マイケル・コナリーといえば刑事ハリー・ボッシュのシリーズが有名なハードボイルド作家だが、ここに紹介する作品は彼が新境地を切り開いたとも言える実にシリアスなサスペンスである。ストーリーは実に複雑かつ緻密で一言で解説できるものではないが、主人公のマッケイレブの孤独な闘いを描いたものだ。彼は仕事のストレスから心臓に深刻な疾患を抱え引退を余儀なくされた元FBI捜査官である。特殊な血液型のため臓器提供の望みも絶たれ、死を覚悟していた矢先にある犯罪被害者から新しい心臓を得て生き長らえる。ある日、彼のもとにその心臓を提供した女性の姉が訪れマッケイレブの人生に引くにひけない負い目が降り掛かる。彼女は殺害された妹の心臓により生まれ変わったマッケイレブに犯人を見つけて欲しいと嘆願する.......。                         このプロットは実に映画的だなと思ったら実際にクリント・イーストウッド主演で映画化された様だ。自分はまだ映画は観ていないが、イーストウッドの犯罪ものと言えば数年前に「トゥルー・クライム」で涙したのを思い出す。だからそのうち是非観ようとは思っているが。         映画はさておき、作品は徐々に袋小路に追い込まれる。下巻に入ると事件は思いがけない急展開をみせる。FBIで様々な難事件を扱ってきた主人公だからこそ辿り着くことのできるその洞察力がストーリー展開の大切な柱になってゆく。                             通常、読者は主人公のイメージを個々に思い描きながら読む場合が殆どだが、この作品はブックカバーにすでにクリント・イーストウッドが載っているため最初から彼のイメージを心に留めながら読んだが、どうも年令的に無理がある点は否めない。どうみてもマッケイレブは50代であるべきだと思うのだが。しかし、そんな事はどうでもよい程に作品の緊張感は一層高まってゆく。これから読む人のためにもストーリーは明かせないが、この作品でマッケイレブ自身が不覚にも自らを追い詰めてしまう結果に向かうその過程が何ともやりきれず、その反動が生むヒロイズムに人間としての悲哀を痛感させられる素晴らしい作品である。           さて、作者のマイケル・コナリーはボッシュのシリーズにこのマッケイレブをゲストとして描いたり前作の「バッドラック・ムーン」の登場人物を挿入したりと実にエンタティメント的な作家である
トップ
ホーム