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この西表、年によってはいくつもの台風がそばを通過していったり、直撃したり、と台風の通り道にあたる島です。島民は台風が来そうだと言っては港の船をくくり、あるいは風の穏やかなマングローブの水路の中に移動させ、また家屋にも防風対策を施したりして、内地ではなかなか考えられないほど、台風には十分な備えをします。彼らにとって台風とは自分の生活を奪ってしまうかもしれない、大きな脅威なのです。
そんななか、台風の到来を望む不謹慎な人たちがいるのも事実。例えば、サーファー。西表などでは台風でも来ない限り、大きな波が立たないのです。僕がいた家の中にもそんなサーファーが一人いるのですが、その彼、上ちゃんは主の「よろこんどったら、島の人に怒鳴られるぞ!」という言葉を理解しながらも、誘惑には勝てず、そわそわと台風情報を何度も確認したり、メッカの「月ケ浜」に波を見に出かけたりと落ち着きません。
そんなある台風前の夕方、彼が波を見に「月ケ浜」に出かけた帰り道、途中の道で拾ってきたのがこのオオクイナです。道の真ん中でヨロヨロと今にも倒れてしまいそうなおぼつかない足取りで佇んでいたところを保護したそうですが、彼が家に連れ帰ってテラスに置いてみても、逃げようともせず、目をトロンとさせてフラフラ。
今にも倒れてしまいそうな保護直後のオオクイナ
小学生のジュンが、ご飯粒をあげても、まったく反応しません。まあ、もともとそんなものは食べないのでしょうが。
「車に撥ねられたんだろう。この分では今晩もたないかも知れん。まあ、段ボール箱にいれて、静かな暗い場所に置いて様子でも見よう」
家の主の言葉で、彼はスタッフの眠る離れのロフトに置かれました。
ところが、その日の晩のこと。死んでないかな、とそっと僕が箱を覗いてみると、急に箱から飛び出して逃げ回るではないですか。すみに逃げたところを捕まえられましたが、捕まえてもみても、暴れる、暴れる。先ほどまでの死にそうな様子はどこへやら。つかんだ手の中に野生の力強さを十分に感じさせます。
「えらい元気になってますよ。もう逃がせるんじゃないですか?」主に訊くと、
「おお、ほんまやな。運のええやっちゃ。脳震盪起こしただけやったんかな。まあ、明日の朝まで様子見て、そのまま元気やったら、放してやろう」
とのお言葉。
その次の日の朝、やっぱりとっても元気になっていたオオクイナは、怪我の確認をする一晩の宿主の手の中から大暴れで脱出した後、驚くスタッフたちの足元をすり抜け、一陣の風の如きすごい勢いで部屋の反対の開いている扉から走って逃げていきました。
いやあ、よかった、よかった。
段ボールの中、大きな糞を垂れていた。すっかり元気。
朝、怪我を確認するボス。暴れるクイナ。この後、逃げていった。
オオクイナ
「大水鶏」 とは言っても、シロハラクイナよりも小さく、首も短い。
国内では沖縄の南部に生息し、一年を通し島にいる留鳥ではあるが、水田などではなく、茂った藪の中に住む為、さほど見かける機会は多くない。
夜行性ではないか、とも言われ、夕方から夜にかけて森の中から「ファアア〜」という気の抜けるような鳴き声を発する。これがよくヒゲさんが飯を食べた後などに発する満足した時の声に似ているとの噂。
西表での呼び名はその鳴き声からか、「ファードル」。意味は「子取り」。恐ろしい感じがするが、昔の人にとって、日暮れに深い藪の中から聞こえる怪しい鳴き声は「魔物」を想像させたのだろうか。