私は映画のジャンルの中で断然コメディーが好きだ。その理由の元にもなっているのがこの作品だ。   すでに40年も昔の作品だが、今観てもそのおかしさは鮮度を保ち続け色褪せることはまったくない。  1963年にスタンリー・クレイマーが製作したこのスラップスティック・コメディーは本国アメリカでもいまだに語り種にされるコメディー大作であり、ストーリーの面白さに加えこれ以上にない配役とギャグ、当時としては画期的なスタントなど大作の名に恥じない内容でファンの気持ちを掴んでいる。お話は単純明快で、刑期を全うした元・銀行強盗の犯人が事故を起こした現場を通りかかった登場人物たちが瀕死のその犯人から大金の隠し場所を聞いたがために起こる騒動を描いたものだ。彼等に加え更に警察までもが絡んで大金のためにわれ先に早い者勝ちのレースが始まるワケだ。一昨年に公開されたコメディー映画「ラットレース」も間違いなくこの作品をお手本にしていた。しかしその笑いのレベルはその比ではない。登場人物の中でもとりわけ存在感があるのがジョナサン・ウィンターズ扮する引っ越しトラックの運ちゃん。そして途中から参加するフィル・シルバーズ(じゃじゃ馬億万長者で"正直ジョン"として登場していたロイド眼鏡のオッさん)との最後まで続くいわゆる腐れ縁の面白さは秀逸。また、チビの二人組ミッキー・ルーニーとバディー・ハケットのコンビはあの「三バカ大将」の雰囲気を造り出し作品に喜劇としてのトラディッションを示してくれた。
女性陣では何と云ってもエセル・マーマンの存在がこの作品のポイントだ。彼女の雰囲気は中年女の強欲さとディック・ショーン扮するバカ息子の母親としての親バカさにピッタリのキャスティング。また、ストーリーが進むにつれ関わってくる大勢の人物の中にはコロンボで有名なピーター・フォークや当時の喜劇界ではなくてはならない存在だったジェリー・ルイスもチョイ役で登場。
舞台となっているアメリカ西海岸に特有のカラっとした気候もこの映画の成功に寄与していると思う。やっと辿り着くサンタ・ロジータ州立公園の青空はまさにカリフォルニアそのもの。いざ大金を手にしたもののストーリーはそれからが見せ場になっていく。実際に作品を観ればわかるが、スタントマンたちは苦労したはずだ。これだけおかしい作品だが、彼等にしてみれば命がけだったろう。とにかく機会があったら絶対に見逃さないでほしいと心からお薦めするコメディー映画なのだ。
本国ではビデオとDVDで発売されているものの、日本ではネットで調べた結果どうやらビデオ化されていない様だ。以前に何度かテレビでも放映されていたので観たことがある方も多いはず。その時の吹き替えも最高に面白かった。公開当時、私は小学校4年ぐらいだったと思うが、たしかシネラマ方式という大きなスクリーンでの上映だったと記憶している。それだけに余計そのスケールの大きな笑いが印象に残ったのかも知れない。それを差し引いてもこんなおかしな映画には以来お目にかかっていない。    文化のレベルは笑いのレベルと共通するところが大きい。その点、日本の特にテレビにおける笑いの陳腐さには辟易して久しいのが何とも寂しいかぎりだ。そんなくだらん番組を作る側の人間にはこの作品の爪の垢を煎じて飲ませる価値さえあるのかどうかもわからないほどに情けない。
ホーム トップ