「扉」

その扉を見つめていた

他に客は1組

その扉を見つめていた
彼女が扉を開けて入ってくる姿を
幾度となく空想しながら

Gin Limeが彼の魂を支配するまで
起こるはずのないことを考えつづけてた

ほとんどの人の言葉を彼女は聞き逃した
彼はわざと彼女の言葉を聞き逃した

ほれてた気持ちを強制終了したのは
当日欠勤を逃れるため
ほれてた気持ちをUndoしたのは
歳をとって寂しくなったんだろう

自分都合で生きてなきゃ
こなせないほどのRiskをかかえてた
そこまで溜めたのは
ただの意地っぱり
それでもってるのがこの市場
半べその彼をマスターが笑った
彼女も恥ずかしげに笑った
8年間なんて
長いようであっという間だった

まるで瞬きを2、3回する間に過ぎ去ってた

ここまで生き続けた
その過程の荷物を
やっと下ろすことを許された日だった
最初で最後の願いが叶った夜だった
彼女の微笑みが
すべてを許してくれた


マスターが閉店を告げた
氷で薄まったGin Limeを飲みほす

鈴の音が鳴ったのはたった一度だけ

恨めしそうな顔で
その扉をでてゆく男
客が帰って取り残された

マスターの背中が
隠しきれない拒否を
ものの見事に隠し切って
つらかったけど
あと5分
あと5分だけと自分に言い訳を繰り返した

かすかな鈴の音がした
扉が開いて
彼女がゆっくりと階段を降りてきた

映画のように
長い髪をスローモーションで揺らして

恐くて目を合わせられなかった
なつかしいいい匂い
稲妻に打たれたように痺れて
心臓がキュッと縮まって
気の利いた小ギャグも言えなかった