「おい、喉乾いた」 「先公のくせしてコロッケ1つも奢れねーのかよ」 「それ以上触ったら殴る。蹴る。ぶっ殺す」 「煙草吸うヤツとちゅーとかマジでイヤ」 「眠い。テメェん家泊まるから連れてけよ、ああ、お触りは禁止で」 そう、最初のうちは懐かない猫のようだ、と早乙女は思っていた。 こちらのアクションをさらりとかわす癖して、気が向いたときだけ甘えてくるような。 上記の科白はほんの一例にすぎない。 どれもこれも素直じゃない男鹿の可愛い我儘だと、多少の無理は大人の甲斐性の 見せどころだと思い込んで、ため息ひとつでハイハイ、なんて返事で赦していた。 男鹿も我儘を言っている自覚はあるのだろう。 言った後必ず早乙女の顔色を伺っているあたり、確信犯で。 何処まで己の無理を飲めるのか?と、彼の言動は早乙女を試しているようでもある。 男も解っているからこそ軽い文句を返しながらも、大抵の男鹿の望みには 答えていたのだ。 付け加えておくがこの2人、付き合っているわけではない。 恋人同士なんて甘いものではなく、元来世話焼きである早乙女が男鹿を構ううちに 自然と距離が縮まっただけの話なのである。 それでもそれに近い雰囲気はあった。 早乙女も男鹿も互いに「好きだ」とも「付き合おう」とも言っていない。 ましてや方や教師、方や15歳の生徒という関係。 けれど。言葉にしていないだけで2人は列記とした恋人同士だった。 故に男は寛大な心で男鹿の我儘言いたい放題を甘受していたが、最近度が過ぎる気が するのだ。小さな事からマジでと思う事まで。 確かに中には聞けない程のものまであって、何度か男鹿を怒鳴りつける事が あったのだが――・・・最近特に酷くなっている、と早乙女は内心悩んでいた。 ドロドロに甘やかしてやりたいと思う反面、つけ上がらせ過ぎて収集がつかなくなるのも 考えものだと思うのだ。 今日も学園で早乙女の会議が終わるのを廊下で待っていた男鹿が、職員室から 出てきたバンダナに咥え煙草の男の姿をチラリと視界に入れると先を歩き始めた。 そして一言。 「おっせーな、家着くまでにコロッケ2つ」 学園から少し離れた処にある早乙女のマンションまで向かう途中、美味しいと評判の 肉屋のコロッケがあるが、それの事だろう。 はぁ、とため息が漏れる。 別に大したことじゃない、コロッケぐらい幾つだって買ってやる。 だが今日は会議で少し疲れていたのだろう、早乙女は己で気づかぬほどイラついていた のかもしれない。男鹿の態度が可愛くない、気に入らない。 普段許せる我儘が、何故かこの時に限って腹ただしく思えて。 「男鹿よぉ」 だから、ほんの出来心だったが、苛めてやろうと思ったのだ。 「もうやめるかこんな事。別にオレとお前は付き合ってる訳じゃない、教師と生徒だ。 だからこれで終い・・・・な」 今までにも何度か触れた事のある、見かけよりも柔らかな口唇。 僅かに開いたそこへ押し付けるだけの口付け。 「じゃあな」 まるで別れのキスを彷彿させるそれは、一瞬で終わって、何もなかったかのように 早乙女は歩き出し、男鹿に背を向けながら手を振った。軽い気持ちで。 少しは態度を改めれば良いと思ったのだ。取りあえずは怒ってくるだろうけれど、と。 しかし、数歩無関心を装って歩いてみても男鹿からの制止の声は掛ってこない。 訝しんで振り返って見たものに、早乙女は今までにない焦りで全身から訳の解らない 汗が噴き出してくるのを感じた。 それはもう、凄まじい後悔の念とともに。 「・・・・・・・・・・」 「ちょ、お・・・男鹿・・・!?」 「あうッ!?ウー!」 泣いていた。 僅かに目を見開いた、先ほどのキスの後に男が見たままの表情のまま。 はらはらと止めどなく流れる涙を拭うでもなく、静かに泣いていた。 頭の上に乗っていたベル坊も初めてみる男鹿の泣く姿にオロオロし始めている。 まさか泣かれるとは思っていなかった早乙女は慌てて男鹿の元まで駆け寄って 僅かに震える身体を抱きしめる。此処が学園の廊下だとか関係なかった。 当然さよならなんて真っ赤な嘘だ、早乙女のシナリオでは「ふざけんな」と怒鳴ってくる 男鹿に「冗談だバカ」なんてしてやったりな顔をして、それを見た男鹿がまた怒って・・・ なんてパターンで終われるほどのものだったが。 誤算もいいところだ。 「男鹿、男鹿・・・泣くな、オレが悪かった、さっきのは冗談だからな。あんなの 本気にする奴がいるかバカ野郎・・・・あーもう泣くなっ」 「じょー・・・、だん・・・・」 「そーだ。あんまり可愛くない態度とるお前にちょっとイラついちまった・・・大人気ねーな」 「・・・・可愛く、ない・・・・」 「我儘も赦してやるけどよ、オレは甘えられるほうが好きだからな」 「・・・・・・・好き?」 「お?お、おう・・・今更すぎっけどな。生徒としてじゃなくお前が好きだよ」 「オレも、先生が好き」 男の広い背中にギュ、と効果音がつきそうなくらい強めに両腕を回してしがみ付く 男鹿の行動と、期待していた以上に破壊力満点な甘い告白の言葉に早乙女は 一瞬理性が飛びそうになったが「此処は学園」と呪いのように脳裏で反芻しながら もう一度幸せを噛みしめるべく、晴れて公式に恋人となった彼の身体を改めて 抱き締めなおす。 「ウィィィィィ――・・・・・・!!」 何か満足げなベル坊の雄たけびが、静まり返った校舎に響き渡っていた。 「オレ喉乾いたけど先生は?」 「コロッケ食べてぇ・・・・なぁ、先生半分こしよーか」 「なんだよもっと構えよ、オレも触りたい」 「・・・・ちゅーする時は煙草、控えろバカ」 「今日先生ん家泊まる・・・でもベル坊・・・いるからな、その、な・・・・・」 これはとある学園最強のラブラブカップル誕生の秘話だったりなかったり。 15: バイバイ END |
キスのお題その18。
虎辰の男鹿さんと禅辰の男鹿さんの、このデレ差!!書いててどれだけ可愛くしてやろうかと思いました。
禅辰の甘甘ラブイチャはこっから始まるようです。最初はやっぱりツンから始まってたようです。
きっかけはこんなカンジかなー、なんて(笑)お題的にバイバイってどうよ、って思ったんですけど。
初の禅辰がこんなの・・・・スマンとしかいいようがないね!!