恐らく男鹿にとっての俺、古市 貴之という存在は、ダチであり悪友であり家族にも近いものだと思う。

だが俺にとっての奴は少し違う。

ダチであり悪友であり家族でもあるが、それ以上に――・・・・・








                       リミットアウトにご注意









思えば出会いは小学校の頃だった。あの時の奴はそれはもう可愛いの愛らしいのって

よくご近所様から“女の子”と間違われるくらいの容姿をしていて。

いやマジで。これが。

俺よりも小さくて少し長めの髪の毛。今でこそ179センチと平均以上の体格をもった釣り目悪人顔の

ふてぶてしい野郎に育ってしまったが、当時の悪友―・・・男鹿 辰巳は本当に少女のように

可愛らしかった。小学校から中学にあがる頃にはもうその面影は消えてなくなっていたけれど。

本当に詐欺だと何度心の中で叫んだことか。

だってなにがって、そりゃ、俺の初恋が奴だからである。

ぶっちゃけて言えば「離れられない」のはヒトメボレした弱みであって、何の呪いか未だそれは

現在進行形で。どんなに凶悪に変わってしまった奴でも俺にとっての奴はまだあの時のまんまなのだ。

―・・・なのに、なのに。

最近男鹿の様子がおかしい。奴の周りには今まで女の影など一切なかったのは言うまでもないのだが、

何故か嫌に、やけに、みょーな色香を持ち始めた事に気づいた。

ふとした仕草や見せる表情が、本人に自覚はまったくないのだろうがこう、誘っているような。

何時からだ?俺の知らないところで女でも作ったのか?でも奴はそんなに器用な方ではない。

ヒルダさん、な、訳ないな。殺される。

まぁ相手が誰であれ男鹿を変えるほどの人物が現れたのは事実だろう、悔しいが。

見てしまったのだ、暑さにクイ、とシャツの胸元を持ち上げた時に現れた鎖骨に色づいた紅色に。

幾つも散りばめられたそれはもう、目が釘付けになるほど艶やかで。

どれだけ執着心が強い相手なのだろう。

悔しい、それを知ったときから姿の見えぬライバルに言い表せぬ怒りを感じていた。

同時に男鹿をこんな風に変えることが出来たその人物が、羨ましいとも思えた。


「古市?さっきからなにボーっと間抜け面してんだ」


ベル坊のミルクタイムにと教室から移動した校庭。

過去の思い出に耽りながら友の横顔を眺めていた俺に、その張本人は胡散臭そうに視線を合わせてきた。

「辰巳ちゃん」と呼んでいたあの頃が懐かしい。男鹿を男鹿と呼ぶようになったのはいつからか。


「なー男鹿ぁ」

「あ?・・・っとベル坊、ミルクこぼしてんぞ」

「また辰巳ちゃんって呼んでもいー?」


零れて顎につたつミルクを丁寧にふき取っている男鹿の動きがピシリと止まる。

明らかに目が「何言ってんだコイツ」と言いたげに見開かれていた。解ってるよ、変なこと言ってる事くらい。

けれど結局気持ち悪いからだめだと一蹴されて、俺の願いはあっけなく終わってしまった。

でもちょっと顔が赤く染まってる。なんだ、照れてるだけなのか。やっぱり可愛い。

ミルクを飲み終えてお昼寝タイムに入ってしまったベル坊の髪の毛を意外にも優しい手つきで男鹿が梳く。

よく見ると細くてすらりと長い指。喧嘩慣れしているはずなのに、驚くほど綺麗な手をしている。

そういえば男鹿が喧嘩に滅法強くなったのは小学生のときだったか。

出会った頃は今のように柄の悪い不良どもに絡まれることもなく、クラスの仲間と楽しく遊んでいたのだ。

だが男鹿のあまりの可愛らしさに、変な大人の男達が言い寄ってくることが多くて、学校の帰りに

声をかけられる事なんて日常茶飯事だった事を思い出す。

そんな毎日を過ごしていたある日。


『いー加減気持ち悪ぃんだよっ、この変態クソヤロー』


ついにブチ切れた男鹿が、その容姿に似合わないセリフを吐きながら言い寄ってきた男の股間を

容赦なく蹴り上げたのだ。あれは相当痛かっただろう。

恐らくその日がきっかけで、自分に寄ってくる怪しい人物には鉄槌を食らわすようになったのだ。

あれ?性格が俺様に変わっていったのもこの頃くらいか?

