サキシマハブ

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 沖縄の山が怖いのは、やはりこのハブがいるからと言ってもいいのかも知れません。人によってはハブは山の守り神。ハブがいるから人は山に入ることにためらう。ハブが人間の開発の手から山を守ってきた、とまで言うハブ捕り人がいます。その人によれば、ハブは草むらを越すのにさえ、その上に踏み痕を残さず、わざわざ跨いで越えて行くのだとか。
 しかし、今、八重山を含め、沖縄の山々は人間の作り上げた重機の前に、ハブの神通力も通じず、朽ちゆかんとしています。
 ハブが古来、畑を耕す山村の人々を苦しめてきたのは事実ですが、それもまた、自然の中での事象だった筈。そういう一進一退の攻防も今や昔です。
 この写真のハブは「サキシマハブ」と呼ばれる八重山固有のハブで、沖縄や奄美に生息する「ハブ」よりも少し小型で、攻撃性、毒性も弱いと言われます。
 

 勤め先の裏庭には倉庫を作るのに使ったブロックの残りが積んであるのですが、こいつはそれを移動させた際に、ブロックの穴に隠れていたものです。「おお、危ないなあ」などと言いながら、僕はその辺の棒切れで頭を押さえ、ひょいと首筋をつまみあげます。この店のガイドである限り、ハブの一匹、二匹、簡単に捕まえられるようではないとお話にもならないのです。
 主がガイドとして育てるスタッフに要求する様々な事柄のレベルは、いずれも高いものがあります。動植物に対する勉強もそうですが、危険回避の方法、日常生活からの人に対する思いやり。
 そうした厳しい修行時代を乗り越え(現在も修行中ではありますが)、やっと半人前ながらもガイドの仕事を任されます。
 「ハブを捕まえる」ということもその中に含まれます。
 例えば、山道において。まず、ガイドは道端、道の真ん中にいる保護色のハブにお客さんより先に気づかなければいけません。そうして、お客さんから危険を取り除く為には、道を避けさせるのも一つの方法でしょう。しかし、ピナイサーラのような大勢の観光客が上り下りする山道では後に続く人の為にもハブの方を退かせることが道義です。自分のところのお客さんさえ良ければいいという問題ではないのです。ましてや、ガイドなしで来る方も多い場所です。
 僕の勤める所ではハブには非常に注意を払い、ガイドはハブを見つけたら、捕まえて危険のない藪の中に捨てます。ガイドも最初は緊張します。しかし、びびることは許されません。それはお客さんに不安感を与えることになるからです。また、びびる心は行動に躊躇を生み、自らの危険を高めかねないのです。だけど、やっぱり最初にハブを捕まえるのには非常に緊張したものですが。

 話は逸れましたが、そのブロックのハブは今回、観察の目的でしばらく飼われることになりました。蓋に穴を開けた口の大きいビンの中に僅かな水滴とともに入れておきます。ハブは最初こそ、出口を探して頭を伸ばしたりしていましたが、すぐに落ち着いたようでした。
 そしてしばらくして、ビンを危険のない場所に移そうとした時です。
 ハブがビンに伸ばした手に内側から攻撃をしかけたのです。それは目にとまらぬ素早い攻撃でした。ハブの攻撃を初めて実際目にした僕も大興奮。
 指を近づけてはハブの攻撃を煽ります。やがて、ハブが無駄と気づくまでそれは続きました。
 

 更に夜のハブはそれにも増して鋭い攻撃をします。煙草の火をほんの少し、近づけただけで、躊躇なく飛びかかってくるのです。ハブは一般に目が悪く、ピット器官と呼ばれるところで熱を感じて攻撃する、と言われていますが、頷ける行動でした。夜の山での煙草は体がいくつあっても足らないですよ。いや、ホント。ご注意あれ。


餌のヤモリに鋭い毒牙を打ち込んだハブ。完全に毒がまわるまで放さない

西表島、
隣人達の事件簿

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