「お前はよ・・・・なんか知らんが、だんだん美人になってくなぁ」


ぼそりと、そしてうっとりとした表情を浮かべながら呟いた東条の科白に、男鹿はぎょっと

目を見開いてからすかさず距離をとった。

・・・・否、とったと思ったがそれを上回る瞬発力で、東条の腕に引き腰になった身体を捉えられる。

もっと警戒しておくべきだった、と後から思った処で後の祭りだ。


「てめっ・・・何キメぇこと言ってやがんだっ!!ふざけてんじゃねー!!」

「や、マジですけど」


真顔でふざけてませんけど、と宣う馬鹿力の持ち主は文字通りだけでなく、残念ながらあたまの方も

馬鹿なのか。ベル坊ごと羽交い絞められた男鹿は自分の事は棚上げ上等、ギュウギュウ締め付けてくる

腕をどうにか外そうともがきながら、心の中で悪態をついた。

ここがどちらかの家であればまだ抵抗も控えめに鉄拳あたりで済ませられただろう。

しかしどうだ、此処は天下の聖石矢魔高校、の屋上である。

ちなみにベル坊の3度目になるミルクの時間でもある。


「ウウウ、ヴー・・・・ダーウー!!」


―― だから。

2人に挟まれて窮屈極まりないこの状況で、ミルクの時間を邪魔された例えようもないこの怒りで。

魔王の赤子が盛大に電撃を発しながら泣きだしたのは当然の結果であった。


















                        
NAGORI−YUKI

















焦げてしまった制服のなれの果てはゴミ箱行き。

あぁまた叱られるなと男鹿は濡れた息を吐きながら、ちらりと床に散らばった焦臭を放つ原因を見やる。

所々にシャツを引っ張られた時に飛んだのだろう、釦が落ちていて。

まるで強姦にでもあっているかのよう。

いくら使いものにならなくなったシャツだとて引き裂く意味が何処にある?否、ない。

何故こんな事になったのかと思い返せば、嗚呼そう言えば、恐らく長い間お預けを喰らわせていた

大虎の理性(そんなものある訳がないと知っているが)をふっ飛ばさせてしまった己の所為だ。

現実を逃避する自問、解りきった因果の自答。

かれこれ触れる事を禁止してからどのくらい経ったやら。

確か2週間ほど前に無茶を強いられた男鹿が「触ったら別れる」と宣言してから、彼にその禁を

解いた覚えはない。

と言う事はその間、東条はお触り禁止という最も辛い拷問を受けていた事になる。

その溜まり堪った結果がこれか。一瞬遠い目をした男鹿の脳裏に自業自得という言葉が浮かんだ。

空気を読むことに関しては最早エキスパートになってしまった眠れる悪魔の赤子は隣の部屋。

15メートルって不便なようで便利なのね。

今度こそため息をつこうとして、男鹿は男の節ばった指で顎を捉えられて真正面を向かされた。

はっと我に返った時はすでに遅し。


「何処見てる?何考えてやがる」


牙を剥いて口唇を覆うその荒々しい口付け、口腔内を傍若無人に探る侵略者の舌に捕まる。

獣か何かに食い荒らされている気分だ、と男鹿は思う。身体中を弄る分厚く硬い掌もそう。

東条とのセックスは互いを慈しみ愛し合う行為、なんて可愛らしくロマンティックなものではない。

元々の始まりが喧嘩の延長戦からだったせいか男鹿の身体には、肌を重ねる度其処ら彼処、否、

身体中に情交の痕が色濃く残るのだ。

例えば手加減なしに吸いつかれた肌にはまるで青痣のような鬱血痕。

甘噛みなんてされた時には下手をすると血が滲む。腕や足を拘束されれば指の形が残るし、それはもう

他人から見れば「本当に合意?」と聞きたくなるほど酷い有様だった。

好いた人間に己の付けた痕を残したがるのは本能。東条のそれは些か桁が外れすぎて強烈だが、

それを何も言わず甘んじて受けている彼もまた結局の処、同じ穴の狢なのだ。

もちろん男鹿もやられればかりではない。そんな訳がない。

同じくらいに頭突きと、拳と、蹴りと、その他諸々が飛ぶのだ。


『最早セックスではないよねソレ』


古市の見解はもっともだ。

しかし互いに解っているから遠慮はしない、やるからには徹底的に貪り尽くすのが暗黙のルール。

これが2人にとって愛の確かめ合いだというのだから、なんて情熱的ではないか。


「余所見してる余裕なんて、ねぇくらい奥まで突いて揺さぶってやろうか」


興奮を促すような東条の口付けと愛撫、本当にしかねない冗談とも思えぬ科白に男鹿はぶるりと

身を震わせて、返事の代わりに美しい曲線を浮かべる逞しい鎖骨に思い切り齧りついてやった。


「中で出したら、ブッ殺す」


言って聞く男ではないと、知ってはいるけれど。

