徐々に厚みを増しながら最後には一つのはっきりとした姿を見せる。決して派手ではないがいつまでも胸に残る不思議な旋律と強迫的リズムが秀逸。また、この曲のPVも怪奇的おとぎ話の名作としてファンに支持されている。
彼等の全作品中で最も短い曲が「I Will」。しかしその内容は怒りに満ちたもの。平穏な世界に土足で上がり込み、自分たちの価値観を押し付けようとする強者を痛烈に批判しようとしている。曲自体は"Kid A"のセッションで出来上がっていた。前作"AMNESIAC"に収録された「Like Spinning Plates」がこの曲の逆回転によるものであるという事実は有名。
「A Punchup At A Wedding」はトムの弾くリズム・ピアノが印象的なナンバー。続く「MYXOMATOSIS」はヘヴィーなアップテンポ・リフが小気味よい。フィリップ・セルウェイの珍しくハードなドラミングも印象的。タイトルは粘液腫症というウサギが罹る獣医学用語。歌の内容は何とも難解だ。「Scatterbrain」は強風の中を散歩していたトムが、巻き上げられた新聞や飛ばされそうな納屋の屋根などを見て思い出した英国の詩人ワズワースをイメージして書き上げた作品。アルペジオ風のギターにリムでビートを刻むドラムがのどかな雰囲気を作っているものの、決して明るいイメージはない。そして最後の「A Wolf At The Door」はジョニーが主に作曲した作品で、イントロがビートルズの「ビコーズ」とよく似ていると思いきや、この曲も同じくベートーヴェンの「月光」をモチーフにしているそうで納得がいった。タイトルの「ドアの前に立つオオカミ」といえば、「3匹の子豚」等に代表される邪悪な存在を啓発する童話だが、言わばこれはトム流の解釈に依る童話である。
スタジオ録音としては6作目のこのアルバムは、彼等を有名ならしめた「OK Computer」、「Kid A」とは違い、それ以前のスタイルに回帰した様な部分がうかがえつつも、それまで培われて来た電子音楽の要素を一層自然に融合させる事に成功し、新たなレイディオヘッド・ロックの世界を確立したと言える。個人的にはレイディオヘッド・サウンドが端的に解る作品として薦めたいアルバムである。実際、自分はここから彼等の世界に引きづり込まれた。彼等が単なるロック・バンドではないという予感は、その後過去の作品に次々と出会って自分なりに間違っていなかったんだという事が証明できた。だから愛着のあるアルバムとしていつも聴いている。
ホーム 戻る