ポール・リンゼイ
Paul Lindsay
サスペンスやクライム・ノヴェルが大好きな自分は、ホビー・ページでも面白かった本を何度か紹介しているが、最近ハマってしまった作者がいる。それが「ポール・リンゼイ」だ。
彼の作品は既に10年以上前から発表されていた事は知っていた。でも、その間ずっと読み続けていたシリーズものがかなり多くて、なかなか手に取る状況になかった。それが、たまたま昨年に発表されたばかりの「応酬」を読んでみてその独特な世界に惹かれはじめた。更に遡って「鉄槌」を、続けて「覇者」も読んでみた。それぞれ主人公が異なり、ノン・シリーズの完結作品となっている。
特にその中でも上・下巻の「覇者」は飛び抜けて楽しめた。戦時下でのナチスの略奪絵画コレクションを巡って現代に繰り広げられる残党の野望とギャング、そして捜査官たちとの闘いが息詰る程の迫力で書き上げられている。彼を信奉するあの児玉 清が巻末で解説をしているだけあってその面白さはお墨付きだ。
覇者 (2000)
応酬 (2005)
鉄槌 (2002)
彼のファンはそれら以前に刊行されたシリーズものを支持している様だ。主人公マイク・デブリンはアイリッシュの血をひくFBI特別捜査官。その地味だが熱い想いを心に秘めた人間味溢れるヒーローはいちはやくあのパトリシア・コーンウェルを魅了した。FBIという閉ざされた世界に肉薄していく迫力あるストーリーの秀逸さは、作者であるリンゼイ自身がデビュー作を執筆していたまさにその90年代初頭まで実際に現役のFBI捜査官をしていたという衝撃的な事実からも裏付けられている。
無能な上司、役人に媚びへつらう管理職、デブリンを助け彼からも助けられながら一緒に信念を貫き通す良き仲間達。もちろん、本題のストーリーは面白いのだがむしろそれよりも生身の人間同士の機微が存分に楽しめる。
残念ながらこのマイク・デブリンのシリーズは初期の3部作で止まったままだ。逆にコーンウェルの検死官シリーズでのケイ・スカーペッタの様にあまりにも多作になり過ぎることから生まれるマンネリを回避したのかも知れないが。
殺戮 (1997)          目撃 (1992)         宿敵 (1995)
リンゼイにはほとんどの作家が持っているホームページは見当たらない。さらに彼の画像も皆無だ。
これが元FBI捜査官という過去に起因しているのではないかという穿った見方もある。
しかしファンは面白い作品を提供してくれればそれでいいと思うはず。果たして今現在どんな作品を考えているのか、はたまた執筆しているのかとても気になる。
遅ればせながらこのマイク・デブリンは自分の中でハリー・ボッシュ、ロイド・ホプキンズ、ヴィンス・カドーゾ、エルヴィス・コール、ジョン・ベッカーらと肩を並べるヒーローの仲間入りを果たした。クライム・ノヴェル・ファンなら判るよね。
何はともあれコマーシャリズムに乗っかってベストセラーを狙っている作品群にはないしっとりとした秀作がたくさん存在するという事実が驚きであり同時に嬉しく思う。
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