先頃2度目の来日を果たして更に根強いファンを創ったエスヴョルン・スヴェンソン・トリオの新作は期待以上の素晴らしさだ。もはや伝説的とも云える3部作「フロム・ガガーリンズ・ポイント・オブ・ヴュー」「グッド・モーニング・スージー・ソーホー」「ストレンジ・プレイス・フォー・スノウ」のエネルギッシュなサウンドに加え、前作「セヴン・デイズ・オブ・フォーリング」で感じたしっとりとしたムードが更に熟成した様に思う。
タイトルの「ヴァイアティカム」とは古代ローマで使われた表現で旅立つ者への餞別という意味があり、このアルバムが一貫したテーマから創られているのがわかる。それは各曲のタイトルにも表れている。彼等の2002年発表の「ストレンジ・プレイス・フォー・スノウ」の最後に収録されている「セプテンバー」があの忌わしい同時多発テロからインスパイアされて創られたとされているのを聞くと、e.s.t.もまた人類の平和への祈りと同時に「死」に対する恐怖や不安といったある意味深遠なるテーマに彼等なりのメッセージをこの作品で発信している様に思えてならない。
事実、ほとんどの曲が重く悲哀に満ちたメロディーから成り立っている。スヴェンソンのピアノが、そしてベルグルンドが時にアルコで奏でる重厚な各
テーマはとても印象深く耳に残る。
彼等と同じくロックで育った我々の世代は、e.s.t.の創り出す世界に更に深く入り込むことでそれまで様々なプログレッシヴ・ロックやハード・ロックから吸収したあのエネルギーやメッセージに再会した気持ちになれる点でもこのバンドが実に不思議な魅力を持っている事を実感するのだ。
さて、この新作が紡ぎ出す世界の最後に「無題」という隠しトラックがある。最終曲が終わって4分以上もの沈黙の末に流れる10分間の曲だ。夢の中で聴いている様なこの摩訶不思議なサウンドは何を伝えようとしているのか?
原題が「Untitled」とクレジットされている。その意味はそれぞれが感じたままでいいだろう。それを踏まえたうえでこの無音の4分間こそが彼等のメッセージであるように思えて仕方がない。
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