ディーン・R・クーンツ
Dean Ray Koontz
しばらく疎遠になっていたクーンツの新作に再会した。彼のストーリーテラーとしてのテクニックはその間、更に磨きがかけられた様だ。「善良な男」。人違いによりある殺人を依頼された主人公がその標的の女性を守り抜くという内容だが、殺し屋との頭脳戦・接近戦・チェイス劇・・・と息をつかせぬスピード感で一気読みさせてくれた。殺し屋の個性が光っているだけに最後まで秘密にされている主人公の生い立ちが明るみになった時、わけの判らない涙が流れた。これって読み手が晒されていたストレスから解き放たれたからなのだろうか? それほどのめり込める作品でした。
ディーン・R・クーンツの小説は自分が若い頃から随分たくさん読んだ。1970年代当初から主にサイエンス・フィクション・ミステリーの分野で頭角を現してきた。'80年に発表された「ウィスパーズ」でブレークした彼が満を持して発表した次作「ファントム」は世界中にマニアックなファンを生んだ。自分も「ファントム」が最も印象に残っている。彼は一貫して恐怖に味付けされた善と悪との闘いをテーマにしている。そのスタンスは不動なものの素材が多様なため、穿った見方をすれば様々なカテゴリーのファンをてらった無節操な作家に見える。事実、彼はいくつものペンネームを使い分け多くの作品を書いている。しかし、逆にそれだけ守備範囲の広いマルチプレイヤー的な才能が成せるところだと理解している。
クーンツはホラー作家という呼ばれ方は嫌いだそうだ。彼の描くホラーはキングのそれとは違うし、サイエンス・フィクション小説にしてもやはりフィリップ・K・ディックの世界とはかなり違う。
彼の作品は数多く映画化されている。「Mr.マーダー」「ファンハウス」、「デモンシード」、「処刑ハンター」などは有名なところ。前述の様にプロットが多様な分、映像化がしやすいのかも知れない。ある時は未知の細菌による恐怖、またある時は時空を超えた異次元からの使者、カーニバル会場に付きまとう言葉にできないあの不気味さを生かしたものなど設定は多種多様。ただ、常に言われる様にいずれも原作を上回る出来のものは無い様だ。
それは小説が愛され続けている以上、映画とはまったく別物なんだということの証明なんだろうな。
有りそうも無い話だけが持っているエンタテインメント性が彼のひとつの魅力だろう。
だが、今回の「善良な男」も含めて多くの作品にはそれでも起こり得るかも知れないという現実レベルの恐怖が潜んでいる。それこそがクーンツの本領なのだ。60歳を過ぎた彼が今後どんな恐怖を持ち込んでくるのか楽しみでならない。
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