幻の解禁日


 私事で恐縮なんですが、今年(2002年)の3月、4歳上の兄が結婚したんですよ。
タックルレビューでも少し触れていますが、兄も自分と同様フライをやるので、マテリアルとかタイイングツールの貸し借りとか、ギブアンドテイクの関係でうまくやれてたんですね。(例えば少しだけ黒のハックルが欲しい時など。買うほどじゃないけど・・・という時)


しかし結婚して新居にフライ用品はほとんど持っていったんで、今ではタックル、ツール、マテリアルともに慢性的な品不足に陥ってます(泣)


まぁ、それは別にいいとして、結婚式は海外(バリ島)で挙げたんですが、結果的には世間体から呼ばなくちゃいけない人でも、『海外で式挙げるので』て感じで、波風立たずに断れるんで、一週間10人以上で一流ホテルに泊まって挙式したにもかかわらず、日本で式挙げるより格段に安く上がる始末。



なかなか抜け目ない兄夫婦ですね。世間の渡り方と金の使い方うまいわ。
一生で何回会うか分からない遠い親戚何人も呼んで無駄な金使うより、親しい人達だけで豪遊+挙式

非常に効率的です。




でもね、よく考えると、





結納は日本風


挙式は海外(バリ島)


式はウェディングドレス着て欧米風


神父はインドネシア人






何だよコレ?



いやもう、どこの国の人ですか? ッて感じですよ。







幕の内弁当みたいな結婚式でした。








でも、今振り返ってみても兄夫婦の結婚式は同伴した自分も含めてメッチャおもしろかったです。
ここ二年ぐらいの間に親戚が二人結婚して(二人とも男)式に参加したんですが、親族紹介で『新婦の母親の妹の娘の旦那です』とか、多分この人と会うのはこれが最後だなって思う人がわんさかいるんですよね。



『新郎の兄の息子に昔助けられた犬の元飼い主です』とか、さらって言われても気付かないんじゃないかと思う(いや・マジで。紹介なんて聞いてないし)

 さらに、これから遠い親戚になるのに、顔も名前も続柄もよくわからんその人が、小さい子供とか連れてると、『チッ! このガキも俺と同じヒレステーキ食うのかよ』なんて考えると、やるせない気分にもなりますよ(←なるなよ)


兄の結婚式見て、いつになるかわからないけど、結婚するなら自分も海外がいいなって、ホントに思います。



では、本題です。

上の文からすると、この一言二言は『兄の結婚』とかそんな感じですが、『幻の解禁日』こう銘打たれた本題をお話しましょう(『話してないやん』とか言うなって)



あれは二月も終わりに近づいた早春。部屋にはまだ暖房がはいっていた。
無論『Fly High Fisher』は、まだこの世に誕生すらしていない。






 その日、家族全員でパソコンの画面を覗き込んでいた。
開いているページは『デジタルビデオカメラ』

 現地で旅行会社のプロのカメラマンが結婚式を撮影してくれる事になっていたので、最初はデジカメと普通のカメラだけ持っていくはずだったが、母親が

『一生で多分一回しかない事やから、やっぱりビデオが欲しい』
と言い出したんです。(母上様、『多分』ってどういう意味ですか?)

反対する理由も見当たらず、議会はビデオ購入をあっさり可決。
後にこのビデオは『自分を見よう』で使用される事になる。



一方俺は機械に強いって事もあり、早々と新婚さんの専属カメラマンに強制的に決定してたんで、どのビデオ買うか真剣に選ぶ。

だって、説明書読んで使い方覚えるの俺やもん



さらに、俺はビデオを急いで選ぶ必要があった。なぜならこの日は2月27日夜。
全国各地で多くの渓流で解禁日を迎える3月1日まで48時間を切っている。


何を隠そう、今年の解禁は各地の渓流を3日間、車で寝泊りしながら釣り歩く
『解禁ツアー2002』を計画していたので、チンタラビデオ選んでる暇があったらミッジフライ巻いたりタックル手入れしたり、しなければいけない事が山ほどあったのだ。

