ビートルズを聴いて育った世代は、洋の東西を問わず音楽に対するアンテナの向いている方向が共通している様に思う。音楽は世界共通言語と言われる様に素晴らしいミュージック、美しいメロディーは国境を超えて愛される。聞くところでは今、沖縄の民謡が南米で大人気とか。まさにそれを証明する現象だろう。 そうした世代から生まれた数多くのアーティストはより素晴らしい音楽を作り続けている。そんな中の一人に英国出身の「エルヴィス・コステロ」がいる。彼はアトラクションズというバンドを引き連れて70年代のパンク・ニュー・ウェイヴのロッカーとして登場した。当時の音楽シーンではあまり目立たなかった彼のメロディーメイカーとしての才能がその後大きく開花する事になる。79年のアルバム「Armed Forces」の中の"Accidents Will Happen"や、翌年の「Trust」での"Clubland"などには後の彼の成功を予感させる才能が感じられたものだ。83年のアルバム「Punch The Clock」を境いに彼のメロディー・メイカーとしての存在が大きく評価され始める。"Shipbuilding"は彼独特の気怠い雰囲気のメロディアスなナンバー。対照的に"Everyday I Write The Book"はご機嫌なノリの秀作だ。また翌年の「Goodbye Cruel World」でのナンバー"I Wanna Be Loved"は彼の中のナルシズムを具現化した様な名曲だった。90年代を目前に移籍したワーナーでの彼の仕事も素晴らしかった。「Mighty Like A Rose」ではポール・マッカートニーとの共同作業で生まれたビートルズを彷彿とさせる"So Like Candy"、ジョン・レノンを意識したなナンバー"Hurry Down Doomsday"とビートルズ世代のアーティストならではの実力を発揮。ワーナーと決別する結果になるアルバム「All This Useless Beauty」ではタイトル曲のほかに美しいメロディーラインが印象的な"Poor Fractured Atlas"がとても耳に心地よい。あらゆるアーティストと共同で仕事をすることで自身から更に可能性を引き出そうとする彼のプロ根性が作り上げた名作「Painted From Memory」は、彼をしてビートルズと共に60年代に大きく心を揺さぶられたというバート・バカラックとの競演だった。二人の個性がまったく妥協のないままに一体になった名盤である。
21世紀に入るとスウェーデン出身のメゾ・ソプラノ歌手アンネ・ソフィー・フォン・オッターとの共演盤「For The Stars」を製作。彼の敬愛するアーティストたちの名曲をカヴァーしてくれた。そして今年、久々のロックアルバム「When I Was Cruel」をリリース。ストレートなロックンロールナンバーとともに彼の持つもう一つのナイーヴな感性が書かせた曲も織りまぜて、ファンにはたまらない仕上がりになっている。今後も目を離せないアーティストである。
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