シロアリ襲来

シロアリが灯り目掛けて大挙して我が家に襲来!窓ガラス越し、雨戸にしがみ付く白きもの。この恐怖わかるだろうか?

 2002年、僕は長い間の自然塾居候暮らしを経て、念願のアパート暮らしを始めました。自然塾での生活は楽しくもあったけれど、やはりヒトのウチ。友達も呼べなければ、電話も気を使う。で、家賃は厳しいけれど、やっぱり部屋を借りることになったのです。
 とは言え、西表の住宅事情は最低に近い。借りたい人は多いけど、物件が極端に少ない。保証人も島の人間が必要で、西表に何が何でも住むって覚悟のある人でないと部屋すら探せません。贅沢は言えないのです。が、保証人ヒゲさんの信用、僕自身のタイミング、運のよさもあり、星の砂海岸近くの二階建て新築のアパートに入居することが出来たのです。
 西表最初のマイルーム。基本的にモノは増やさないようにしようとは思うのですが、それでも快適な生活を、と気合も入ります。特にベランダが南西に面し、高台の立地ゆえ、夕陽が海に沈むのが見える。こりゃスゴイ!
 夕陽見ながら、島の魚をあてに冷えたオリオン。泡盛。これぐらい元とってもいいよねってことで、ベランダ用の小さなテーブルとイスも用意しました。仕事終わりの最高の贅沢な時間が過ごせるようになったわけです。
 さて、5月も後半のある夕。西表はその日、風が止まり、非常に蒸し暑く感じる日でした。仕事から帰った僕は、まずは洗濯物を干し、それでいつものようにベランダのイスでビールを空けて夕陽が日に落ちるのを眺めてました。今日は外で飯でも食うかなと、日が落ちた後、徐々に暗くなる外を尻目に台所へ向かいます。と、台所の蛍光灯に小さな羽虫がどこからともなくやって来て、たかり始めました。1匹2匹3匹とどんどん増えます。これは?
「ハネアリ(繁殖のために羽をもったシロアリ)だあ!」
 あわてて僕は窓の方を見ます。確かに網戸は閉めました。閉まっています。ですが、その網戸の裏側には大量のハネアリの大群がへばりついていたのです。シロアリ襲来は自然塾でも経験があります。ですが、新居では初めてのことでした。彼らは室内の灯りに向かって突っ込んでは網戸にぶち当たり、はらはらと下に落ちていきます。そしてそれからおもむろに網戸を這い上がる。中には網戸の下の隙間から部屋に侵入してくるものもいます。それもかなりワラワラと。

窓ガラスにぶち当たっては落ちるその様子はまるで雪のよう。南の島に降る雪。ただ雪と違うのはその一粒一粒がワラワラ蠢くこと。わあ、綺麗なんて言ってられない。慌ててガラス窓を閉め、部屋の電気を消します。それでも網戸にはぎっしりとハネアリ。ああ、洗濯物。洗濯物にもいっぱいへばりついてる。こりゃ、やりなおしだな。ぶつぶつ言いながら、床をのろのろ歩くアリたちを集めます。中にはもう羽を落として、シロアリ同様になってるものもいます。その羽がまたあちこちに。
「表の廊下の様子はどんなだろう。あっちも照明があるけど」
気になった僕が今度は玄関を開けて外を覗うと、案の定、ものすごい群れが5メートル先の照明の周りに固まり、光りを濁らせています。で、覗かせた僕の顔にもたかる、たかる。即撤収です。ふと気付けば、服もハネアリだらけ。たった10秒ほどなのに。もぞもぞとこちょばゆい。脱いで洗濯機に押し込みます。素っ裸で隣の部屋、近所を覗いますが、ことりとも物音がしない。みんな電気消して息を潜めているのでしょう。
 窓を締め切った部屋は熱いことこのうえない。西表は石垣や那覇と違い、建て込んでない為、夏でも風が通り涼しいのですが、逆にクーラーがない家が多いのです。僕はそれもこの島のいい所だと思ってたのですが、この時ばかりはそれが災いしました。あつい。
 大体、日没後1時間から2時間でハネアリの襲来はやむのですが、この日はもうなんだか電気をつけるのも嫌で、また網戸にすれば、隙間から這い上がってきそうで、扇風機強にしてして不貞寝してしまいました。次の日、目を覆わぬばかりのベランダの惨状に僕が大きな溜息をつきつき、朝から現場復旧に努めたのは言うまでもありません。
 自然は手間がかかります。

朝、水を張ってあったバケツの中は落ちたハネアリでものすごいことに。水面を覆い尽くした死骸の上を羽のないアリがもたもたと歩いていた。


万華鏡みたいで綺麗ではある。

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西表島、
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