以前、後処理が大変なのだと怒鳴ってみせたら「掻きだしてやるから尻向けな」とセクハラを受けて、

それ以来忠告はするが好きなようにさせているのが常だ。

10回中10回、中で出されるものだから、もう忠告すらするのも無駄のような気がしないでもないが。

長大な砲身をずるずると入り口に引っかかるまで引き抜かれて、間も置かずに最奥を穿たれる。

勢いに負けて腰が浮くのを東条の手が押さえつけて、衝撃を逃す事を赦さない。

内側を擦られる、と言うよりは抉ると言った方が近い注挿に男鹿は抑えきれぬ声を漏らした。

慌てて手で口元を覆うがバッチリ聞かれてしまったようだ。

快楽を秘めた、普段からは想像もつかぬ恋人の甘い声を聞けた事がよほど嬉しかったのか、

東条は愛しいと全身で語っているのが解るほどの笑みを浮かべて。


「オレしか聞いてねぇよ。オレにだけ、聞かせとけ」


と、たった今獣同士の交わりのような行為をしていたとは考えられぬほどの優しいキスを額に落とした。

甘い雰囲気が苦手な男鹿は、恋人同士のふとした時に訪れる“これ”に中々慣れない。

ぶっちゃけ“これ”が漂い始めるくらいなら殴り合いをしていた方がマシだと思うほど。

気恥かしくて、真っ赤になってその弧を描く口唇に噛み付いて舌で沿れば、触発された男の、残っていた

最後の理性など脆くも儚く砕け散るのだった。

散った後は何も残らない、あるのは気持ち良くなることだけを考える思考と満足し得るまで繋がりあう

この身体だけ。痛いほどに抱き締められながら深い場所を穿たれて、男鹿は堪らず広い背中に両腕を回す。

それが尚更東条を煽るのだとは気づかない。


「・・・たつ、み」

「・・・・っ、ア、はァッ・・・!と、うじょ・・・っ・・・」


ぐちゃぐちゃと聞こえる卑猥な水音が一層激しさを増して2人の耳と、狭い部屋の中に響いた。





















***********











「・・・・・やっぱだんだんと美人になってくな辰巳は・・・」

「まだ言うかてめぇはっ、美人ってなんだ美人って!この男らしい俺様を捕まえて!」


一般高校生からすると少々大柄な男2人が狭い布団にくるまって暴れる様からは、到底恋人同士の

情後などという甘甘しい雰囲気は微塵も感じられない。

ピロートークよりも拳で語り合うボディートークの方が好みの様だ。

昼前に東条に言われた「美人」によほど腹が立っていたのだろう、2度目は許すまじ、と男鹿は起き上がり、

隣で横になっている男の顔面を目掛けて鉄拳を振り落とす。

しかし難なくそれを受け止められてしまって、更に身体を引き寄せられて羽交い絞められてしまった。


「んー・・・美人っつうか、それもそうだけど・・・・ああ!そうか!」

「んっだよ、また下らねーことほざくんじゃねーぞこのエロが!」










「お前、色っぽくなってきたんだ」









しん、と一瞬の静けさが部屋の中を襲う。

あんぐりと口を開けて数秒ほど固まった男鹿は、本日2度目の羞恥に見舞われた所為か今までに

ないくらい顔から首までを真っ赤に染め上げた。ボン、と音がしたように染まったそれを東条が茶化す。


「んなっ・・・・なぁっ・・・・!はぁああ?!」

「たぶんオレに抱かれまくってるから、こう・・・エロい色気が出てきたんだ」

「おいコラ、エロい色気ってなんだ?!ちょ、テメそこへ直れや」

「間違いねーって。きっともっとヤりまくったらもっとスゲー色気ガフォアッ!!!」

「ブ・チ・ノ・メ・ス」







それはもう怒りまくった男鹿の機嫌が治るまで、無期限の「お触り&近づくの禁止令」が発令されたのは

言うまでもない。口だって聞いてくれやしない。視線すらも合いやしないの無い無いづくし。

ひたすら犬のように尻尾を振って謝り倒す東条の姿が聖石矢魔高校の校舎内で頻繁に見られたそうだ。

―― ただ。

同じく禁欲を強いられている男鹿の我慢が何処まで続くかは、不明である。















END















久しぶりの虎辰でした。
なんかこの話を書き始めた最初は、こんな話になる予定じゃなかったんです。
や、「男鹿って美人だよな」と惚気る東条を書きたかったのかも知れないけど・・・・
2人以外に誰もでてきてねーし(笑)
だってエロちょっと入れ始めたら他のキャラ出る幕なくなっちゃった(笑)ゴメ・・・・。
特になんてない、日常の虎辰1コマでした。

ちなみにタイトルの「NAGORI−YUKI」は、
な/ご/り/雪=「今、春がきて君はキレイになった」=春がきて=恋人同士でニャンニャン(爆)

からです(失笑)