筆の冴えが見事の一言 スティーヴン・ハンター

アクションものでは東西きっての凄腕作家がスティーヴン・ハンターである。彼の描く世界には一切妥協が無い。根底には常に闘いによる「生」か「死」以外になく、この手の作家の中でも群を抜いて「武器」に詳しい。本邦初登場の86年、当時は軍事アクション作家というカテゴリーでのデビューだったが、93年の「極大射程」から始まる5作におよぶボブ・リー・スワガー・シリーズで人気を不動のものにした。このシリーズはちょうどゴッド・ファーザー的スケールの大河ドラマであり、圧倒的な筆力で読者を釘付けにさせる。日本では版権の問題などで出版社や発行順序がばらばらになってしまい、スティーヴン・ハンターその人となりを見極めるのに戸惑われた御同輩も多かった事と思うが、第1作から一貫してアクション&バイオレンスのテーマは不変である。     彼の中にはカウボーイに象徴されるアメリカン・ヒロイズムが常に存在している様で、スワガー・シリーズではその辺が時として誇張されすぎるきらいがあるものの、単純にド派手なアクションを堪能できる事だけでも価値あるシリーズだ。その実、中身はかなり複雑な人間関係や片寄った精神論をもって読者に問いかける部分も多く、単にアクション小説だけではない重厚さも併せ持つ。  彼の世界感には「戦争」という二文字が重くのしかかっている様で、1946年生まれのハンターにはベトナムが付きまとっている事は間違いない。事実、ベトナム戦争が頻繁に登場する。また、東西冷戦時代のイデオロギーの対決や人種に対する価値観など白人優越主義的な姿勢は前述のアメリカン・ヒーローを裏打ちしている様に思う。                               彼の小説はことのほか視覚的なのが特徴だと思う。くどすぎるまでの武器の解説や登場人物が動き回る森や林、山岳地帯の高低差などが目に見える様な描写は見事だ。スワガー・シリーズに至っては、放たれた銃弾の軌跡さえ見えそうなリアルさには脱帽せざるを得なかった。
スティーヴン・ハンター

98年の"Time To Hunt"(邦題:狩りのとき)で家族と共に闘い、幸せを勝ち取ったボブ・リーのその後が描かれるのか否かは作者のみ知るところだが、最近作「悪徳の都」の様に家族の秘密を暴き出すには既にネタも鮮度が落ちただろうから、はたしてどんな作品が発表になるのかファンとしては一日千秋の想いで待ち焦がれている。
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