解禁3日までを数箇所の渓流で過ごし、釣りから帰ってきて1日休んでバリ島へ1週間の旅行(結婚式)

これ以上ない最高の計画。



しかし、ビデオ選考は『10万以下にするか、思い切っていい物を買うか』で意見が分かれ、一向に決まらない。



イライラする自分。そして周りをウロウロする愛犬ミッキー(♂)。

結婚式の段取りと海外出発のドタバタで、最近まったく遊んでもらえなかったミッキーは久々に家の中に入れてもらえたのが嬉しいのか、しきりに周りをウロウロしている。


パソコンの画面を覗いているみんなの間に頭を突っ込んできたり、イスに座っている俺の脚に手をのせたり、『相手してください』というオーラをプンプン漂わせている。



あまりにも鬱陶しいので、俺はミッキーの首輪を掴んで強引に部屋から出そうとした。














そして悲劇は起こった







不意にミッキーは俺の手を振り解き、反転。


次の瞬間『ガルルウゥゥッ・・・・!』と、うなり声を発した。

たまに脚とか引っ張ると唸るので、さして気にせずもう一度首輪を掴もうとした。




その時!!!



『ガウッ!』


という鳴き声と共に、鼻の上にシワをよせてミッキー・突進。

















ミッキー
左腕にフィッシュ・オン!!!























・・・・・。

姉さん 大変な事になりました









一瞬、何が起きたか分からなかった。左腕に激痛が走り、血が流れる。

『噛みやがったな! コイツ!!』 俺・戦闘モードに切り替わる。



左腕を押さえながら立ち上がろうとした。


・・・と思ったら、ミッキー・再度突進















ミッキー
右手にもフィッシュ・オン!!!!!




しかも











はなしてくれない(泣)







がうがうがうがう!!!



イタイタイタイタイ



がじがじがじがじ!!!!



イタイタイタイタイ



薄れゆく意識の中で俺は思った。










味わってやがる・・・。




10秒か、20秒か、噛まれている時の事は覚えていない。
右手がようやく開放され、俺は洗面所に向かい流水で傷を洗った。


右手のいたる所から血が噴き出し、洗面所が赤く染まる。

しばし悶絶。



小学生以来、十何年ぶりかで痛くて泣きそうになった。



血を洗い流すと、右手の指から肘にかけて無数の『穴』があいている。
覚えていないが何度も噛まれたらしい。





薬指の爪は完全に割れ、肘の中央には直径8mm程の穴。右腕は牙の痕だらけ。

とりあえず手を握ったり開いたりしてみる。



・・・なんとか動く。唯一ホッとした瞬間だった。



すぐさま病院へ。隣の部屋ではミッキーが兄によってロープでグルグル巻きにされて転がっていた。



病院へ行く車の中で、俺は『せっかくの解禁日が』を繰り返した。
怪我より解禁に行けなくなったのが本当に悔しかった。


病院へ急患用の入り口から入る。
しばらく待って医師が来たので診察室へ。


『うわー! こりゃまた派手に噛まれたなー。』


そう言って消毒を始める。全く痛くない。右手がやたら冷たくなっているのがわかる。
『手を開いて』とか『指一本ずつ閉じて』とか言われ、グーパーグーパーする。
『折れてはなさそうやなー』
右手〜腕が包帯でグルグル巻きになっていく。

看護婦さんが『どんな犬?』とか聞いてくるが、解禁に行けなくなった事で頭がいっぱいで適当に答える。



医師 『実は僕も何度も噛まれた事があるんだよねー』 そう言って傷跡を見せる。

看護婦 『へー。先生も犬飼ってるんですか?』 













 『イヤイヤ・・・僕の場合は、ほら、動物実験で』





・・・・全員沈黙


その後、先生によって『上手な犬の噛まれ方』講座が始まった。

先生曰く
『もし噛まれた瞬間、手を引いていたら指が無くなっていた可能性がある』(コエー!)

