キシノウエトカゲ

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 日本最大のトカゲ、キシノウエトカゲもその家に時々顔を見せる珍客でした。
 2001年の9月は台風が行ったと思ったら戻ってきて、今度こそ熱低に変わったなあ、と思っていたら新しいのがやって来て、という台風のあたり月でした。
 9月というのに気候はまるで冬のようで、あの西表の暑い夏は台風の風にぶっ飛ばされて遠くへ消えていってしまったかのようでした。
 そんな中、人間たちも再び太陽のカラッと照る日を待ち望んでいましたが、それは動物たちにとってはもっと切実な望みであったに違いありません。
 餌は取れず、体は冷え、で、暗い穴ぐらの中などでじっと耐えていたのでしょう。
 そして、待ちに待ったこの日の晴天。
 雨の後は、地面が湿り、雑草が抜きやすくなりますから、スタッフ総出で草抜き作業にかかります。

 そんな中、小学生のジュンがハイビスカスの生垣の根元で日光浴をしているキシノウエトカゲを見つけました。
 この写真ではわかりづらいですが、体長は30センチを越えます。えらが張っていないのでメスのようです。よほど気持ちいいのでしょうか。スタッフが近づいても逃げません。ほんの少し移動してまたダランとくつろぎます。
 50センチの距離から、パシパシ写真も撮らせます。
 それを見て、スタッフの一人、上ちゃんはウズウズしているようです。ここのスタッフの好奇心はほとんど小学生並みですから、珍しいものを見つけるとついつい捕まえられずにはいられないのです。しかし、自然保護の矢面に立つ塾長の下で修行中の身。天然記念物にはむやみに触れてはいけないという言葉が彼の中で葛藤を生み出します。

 が、結局、彼は誘惑には勝てなかったようです。静から動へ。殺気を感じさせない素早い動きでトカゲに手を伸ばしました。
 ところがその時、今まで眠っていたかのようなキシノウエトカゲは、信じられない機敏さでサッと身をかわし、ハイビスカスの木々の間を通って、安全な位置に身を置きました。全くその巨体に似つかわしくない俊敏な動きです。そして、そこで今度はこちらの動きをうかがっているようです。
 捕獲に失敗した上ちゃんが、再び殺気を消して、トカゲの方にまわり込みましたが、その動きはいち早く察知され、結局トカゲはコンクリートと地面の間の狭い隙間に隠れてしまいました。上ちゃんの負けです。
 ちなみにヤマネコは大きく食い応えのあるこのトカゲを好んで獲るようですが(糞の中に大量の鱗が出てくる)、それも春先、トカゲがよく日光浴をしているシーズンに多いそうです。このスタッフと同じように殺気を消して背後から襲いかかるのでしょうが、そこは本物の野生。かなりの確率で仕留めるのでしょう。
 道具がなくては人間は野生にはかなわないようですね。
 ところで、特別天然記念物のヤマネコが、ただの天然記念物のキシノウエトカゲを食べてるわけですが、これが逆だったらどうなるのでしょう。ただの天然記念物のヤマネコが、特別天然記念物のトカゲを食う。野生の中のこと、と無視を決め込むのか、それでも特別な方を保護するのか、ちょっと想像するだけで面白そうです。



西表島、
隣人達の事件簿

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