「鮎」の旨さを覚えてからというもの、時季になるとその味と美味い酒が至上の愉しみになった。もともと釣りはしないが、鮎の素晴らしさは十分に判っているつもりでいる。これまでは地元の鮮魚居酒屋で時々楽しませてもらっていた。好みにもよるが、自分は夏が終わる頃のいわゆる「落鮎」が好きだ。
俗に言う「子持ち鮎」である。酒が進むあの肝の苦みもいいが、腹一杯につまった卵の何とも言えない味わいはほんの一時期の限られた愉しみでもある。今年は常連の居酒屋でもなかなかこの「落鮎」が手に入らなかった。そこで渋川に昔からある「簗」に問い合わせると10月末までの期間限定で所望可能ということだったので女房と早速出掛けてみた。場所は国道17号の利根川沿いの「坂東簗」である。
ここは鮎の獲れる6月から10月までの5ケ月しか営業しない店で、それだけに建物には金をかけられない様だ。良く言えば昭和レトロの趣きといったところか。実際の簗は以前の名残り程度で、ここの鮎はほとんどが養殖らしい。さて、店に入ると玄関脇の一室で職人が二人一生懸命に鮎を炭火で焼いている。この店では小振りの鮎が主流だそうで、それでも焼き上げるのに20分ほど要するという。
店員お勧めのセットを注文する。内容は鮎のフライ・鮎の刺身・鮎の佃煮と酢締め・そして鮎の塩焼き。みそ汁とご飯が付いて3,000円程度。納得の金額だ。
これまで鮎の刺身なんて食べた事がなかったので楽しみにしていた。その味ははっきり言って川魚の臭みが残った驚くほど美味いものではなかった。それでもシコシコした歯触りはなかなかのもの。
やっぱり本命は最後に出て来た塩焼きでしょ。この店では鮎の塩焼きは一人前5匹というボリューム。もっとも小振りなだけに全部平らげられそうに思ったが、酒も入っていたため3匹しか食べられませんでした。残ったものはすべてパックで持ち帰りができるので良心的。
自分達が行ったのは日曜の昼下がり。ここは夜が情緒豊かでいいらしい。ちょうど10月にしては暑い日で、西からの陽が強くて雰囲気は思惑はずれ。それでも「日本の良さ」を再確認できました。
こういう日本の大衆食文化を体現させてくれる店が存続できる様な価値観がこの先も残っていてほしいなぁとつくづく思いました。
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