「魔王の親になってからお前ってホントなんでもありだよなー」 ヒルダさんバリの胸だな、との友人の感嘆などお世辞にもならない。 さらしだけでは厚みを隠しきれないほど豊満な胸も、いっそう細くなった腕も腰も足だって。 己が望んだわけではないのに―・・・・。 古市の不躾な視線を鬱陶しそうに振り祓いながら、男鹿は改めて自分の変わり果てた身体を見下ろした。 ベル坊の夜泣きを止めるためにと半ば騙された形でヒルダに飲まされた、悪魔の薬のせいで 男鹿の身体は男にあったにも関わらず、女のように柔らかい胸がついてしまった。あるべき場所に あるべきモノがなくなって、代わりに女のような受け入れる場所ができてしまった。 背も、縮んだのか古市よりも目線が低い。 早い話が“ような”で済む話ではなく、男鹿 辰巳は女になってしまったのだ。 「いっそこのままでいろよ、な。な?」 「 古 市 は 会 心 の 一 撃 を 喰 ら っ た 」 辰巳ちゃんの憂鬱 − カレカノ番外1 − 「彼女お茶しない?」と声をかけた男はにっこりと笑顔を浮かべたまま宙を舞った。 その後すぐに「彼女ヒマなら遊びにいかない?」と声を掛けた3人組の男達も同じく宙を舞った。 街路を行き交う人々はその清々しいほどあっけなく人間が空を飛ぶ様を目の当たりにし、 こう思ったに違いない。人間、鳥の翼がなくとも飛べる。 何事もないように殺人並みのパンチを繰り出した少女はと言うと、握り拳に付着した返り血を、 道に転がっている男のTシャツで拭っていた。 背中に背負っている赤ん坊の可愛らしい笑い声、誰もが振り返るような容貌を持つ可憐な少女。 なのに血なまぐさいこの光景だけが余りにもシュールで、ミスマッチで。 「これで何人目だよ、ったく・・・・アホばっかりだな」 ぼそりと囁いた言葉はざわめきの中へ。周りがそそくさと道を開けて遠ざかっていく様はまるでモーゼだ。 そんな周りの反応など気にもせず、コキリとひとつ頚を鳴らして人という波の間を歩いていく。 モーゼ・・・・男鹿 辰巳は母親に頼まれた買い物メモをポケットから取り出して、それを読み上げながら 目的地であるスーパーへと向かうのだった。 男鹿家御用達のスーパーは品ぞろえも豊富で、何といっても午後4時からのタイムサービスと 値引きが魅力的だ。今日の獲物はハンバーグ用のミンチ。 いつも買い物は母親が済ませるのだが、今日に限って家族全員他の事で忙しかったのとタイムサービス 狙いという理由が重なって、ちょうど手の空いていた学校帰りの男鹿に白羽の矢が立ったのだ。 急かされるように家を出てきたため、慌てて着替えた男鹿の格好は男だった時と同じ格好をしている。 さらしを巻きなおす時間もなかったので中になにも着ておらず、Tシャツ一枚にハーフパンツ。 ツン、とシャツを押し上げる胸の尖りがどうしても人目を引くのだが解っていないのは当の本人だけ。 それに魅了され誘惑された何人もの男達に声を掛けられるのも、当たり前というもの。 無知であることは罪である、とはよく言ったものだ。 幾つもの屍が後方に転がるこの道をもう少し歩いて交差点を曲がれば、目的地は見えてくる。 その交差点に差し掛かろうとしたときだ。 本日何回目になるか解らない誘いの科白が男鹿の耳をつき、鬱陶しさの余り振り返ると同時に 握りしめた拳を声のする方へ突きつけた。 「・・・・・っと危ないなぁ」 「・・・・・・・・・・」 ヒットした感触はない。バシ、と鋭い音を立てて男鹿の拳は捉えられたのだ。 石矢魔高の学生服を着た、一見優しげな風貌、髪の長い男に見覚えはない。 男鹿が訝しげに眉を顰め自分を見上げているのを悟ったのか、男は仕方ないとでも言うようにため息をつく。 「また忘れちゃった?そんなにオレって印象薄いかなぁ・・・・・」 「誰だてめぇ、喧嘩売りたいなら後にしてくれ」 「これ以上忘れられないよう、男鹿ちゃんの記憶にオレを刻んでもらえるようにしなきゃね?」 「おいコラ人の話を・・・・」 捉えられた右手がびくりとも動かない。動かせない、外れない。 そのまま勢いよく右手を引っ張られ、男鹿の身体はあっけなく男の胸の中に倒れ込んだ。 「へー、男鹿ちゃんが実は女の子だったって噂・・・本当だったんだ」 スル、とTシャツの裾を割って潜り込んできた掌が、下着をつけずとも形の良さをキープした膨らみを 鷲掴み、ふにゃりと形を歪ます。緊張の走った男鹿の反応に気を良くしたのか、男は僅かに硬さを増した 胸の尖りを指の腹で擦りながらにこりと笑みを浮かべた。 「っつ・・・ナニしてんだコラァ・・・離せ!」 「多少強引だけど、覚えてくれない君が悪いんだから」 自業自得、と普通の女性ならば陥落してしまいそうなほど甘く柔らかな囁きが耳を擽る。 ぞくりと這いあがった悪寒を振り祓うように男鹿は卑猥な行為を続ける男を睨み上げたが、その瞬間を 狙っていたのか、男は上を向いた男鹿の口唇を素早く己のそれで塞いだのだ。 