余談だが、意外と軽傷だった左腕は気付いてもらえず(汗)



次の日、病院へ行って診察室に入ると、看護婦さんが集まってきた

『犬に噛まれた人ですよね?』

『飼い犬に噛まれたの?』

『うわーっ! コレは痛そう』

『どんな犬なんですか?』

『彼女はいるんですか?』

『看護婦は好きですか?』

『今度一緒に食事行きませんか?』

『よかったら私の彼氏になってくれませんか?
(はぁと)

矢継ぎ早に質問が飛んでくる

気が付くと周囲は看護婦だらけ。




俺・一夜にして有名人



それから5日間病院に通い、事情を説明して一週間分の包帯と消毒液、化膿止めをもらい、一路バリ島へ出発。


風呂に入る時は苦労したが、本当に楽しいバリ旅行結婚式だった



薬指と腕の包帯が痛々しい。
手当ては自分でやったので、傷が浅い所は全て無視
(オイ)
こんな手でもやっぱりカメラマンだった(泣)

(断っておくが階段の2段下に立ってるだけで、背が低いわけではないゾ)


宿泊したバリ・ヒルトンホテル
いい所でした。また行きテー!





バリ島から帰国し、再度病院へ。
今までとは違う先生が担当で『レントゲン撮っておくか』と言う事でレントゲン撮影。



しばらく待って名前を呼ばれて再度診察室へ。



先生 『爪が割れてるよね?・・・あのさ、噛まれた時痛かった?』


俺 『は? そりゃ痛かったですよ。』


先生 『すごく痛かった?』


俺 『すごく痛かったです』


先生 『ものすごーーーく痛かった?』


俺 『いやもう、この世の終わりかと思うぐらい痛かったですけど』


何回同じ事聞くんだよこのボケと思っていると、医者はレントゲン写真を見せてくれた。




パサッ















だって、折れてるもん


















は?










右手薬指のレントゲン










関節が一個増えてるよ!!!!!






『でもね・この一週間でほとんどくっついちゃってるから、無理しなければ大丈夫だよ』

『よかったね。変にくっつかなくて』






・・・僕ね。褒めてあげたかったよ。




骨折してる手でカメラ撮り続けた自分を(泣)

でもさ、爪貫通して骨折れてたって事は、指喰いちぎられる寸前だったって事だろ?

笑い話じゃないですよね。ホント





そんなわけで、解禁日には行けなかったけど、帰ってきてから行きましたよ。釣りに。






骨折してるのに。





この一件で思ったのは、俺は本当にフライフィッシングが好きなんだなって事。
足と片方の腕が使えるから、躊躇なく釣り行きましたから。


多分、ジジイになっても続けてると思いますね。


番外

このページ作ってると、『幻の解禁日』にしてくれた張本人が、横でぐーすか寝てやがるんですよ。せっかくなんで写真載せときます。

噛み付いたくせに、雷がなると俺の座ってるイスの下に逃げ込んでくるふざけたヤロー。


特徴:足が一直線に伸びる


起きている時。

普段は極めて人懐っこくて、恐がり屋さん。
散歩中、他の犬に吠えられてもほとんど吠え返さない。

好きなものは50歳ぐらいまでの人間のメス。
ババアと人間のオスは大嫌い。

近所の子供達に絶大な人気を誇る。
通学・帰宅中の女子中高生にも大人気。

近所の八百屋で買い物する時、木につながれると
知らない人になでてもらっている。




噛みつき事件以降、他人との接触を極力絶っているため、たまに知らない人が相手してくれると猛烈に喜ぶ。ソトヅラだけはとても良い。






個人的には鬱陶しいのであまり好きではない(噛まれたし)


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