とにかくそうやって変態共をぶっ倒していく男鹿の噂は中学に上がった頃には随分と広まっていて、

噂は歪んで広まったのか「大人でも倒せないやたらと強い小学生」なんて言われていて。

今度は不良共に喧嘩を売ってこられる羽目になった・・・・ような気がする。

それからは本当にその噂どおり無敗の王として中学に君臨するようになったのだ。


「だから古市、どこへイってんだお前。さっきからおかしいぞ?や、いつもおかしいか」

「あー・・あの日に戻りてぇー」

「おい大丈夫か」

「俺の辰巳ちゃんを返せばかやろー」

「本当に大丈夫かお前!」


いくら願ってみても過去に戻れるはずがないのは解ってる。

と、いうか変わりたい訳ではないのだ。男鹿は今のままでも十分可愛い。

け ど も だ 。

嗚呼そうやってちらっちら見える実にけしからん痕はまったく持って許せない。(見たくなかった。

何日か前に見たものより鮮やかに栄えるそれを、付けた相手が憎らしいったら。(気づきたくなかった。

それを付けたのが俺であるならばどんなに嬉しいことか。

でも俺には男鹿に、小学校から続いているこの長年の恋心を伝える事ができない。

傍にいたいだけなんだ。変わらずずっと、このままこれからも。

別に恋人になりたいとかそんなこと――・・・・・





「よう、男鹿」





ぺたりぺたりとだらしなく、かったるそうにこちらに向かって歩いてくる大きな男。

東条 英虎。あの時はよくもまぁ派手に男鹿をぶっ飛ばしてくれたものだ。

気安く話しかけてくるんじゃねー、と心の中で毒づく。そんな優しげな顔して寄ってこようが・・・・ん?


「・・・・なんだよ」

「別に用事なんてねーよ。おーベル坊よく寝てんな」

「寝たばっかなんだ、起こしたら殴るぞ」

「起こさねーって。それより男鹿、今日家来るだろ」

「行かねーし」

「放課後校門で待っててやるから。あとでメール入れる」


なにこの会話。なに普通に男鹿の隣に座ってんの東条センパイ。いつ家とか行く仲になったの。

メール?メールって男鹿の?

掛かってくるのが鬱陶しいとか言って登録メモリー家族と俺だけだった男鹿の携帯アドレス知ってんの?

そうやって男鹿の腕の中で眠るベル坊の頭を撫でる東条はなんだか・・・・いや、言いたくない。


「だから行かねーって言っ・・・・・」


ちゅっ。

と可愛らしい音が耳をつく。目線の先には俺の想い人の口唇を塞いで否定の言葉を遮る男の姿と、

少し驚いた顔をしただけで大人しく口唇を塞がれている、何度も言うが俺の想い人の姿。

塞ぐか?普通、校庭の、外の、しかもギャラリーのいるここで、キスなんか。

て、いうか・・・・お前か東条。お前が俺の男鹿を変えたのか。女じゃなくてお前だったのか。


「じゃ、待ってっからな?そろそろ戻るわ・・・・後でな辰巳」

「さっさと行けバーカ。東条のバーカ」


片手を挙げて去っていく東条の背に向かって暴言を吐く男鹿の頬っぺたは赤い。

往来でキスされたことになのか名前で呼ばれたことになのか、どちらもなのか。

― なんにせよ。










「・・・・・男鹿」

「どうした古市、顔が変だぞ前からだが」


熱でもあるのか、と自分の額を俺の額にぴたりと引っ付けてくるその何気ない仕草。

これだから天然は罪深い。

少し赤く潤った男鹿の口唇が間近に見える。吸い付きたい・・・のを理性をフル活動させて思い留めた。






「っ・・・あの野郎との交際は絶対認めんからなあああぁぁ!!」











ダチであり悪友であり家族であり、俺の初恋の相手は、知らないうちに他の男に奪われていました。




(そんなの許せるわけないだろ!)











END










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古→男鹿のつもりが書き終えたら虎辰←古になったという・・・・。
男鹿の過去捏造です。希望です。きっと可愛かったに違いない。
古市はもう年季入りすぎてて逆に手がだせない気がする。エンドレス片思い。