アンドレア・ボチェッリ(発音はボチェルリ)は1958年生まれのテノール歌手だが、彼の魅力はオペラにのみとどまらない幅のひろい歌唱力だと思う。
私は1997年に彼の当時大ヒットしていたアルバム「ロマンツァ」を聴いてまずその声の質の素晴らしさに感動した。3大テノールの中でも異色の存在とも言えるあのパヴァロッティに認められ、1993年には「パヴァロッティ&フレンズ」というコンサートが彼の故郷で開かれた際にボチェルリは競演している。イタリアのミュージック・シーンでは超スーパースターのズッケロも彼を気に入り自らが所属するシュガー・ミュージックとの契約に尽力し、結果この「ロマンツァ」は世界中で800万枚を超えるベストセラーとなった。
ボチェルリは盲目のオペラ歌手である。12歳の時に運動中の事故で失明。その後は幼少の頃から積んできた音楽の経験を糧に生き抜いてきた希有な存在だ。この事故が彼を世に産み落としたとすれば、神はなんたる存在だろう。
今年発表されたアルバム「アモーレ」の中はでクリスティーナ・アギュレラ、スティーヴィー・ワンダー、ケニーGらとの競演を含む15曲が楽しめる。
特筆すべきはトラディッションなラテン・ナンバー「ベサメ・ムーチョ」の素晴らしさ。これまでいろいろと聴いてきた中ではベストだ。続く「枯葉」でのロマンチックなムードに思わず涙してしまう。(事実、私は彼の声を聴くと条件反射の如く眼がウルウルしてしまう)
C.アギュレラとの"SOMOS NOVIOS"は"It's Impossible"のラテン語曲。クリスティーナの澄んだ高音と彼の声との絡みはまさしく男と女の生み出す愛のハーモニーだ。続くS.ワンダーとの曲 "CANZONI STONATE"はしっとりとした都会的なボサノヴァの空気の中で流れるスティーヴィーのあのハーモニカが何とも言えないムードを醸し出している。他にあの「愛せずにはいられない」のライブ音源も入った実に素敵なアルバムだ。豊富な声量ゆえの小節をまたいでの一気に歌いつなぐ彼の歌唱力・テクニックを存分に堪能できます。
私が初めて彼の素晴らしさを知ったアルバム「ロマンツァ」。1996年の製作で、実際にはテビュー・アルバムとセカンド・アルバムから選曲して世界に向けて企画されたある種ベスト・アルバムの趣が感じられる作品である。
大ヒットした「君と旅立とう」(タイム・トゥ・セイ・グッバイ)は共演した歌姫サラ・ブライトマンの当時彼女が製作していたアルバムにも同時収録された。このアルバムではイタリアやイギリスのシンガーとの競演が全部で4曲収録されている。また、12曲目にボチェルリ自身の作曲である「このままで」
(Voglio Restare Cosi)が聴ける。
このアルバムの中での秀作はまずルチオ・ダルラの名作として知られている「カルーソー」だろう。ここでは彼が筋金入りのオペラ歌手であるという事実がはっきりと聴けとれる。また、「君の言葉」 (Le Tue Parole)の様なイタリアン・ポップスをさらりと歌い通すあたりにもボチェルリが単なるオペラ歌手にとどまらないプラス・アルファが感じ取れる。とにかくエモーショナルなアルバムである。
サラ・ブライトマンはブロードウェイ・ミュージカルにおいて「キャッツ」や「オペラ座の怪人」で圧倒的な評価を受けた歌姫であるのは有名だが、彼女があらゆる音楽に挑戦していく中で後に結婚する事になるアンドリュー・ロイド・ウェッバーが立案した「レクイエム」でプラシド・ドミンゴと競演した事でオペラに対する彼女の興味が芽を出した。その後の活躍はあえてここで述べるまでもない。さて、前述の「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」でのボチェルリとの競演も彼女にとっては大きな収穫だった筈で、事実彼女の当時リリースされたアルバム「フライ」の冒頭に収録されている。ただ、面白い事はこのアルバムはこの1曲をのぞいて完全なロック・ミュージックである点だ。ボチェルリのアルバムとはまったく異なるフィールドであり、シュール・ゴシック&ミステリアスなムードのしかし内容的には素晴らしい出来栄えであることも事実である作品だ。私は彼女の声にケイト・ブッシュに通じるものを感じるが。
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