男の哀愁を描きつづける作家 ローレンス・ブロック

元・アル中、そして今は禁酒を続ける初老の私立探偵マシュー・スカダーことマット。ニューヨークで探偵免許を持たず、知人のために探偵稼業を請け負う元・警察官。彼のシリーズは全14作にのぼる。1976年に「過去からの弔鐘」でこの世に現われ、98年の「皆殺し」まで様々な事件・スキャンダルを彼独自のスタイルで解決してきた。この22年間に探偵免許を取得し、女房を娶り、何人もの友人と死別してきた。犯罪によって身をたてる不釣り合いな親友ミック・バルーと最後には彼のアシスタントになるTJ。良き友人に恵まれた幸せ者。請負金額の10%を必ず通りがかりの教会に寄付するという実直さ。確実に歳をとり続け気弱になっていく自分に嫌悪したり、歳を考えずに馬鹿をして怪我をしたりとその実に人間的な生きざまに時として涙することもある愛すべき私立探偵だ。                       作者のローレンス・ブロックは今年64歳になるニューヨーク出身の人物。20代から小説を書き続け、40代を目前に同シリーズを執筆。アメリカ探偵作家クラブの最優秀賞をこのシリーズで2回受けている。94年には同クラブの名誉あるグランド・マスター賞も受賞するなど、揺るぎない地位を獲得。ただ マット・スカダー・シリーズはどちらかと言えば大人向きの小説だけに、残念ながらわが国での人気は本国には及ばない。しかし、世の中の試練を一通り経験してきた本物の大人にとっては、このシリーズの背景に流れる哀愁・情感は充分に理解・共感してあまりある貴重な世界を堪能できる筈である。                          大人の男にはどうしても飲まなければおさまりのつかない局面が多々あるものだが、禁酒を続ける主人公のある種男のロマンに推されてか、ついバーボンを(自分はスコッチ派だが)片手に読みふけってしまう名シリーズなのだ。ハード・ボイルドの世界は歴史が古く、ダシール・ハメットの生んだサム・スペードやチャンドラーのフィリップ・マーロウ、ミッキー・スピレインのマイク・ハマー等は有名。近年では日本でも人気のマイケル・コナリーのハリー・ボッシュ、ロバート・クレイスのエルヴィス・コール、デヴィッド・ウィルツのジョン・ベッカーなど個性豊かな人物に楽しませてもらっている次第である。そんな中でも秀でて独特なマットが次にどんな形で再登場するのかファンとしては待ち遠しいかぎりである。映画化された作品は多々あれど、やっぱり原作に勝るもの無し、といったところか。
ローレンス・ブロック
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