ヤシガニ

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 西表に遊びに来られる方々は、何かしら憧れの動物とのランデブーを期待してこられるものです。
 その多くは「イリオモテヤマネコ」でしょう。中には「大ウナギ」なんて変わったものを求めてこられる方もいますが、この「ヤシガニ」などもそういう意味では人気のある動物かもしれません。
 もっと南の島にいるものだと思われているヤシガニですが、この八重山にも多くが生息していることはあまり知られていません。
 名前も良くないのでしょう。沖縄のヤシガニは椰子の実を食べてはいません。沖縄にはもともと、ココヤシのような大きな実をつける椰子はなく、ヤシガニは海岸に茂るアダンの果実やその他の木の実、打ち上げられた魚の死骸などを食べています。

 さて、日頃忙しい僕達ですが、いざ遊ぶとなれば、そこはさすがに南国特有の贅沢な遊び方。船で無人の砂浜に上陸したり、遠くの美しいリーフで泳いだり、とまさにバカンス。
 そんなある休日のこと。お昼をとる為に上陸した砂浜で、ちょうど具合の良さそうなアダンの茂みを発見。これは、と潜りこんでいきます。出てきた時にその手に捕まえていたのが、この写真の巨大ヤシガニ(3キロ)でした。
 夜行性のヤシガニですが、暗い林の中であれば、時々昼間でも餌を漁っていることがあります。それを知っていた僕が、刺だらけの林の中に潜り込んでいったのは勿論偶然ではないのです。

 しかし、近年では稀に見る大きさ。今写真を見れば素手で両の鋏を押さえつけている僕の顔も真剣です。こんな奴に指でも挟まれようものならひとたまりもありません。実際に西表でもヤシガニで指を落とした人がいるのです。
 鋏以外にもヤシガニの武器は侮れません。鋏の後ろの二対の足。陸に穴を掘る為のこれらの先は鋭く尖り、僕の皮膚を切り裂こうときつく押し付けられます。もう僕の手はボロボロ。血が滲んでいました。

ヤシガニはオカヤドカリの仲間。小さい頃はヤドカリと同じように貝殻に入ってすごすらしい。第4脚にも小さな鋏があり、これまた要注意。

この成果に大満足の私

 さて、せっかくの巨大ヤシガニ。みんなで食べなきゃ勿体無い。というわけで、その日のバカンスをプロデュースしてくれた、友人を招いてのディナーとなったわけですが、これだけのヤシガニを茹でる大きな鍋、その鍋に張る、大量の水。それをガスで沸かしたのでは燃料が勿体ない、ということで、キャンプの練習もかねて、薪での火起こしが家の主から命ぜられます。
 折からの大雨。その中で火を絶やさず、燃やし続けることが如何に大変かを知りながら、火を点けてから30分後に漸く茹で上がったヤシガニは、生前の青紫の美しい姿はどこへやら。他の蟹たちと同じくオレンジ色に輝くのでした。
 さて、ヤシガニの食べ方ですが、ヤシガニは食べているものによって中るとも言われており、まず、第一に腹の中の腸を抜かねばなりません。これが意外に大変で、「大仏さんの耳たぶ」のような柔らかな腹を開腹し、箸などで、異常に長い腸を引きずり出します。これが切れてしまえば、また大変。腹の中に豊富に詰まった、薄オレンジ色の肝の中をかき回して、切れた腸の端っこを見つけてまた引きずり出すのです。
 また、殻は非常に固く、手で割る事は困難。ハンマーを使ってかち割って白い身を取り出します。
 こうして、漸くにありつくヤシガニは本当に絶品。

 淡白で甘味のある白い身を、油がギラギラと浮く、濃厚な味噌(肝)に浸けて食うのですが、食べたことのない味です。ピーナッツバターのようなコクと、苦味。本当は流れ着いた椰子の実食ってたんじゃないかというような、香り高いほのかな甘さ。
 幸せですね。

ズルズルと腸を引き出す。凄い長さだ。

黄色い油が浮かび上がる濃厚な味噌

少し大きいぐらいじゃ、必ず「逃がしてやれ!」と怒る
主の口すら封じ込めた、このLLサイズぶり!

(注) 資源保護の為、夏の夜、産卵の為に海岸に下りてきたモノや、大人の拳より甲羅の小さなモノは絶対に逃がしましょう!



西表島、
隣人達の事件簿

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