無理矢理深められる口づけ、驚きに閉じることも忘れた口腔内にヌルついた舌が入り込む。 敏感な舌を舌で舐められてようやく我に返った男鹿が、思いっきり歯を閉じた時はすでに遅く、 男は堪能したキスに満足そうに、それでも下唇を名残惜しげに舐めて離れていった。 それまでもがこうと離さなかった手をすんなりと離され、力の抜けた身体がガクリと落ちる。 辛うじて膝をつかなかった事が救い。 「いい加減覚えておいてね?男鹿ちゃん・・・・オレの名前は夏目だよ。次会って忘れてたら もっと凄い事するから。その背負ってる赤ん坊には今したキスより目の毒だよ?」 だから覚えてね。 と、傍から見れば人の良さそうな笑みを浮かべ、男―・・・夏目は手を振って何処かへ行ってしまった。 「・・・・・・・・・ふざけやがって」 赤くなった口唇を何度拭ってみても、感触だけがいつまでも残っていた。 *********** 「で、お前は何を拗ねてんだ?会いに来てくれんのは嬉しいけどよ」 見なれた部屋、落ち着く事を知った匂いと温もりと。 だんだんと気が静まっていくのを感じて、男鹿は抱きしめてくる広い腕の心地よさに身を委ねた。 返事は返さなかったが何かあったと察してくれているのだろう、頭を撫でてくる手が優しい。 疲れたのかベル坊も彼のベッドでぐっすりと眠っている。 男鹿はあの後スーパーへ向かわず東条の家へと走ってきたのだ。あんな男に好き勝手にされた。 女扱いするように厭らしく身体を触られて、挙句に口唇まで奪われて。 悔しさや腹立たしさに加え受けたショックも大きくて、気がつけば東条の処を訪ねていた。 今までなら間違いなく古市の処へ潜り込んでいたのにな、と男鹿は心の中で自分の行動を自嘲する。 「辰巳?」 「うっせぇ・・・・黙ってこうしてろ。手はだすな、動かすな」 「え、拷問?」 ベッドサイドを背もたれに座った東条にしがみ付いて凭れかかる体制は普段の男鹿なら絶対にしない 甘えた行為だ。なのに今日は何故かギュウギュウしがみ付いてくるではないか。 東条は男鹿のその可愛らしい行動を不思議に思ったが、何を聞いても答えは返ってこない。 だがそれはさして問題ではないのだ、原因は解らずとも滅多に甘えてこない恋人が折角こうして すり寄ってきているのだから。 拒む理由など何もない。 しかしひとつ、ひとつだけこの状況を拒む理由とすれば。 「辰巳・・・・その、手をだすなと言われたが・・・な、お前の胸が当たって、こう・・・・」 ふくよかな胸の丸みが東条の胸に押し当てられて形を崩している。 Tシャツの胸元から覗く大きな谷間は、上から覗ける位置にある東条には堪ったものではない。 「―・・・・・・ス」 「あ?よく聞き取れねー」 「だから、キスしてくれたら触らせてやってもイイぜ」 「たつ」 許しを得てピクリと反応した東条の手を取って、頬に導く。 挑発的な笑みを浮かべて、男鹿は己の口唇をひと撫でしてこう言うのだった。 「但し。腰が抜けちまうくらいの―・・・な」 あの男の感触を消え去れたら、お前の好きにしていいよ。 と。 甘い雰囲気に差し掛かった処で、ピピピ、ピピピ、とズボンに入れていた携帯が無粋に鳴り響く。 この音は家からだ、空気読めよな、と悪態をつきながら男鹿はボタンを押した。 「もしも―・・・・・」 『辰巳いぃ!!アンタ何処にいてんのよ、さっさと帰ってこないと夕飯作れないでしょうが!! ちゃんとミンチは買えたんでしょうね?!』 けたたましい母親の声が、電話越しにも関わらず東条の部屋に響き渡る。 そういえば買い物の途中だったのだ。 「やっべぇ忘れてた!ベル坊起きろっ、スーパー行くぞ!」 慌てて立ち上がり、男鹿はまだ眠っているベル坊を抱き上げて部屋のドアへと踵を返す。 そのまま走りだそうとした腕を咄嗟に捉えたのは、切羽詰まった表情の東条だった。 「ちょ、待て辰巳っ、中途半端に盛り上げといてそりゃないだろ!」 「知るかそんなこと!今はこっちのがヤベーんだよ、お袋とアネキがキレると手に負えねぇ!」 1人でやっとけ、と言い残して嵐のように部屋を出ていった男鹿を追いたかったが、下半身に熱の籠った 今の状態では追うに追えず。東条はふつふつと湧き上がる怒りに。 「あんにゃろー、絶対泣かせてやる」 と、リベンジを企てた事は出ていった男鹿には知りえぬ事だ。 男鹿 辰巳の受難はこうして続いていく。 END |
にょた小説の番外とか書いてますけど、別にこれ女体化しなくてもよくね。
普通の男鹿タンでもよくね。
ちょっと甘えたりするのが大目になってるのはきっと女の子になってるからだ。
普段の男鹿タンならこんなことしないネ!デレなんてないよネ!
憂鬱っていうか、受難だよ。いろんなキャラから言い寄られる男鹿タン!総受けバンザイ。