「よう、目ぇ覚めたか?」 急激に浮上した意識。 覚醒の余韻に浸る間もなく視界に入ってきたのは、男鹿の良く知った男の顔だった。 野生の獣を思わせるワイルドな容貌。それが互いの鼻先がくっつきそうなほど間近に あって、男鹿は柄にもなく、しかし無意識に僅かばかり身を引いた。 そんな男鹿の態度に男が―・・・東条が気を悪くした素振りはない。 むしろフッと口元を緩ませて笑う。 「気分は悪くねーか」 「・・・・別に」 目の前の男が何をした訳ではない。 よく知っている間柄で不審に思う事などなにもない。 恐れる必要もない、はず。 けれど。 起きぬけで己の置かれた状況を把握することは出来なかったが、男鹿は本能で 理解する。恐らく己は、ほぼ10の割合でこの男に「捕えられた」のだ。 そして今のこの状況はあまり良くないもの。此処が何処で、何の為に此処にいるのか ・・・何一つ解りはしないし、否、解りたくもなかったが本能が警戒しろと、 先ほどから煩いほどに鐘を鳴す。 もともと弱い部分を表情や態度に表す性格ではない男鹿は臨戦態勢に入ると逆に 無表情になる。スッと雰囲気を変えた男鹿に東条は更に笑みを深めた。 「やっぱお前は凄いな、オレが惚れただけのことはある」 「・・・・・ひとつだけ聞く。何がしたい」 「ん?そりゃお前となら何だってしたいさ、こうやってちゅーだってしたいし」 笑みのまま、表情を変えない男鹿の薄い口唇に小さなリップ音を乗せて口づける。 それから耳元へ口唇を寄せ、東条らしかぬ卑猥な言葉を囁いた。 かぁ、と耳を塞ぎたくなるような科白に頬を染める愛らしさ。 鹹かわれたと気づいた男鹿の右拳が男の下顎目掛けてひゅっと空を切ったが、 惜しくも当たる寸前で避けられてしまった。 睨んだ処で相手は痛くもかゆくもない。カラカラと笑われて終わってしまうが落ちだ。 これ以上不快な思いをしてまで男につき会う必要はない。 少なくとも男鹿はそう思ってもう一度口を開いた。 「何がしたいんだっつってんだろ、3度目はねぇ。これで茶番は終わりだ東条」 「急くなよ男鹿」 「次は外してやらん。ついでに蹴りもくれてやろうか」 「はっ、仮にも恋人に向かってひでぇ言い草だな?」 そう。 二人はただ知り合いという間柄ではなく、恋人同士という深い仲でもあった。 こんな状況でなければ、キスのひとつもすればそのまま甘いムードに雪崩れ 込むくらい日常茶飯事だ。 だから尚の事、こうして捕えられる必要などなかった。意識を奪ってまでして。 せずとも男鹿は、すでに東条のものだからだ。またその逆も然り。 喉を鳴らしてなおも笑う東条は、質問に答える気はないように思える。 焦らされる事を嫌う男鹿が再度拳を握った。 「お前、オレの事好きか?」 唐突に言われた言葉が理解出来ず言葉に詰まる。 いや、出来なかった訳ではない。余りに検討はずれな事を言われた気がして 「何を馬鹿な事を」と呆けてしまって言葉が出なかった、という処だ。 広くない部屋にしんとした静かな時間が流れた。 その空白の間を、東条はどう思ったのか・・・・口元の笑みを残したまま目を瞑る。 「ゲームオーバー、か・・・・」 「・・・あン?」 「ゲームだったんだよ“これ”は、オレの。で、オレの負け。惨敗」 「や、どっからゲームでいつテメーが負けたのかさっぱりなんですけど」 「あーぁ・・・畜生・・・・」 つかオレっていつ勝った訳?と捲し立てる男鹿に対して東条は金色の髪の毛を 掻き毟ってため息をつく。 彼の表情は、俯いていて解りにくかったが笑ってはいなかった。 「お前が勝つか負けるかのゲームじゃないさ、これは」 これは、オレのゲーム。 オレが用意した、オレだけの、勝つか負けるか・・・伸るか反るかの大一番の賭けだ。 「オレがお前に好きかと聞いて」 右の頬を武骨な指先が、柔らかに滑っていく。 「答えてくれればオレの勝ち」 それが好きでも嫌いでも。 「どちらも答えてくれなければ、オレの負け――・・・・」 ゲームオーバー。 大きな掌は頬をすっぽりと覆ってしまう。 親指で擽られる感覚に、男鹿はぞわりとした何かが腹の底から込み上げてくるのを 知って、大げさにその手を振り払った。 振り払えたように思えた。 「な、なんだよ!オレが何も言わなかったからって何があるんだよ。訳わかんねー! ゲームとか言ってお前が負けて・・・だからなんだっつの!!」 「意味ならあるさ、負けが決まった時点で意味は出来た」 頬を覆っていた掌は男鹿の首元に降りて、無駄の動作もなく、追って東条の 左の掌も首元へと絡んでいく。 力はさほど入っていない。しかし圧迫感は拭えない。 何故こんな事になっているのか、男鹿には理解できなかった。 彼が何を言っているのかすらまだ解っていないのだ。 解るのは、一瞬でも動けばこの己に掛けられた大きな両手がそれに応じて 動くのだろうという事。 「・・・・・ッツ・・・・英虎!」 「たった一言でも、好きだって言葉にしてくれれば。オレはお前を諦めずに すんだのにな・・・・・・・」 男鹿の身体を東条の影が覆い尽くす。 「―― 辰巳」 ふわりと額に落ちた最後の口付けは。 かの者を祝福する聖母マリアの口づけにも似た――・・・・・。 「 」 END 06: 額 「・・・・・・・・・・・で、これは何ですか?」 「え?次のコミケの新刊原稿に決まってるじゃないっスか、やだな男鹿っち! 今回のは力作っスよ!虎辰のシリアスなんで」 「面白かった?由加の小説。今度はあたしの漫画の方も読んでみて。 こっちはコメディータッチに仕上げてみたの」 「おっ、千秋すごいじゃんこれ2冊目の原稿じゃね?新刊何冊だすんだよー」 「あと1冊は描くつもり。三木男鹿ドシリアス」 「うおおおおっ!負けてらんねーっス!!次は禅辰書くっスよおおおおぉぉ!!」 「え?もしかしてオレ女に集団レイプされてる?」 |
キスお題その16。
あはは。きっと聞いてる音楽のせい。だからこんな話になっちゃったんだ。
最初はちゃんとシリアスだったんだけどね、途中からこうなっちゃったんだ。