KID A
1.Everything in Its Right Place
2.Kid A
3.The National Anthem
4.How to Disappear Completely
5.Treefingers
6.Optimistic
7.In Limbo
8.Idioteque
9.Morning Bell
10.Mortion Picture Soundtrack
パリ、コペンハーゲンなど4カ国でレコーディングされた彼らの4作目「Kid A」は2000年10月にリリースされた。エレクトロ
ニクスを駆使した実験的なサウンドと難解な歌詞、作曲の一般的なルールに一切囚われない自由な音楽空間はもはや現代音楽と
言い切ってしまっても良いだろう。ロック・ミュージックの分野で特異な位置を占めるこのアルバムが専門家の予想を裏切って
ベストセールスをマークした背景には、ひとつに彼らのネット文化に対する先陣的な試みの勝利が挙げられる。
このスタイルは、後にネット先攻ダウンロード・リリースという革命的なコマーシャリズムを確立させるスタートにもなっている。
楽曲はそれぞれが個性的すぎるきらいはあるものの、レイディオヘッドならではの世界がそのすべてに感じられる。
冒頭のEverything in Its Right Placeは電子ピアノの旋律に絡む逆回転ヴォーカル (呪文の様に聴こえる)が耳に憑いてしまう。
どことなく東洋的なメロディーとお経の様な音階は彼らのカラーでもあるシュールで無国籍的な印象を強く訴えかける。
続く表題曲はオルゴールに似たメロディーに電気処理された気怠いヴォーカルが語りかけるおとぎ話の雰囲気。終盤に現れる歌詞
はハメルンの笛吹きを想起させる。The National Anthemはこの作品の中で唯一人間的な躍動感を持つナンバー。トムのお気に入
りのフレーズが延々と続く。テーマでもあるベースはトム自身が演奏している。攻撃的なこの曲に「国歌」というタイトルを付け
る辺りは、やはり皮肉と厭世をエネルギーに代えている彼等らしい。4曲目のHow to Disappear Completelyはフワフワした妙な
漂流感が印象的な静かなバラードだが、ここではオンド・マルトノと呼ばれる特殊な楽器が使われている様だ。1920年代に発明
されたこの楽器は当時リボンを使って音色を作る言うなればモノフォニック・シンセと位置づけられる。現代ではハイテクのおか
げでかなり複雑な音を操れる様になった。歌詞の中に出て来る「茶色いスピーカー」というくだりはこのオンド・マルトノに使わ
れているスピーカーの事だろう。「僕はここには居ないんだ」というトムのヴォーカルは、鬱の時期の彼の想いが反映されている。
続くTreefingersは彼等としては珍しいインストルメンタル。斬新で特異な映画「Memento」のサントラに使われた。この映画の
持つ「逆再生」というテーマに触発されたのかも知れない。Optimisticはトムが当時出版されて大反響を呼んだナオミ・クライン
の著書「No Logo/ブランドなんか、いらない〜搾取で巨大化する大企業の非情」からインスピレーションを受けて書いた曲。
常に
体制に疑問を抱き続けるいかにもトムらしい曲だ。
前曲から違和感無く繋がるIn Limboは、その歌詞が4曲目と酷似している。やはり同様のフワフワ感からトムの悩んでいた時期を反映しているものと類推できる。ラストの混沌としたサウンド・コラージュと巨大な機械のたてる鼾の様な音が突然タイトなドラム・ビートにとって代わるのがIdioteque。個人的にはこのアルバム中で一番好きなナンバーだが、この曲の命であるビートとリズムにトムの歌詞が絶妙に乗っかって小気味良いテクノロック風(実際はもっと洗練されているが)に仕上がっている。特筆すべきは後半から絡んでくるコーラス部で言葉を楽器の一部としてリズムと同調させている点。ループ・リリックと呼ばれ、スキャットとはまったく違うアプローチが実に斬新だ。実際は"'ren first and the childrenren First....."と歌っている。
更に繋がって登場するのがMorning Bell。この曲は翌年にリリースされるアルバム「Amnesiac」にも収録されるわけだが、ここでのバージョンは最初から最後まで5拍子という変則的なリズムで貫かれている曲調がはっきりしているもの。ここまでの4曲はほぼメドレーの形をとっている。何となくビートルズの「アビーロード」B面を意識させる。
そして7秒間の空白から始まるのが最終曲Mortion Picture Soundtrack。この曲はトムのインタビューで「パブロ・ハニー」以前に出来ていたものだと確認されている。ただし、オリジナルはアコースティック・ギターでこのバージョンとはかなり違う。
古いオルガンの音から始まり、途中からサンプリング処理された美しいハープの音色が印象に残る。通説ではビートルズの「ホワイト・アルバム」最終曲Good Nightを意識したと言われているが、ジョニーは50年代のディズニー映画に使われていたサウンドを狙ったと証言してもいる。曲は一旦は静かに終わるものの1分後に再び始まる。それも約50秒ほどで終わるのだが、その後2分近い無音トラックが用意されている。これってジョンとヨーコの「未完成」作品第2番の「沈黙の2分間」のパロディーのつもりなのだろうか?
ロック・バンドとしてデビューしてから4枚目に当たるこのアルバムはレイディオヘッドのスタイルの変化の頂点に位置する。このアルバムを初めて聴く者には彼等の音楽を理解する事は相当難しいかと思う。この「キッド A」は「OKコンピューター」があってこそ生まれたものであり、ここに至るまでのプロセスを理解する事こそがレイディオヘッドを理解する事なのだ。
ある意味このバンドはプログレッシヴ(進化)バンドと呼べるのかも知れないね。
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