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1993年にデビューしたグレッグ・アイルズはアメリカ人ではあるものの生まれが父の赴任先である西ドイツであり、少年のころまでそこで育ったという世界観の広い経歴を持つ。 その影響で処女作からナチスドイツをテーマとした作品を続けて世に送り出した。第二次世界大戦を舞台に主人公のジョナス・スターンの活躍を描いた戦争冒険小説は、2作ともベストセラーとして好評を博した。そして3作目の「神の狩人」からは現代に視点を移し本格的なサスペンス小説を書き続けている。ミシシッピー大学を卒業後に自身が編成した4人組バンドでプロのミュージシャンをしていたというグレッグはこの作品で主人公のハーパー・コールに自らを投影している。「神の狩人」はコンピュータのネット上を自由に動き回り獲物を物色する天才的な殺人鬼とコンピュータ・オペレーターの攻防を息つく暇も与えぬスピーディーな展開で描き読者をぐんぐんと引き込む素晴らしいサスペンスである。わが国では発行の順序が前後しているが新作「沈黙のゲーム」では作者の住むミシシッピー州ナチェズを舞台にした黒人公民権運動に絡む30年前の事件を現代に呼び戻し、正義という大義に命を賭けてのぞむ作家の勇姿を情感豊かにに描き出した。 そして2000年に発表された「24時間」は小児糖尿病を患い毎日投薬をしないと命がない娘を誘拐されてしまった麻酔医ウィル・ジェニングスの一日をとてつもないスリルで一気に読ませてくれた。この作品は映画にもなった様だが、やはり原作に勝るとはとても思えない。ここでの医学的な描写は実生活でのパートナーである彼の妻が営んでいる歯科診療の分野から得られたものであり、彼の作品の多くが実にリアルでまるでノン・フィクションを読んでいる様な錯覚に陥るのも一度や二度ばかりではない。彼の目を通して、彼の積んだ経験を通して充分に咀嚼され描かれるそれらが実際の彼のバックボーンに根ざしている証であり、それこそが彼の作家としての強みと言えるだろう。 |
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