かつて「ニューヨーク・タイムズ」の記者で現在は作家として身をたてているタフな正義漢フランク・コーソと彼の仕事に助手として加わる事になった女性フォト・ジャーナリストのメグ・ドアティを主人公に繰り広げられる犯罪サスペンス・シリーズは毎回ハラハラドキドキな展開で読者を捉えて離さない。 作中にもはっきりと描写されているが、コーソは長髪をポニーテイルにした大男で俳優のスティーヴン・セガールにそっくりだとされている。一方、メグ・ドアティはタトゥ職人だった以前の恋人に別れ話の末に睡眠薬を飲まされたあげくに大柄な全身に入れ墨をされてしまったという過去を持つまったく他に類を見ないゴシック・ヒロインで、その身体的特徴が様々なトラブルやハプニングをもたらす一風変わった存在としてシリーズに欠かせない女性として描かれている。 |
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シリーズ第1作目は、醜悪な殺人犯として捕われた黒人をめぐって、その死刑執行間近に被害者のひとりが虚偽証言をしていた事を告白したことにより古巣の新聞社「シアトル・サン」から調査と記事を依頼されたコーソが真相解明に東奔西走する活躍がまさしく時限爆弾の爆発に向かっていくかの様なスリリングなストーリー・テリングで一気に読ませる。 新聞社が準備した助手が女性だと知って憤慨するコーソとその後のドアティのタフネスさのバランスが小気味良い。また、著者が自らのシリーズ作の主人公を雇われ探偵として実名で登場させているあたりにも遊び心と映像的な手法が見え隠れして楽しませてくれる。 似たプロットにアンドリュー・クラヴァンの「真夜中の死線」(映画「トゥルー・クライム」原作)があるが、この「憤怒」では無実の犯人が最初から最後までまったくのクズとして描かれていたり、単に無実の証明だけに留まらないその後の隠された展開等ではるかに面白く仕上がっている。 |
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表題の「ブラック・リヴァー」とはシアトルのワシントン湖の運河ができるまで実在していた河の名前であり、その消え得ない名残に現代のやはり決してなくならない裏社会の存在を重ねあわせた何とも重いタイトルである。 ストーリーは、この地域を牛耳るギャングのボスと財界が絡んだ手抜き工事によって病院が崩壊した事件に関わる重要証人の抹殺を企てる悪人どもの隠蔽工作に果敢に挑むコーソの活躍が描かれているのだが、前作とは違いスピード感や派手さは無いものの地方検事を巻き込んだ法廷ものの趣がある。 ここではドアティがギャングの襲撃により瀕死の重傷を負う。登場人物のそれぞれの家族・友人・そしてコーソ自身にもふりかかる愛憎入り交じった人間関係の表と裏が行間に散りばめられた筆致はありふれたテーマにも関わらず決して飽きさせない。 |
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犯罪実録本の執筆に絡んで裁判所からの出頭命令を受けたコーソはその命令が失効するまでの間、身を隠すために逃避した先で偶然見つけた白骨死体をめぐって過去から現在に、そしてテキサスからシカゴ、ウィンスコンシンとシアトルから離れた場所で真相解明を余儀なくされる。 同行するのはもちろんドアティ。前作で恋人同士になっていたはずの二人はここではすでにその関係も終わっている様に描かれているが。 今回の犯罪の背景には一部のアメリカ中部の異常とも言える土壌に根ざした根深い不健全精神と因習が存在する。ドアティのタトゥなどは可愛いものだといわんばかりの異様さはストーリー展開に一層のサスペンス・テイストを加えている。 途中、思いがけない事態からFBIにまで追われるコーソだが、窮地を脱する術にますます磨きがかかりスッキリさせられる。物語の流れもハリウッド的映像感覚を感じるスムースさが良い。 |
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G.M.フォードは現在シアトル在住の生粋のニューヨーカーだ。コーソ・シリーズはミレニアム以降のもの。 作家デビューはやはりシリーズもので探偵レオ・ウォーターマンを主人公にした「手負いの森」(ハヤカワ)から始まる6作品である。 しかし残念ながらこのシリーズは邦訳がいまだになされていない。でも、彼のファンが増えれば自然と刊行されるはずだ。是非期待していいだろう。 なお、フランク・コーソのシリーズは第4作「Red Tide」が既に本国で発表されており、続く第5作も完成した様だ。 一日も早い刊行を待ち望んでいる。 |
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