「トゥルー・クライム」
True Crime
主演/クリント・イーストウッド、アイザイア・ワシントン、デニス・リーリー、リサ・ガイ・ハミルトン、ジェームズ・ウッズ 他
製作総指揮/トム・ブルッカー
脚本/ラリー・グロス、ポール・ブリックマン、ステファン・シフ
製作・監督/クリント・イーストウッド
1999年製作・ワーナー・ブラザース配給
クリント・イーストウッドといえば「知られざる者」、「マディソン郡の橋」などでアカデミーを始め様々な方面からその実力を認められている映画界のベテラン現役だ。その彼がアンドリュー・クラヴァンの小説を映画化した人間味溢れる秀作を今回とりあげる。
ヘラルド・トリビューンのアウトロー記者スティーブ・エベレット (イーストウッド) は6年前に起きた黒人による妊娠白人女性の強盗殺人事件を当時の担当記者の交通事故死により代わって引き受ける事になった。取材を重ねていくうちに彼は無実の匂いを嗅ぎ取り独自に捜査を始める。
無実を訴え続ける犯人フランク・ビーチャム (アイザイア・ワシントン) は黒人である事と、事件が幼い妊婦だったことから世論の反発が強く当然ででもあるかの様に有罪評決を受けていた。
彼には愛する妻と幼い娘がいる。呑んだくれで家庭を顧みず同僚の妻と秘密を持つエベレットもやはり同じ年頃の娘を持ち、現在進行形の離婚話も持ち上がっていた。そんなアウトローでもプロとしての感覚は一級で、取り巻きの雑音など意に介さずにひたすらビーチャムの無実を信じて東奔西走する。捜査が行き止まりになったり、自分の家庭問題で悩んだりと決してヒーローとしては描かれていないエベレットだが、その人間臭さが何とも言えない味わいを見せている。
映画は処刑当日の彼の行動を描き出す。残された時間は12時間。焦るエベレットは起死回生を狙った手段に打って出ようとするのだが・・・・。
この作品の見応えは保証付き。と、言っても派手なアクションはまったく無いしむしろ地味な仕上がりだが、心に訴えかける何かが時間を忘れるほどに観る者を引き込む。
エンド・クレジット直前に流れるダイアナ・クラールの主題歌「ホワイ・シュッド・アイ・ケア」は素晴らしい。それまでためていた哀しみや不合理に対する怒りをこの美しい曲がすべて洗い流してくれた。そして止まらない涙。
その後どこでこの曲を聴いても条件反射の如く眼がウルウルしてしまう様になってしまったのもこの作品のせいだった。
Diana Krall " When I Look In Your Eye "
もちろんすぐに彼女のCDを買った。ジャズ・シンガーとしてはずば抜けた美貌とスイング感たっぷりのピアノ演奏。
この映画を観る以前から彼女のステージはテレビ等を通して何度か聴いていた。美人のわりには何となく太々しいパフォーマンスに驚くと同時に興味も湧いたのを覚えている。
彼女には女の強い部分が感じられる。とかく美女に対しては性格がいいのか悪いのかなんてくだらん論議が起きるものだが、そんなものはアーチストに求めるべきものでもないし、自分が大好きなエルビス・コステロが口説き落としてみせた事実からも彼女は案外素直な性格かも知れないね。
主題曲が収録されているこのCD「ホエン・アイ・ルック・イン・ユア・アイ」はコール・ポーターの作品でシナトラの十八番だった「アイヴ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン」や彼女の敬愛するナット・キング・コールのスタンダード「レッツ・フォール・イン・ラヴ」、ボッサ・ジャズのシンガー、マイケル・フランクスの「ポプシクル・トーズ」など落ち着いた大人のためのジャズ・アルバムの趣きが素敵な一枚だ。前述の「ホワイ・シュド・アイ・ケア」は実は何とイーストウッドが作曲に関わっているという事実も明らかにされた。それだけに彼自身の本気な姿勢がうかがわれる。
もし、この映画に感激したら是非このCDも聴いてみる事をお勧めします。
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