「暑い・・・・・」


じわりじわりと照りつける太陽、容赦のないその日中の日差しは部屋の中の

温度をサウナかと突っ込みたくなるほど上昇させる。

窓を開ければ生温かい風がゆらりと肌を撫でていく。気持ちが悪い。

気休めにしかならない扇風機なんて起動させるだけ地獄。

そんなもの、冷やした風を動かしてこそ意味があるのだ。

30度を遥かに超えた風を回したところで暑いものは暑い。


寧ろ熱い。






「あつい・・・・・アツイ・・・・・あーつー・・・・」

「うるせーな、暑いのはオレも同じなんだぞ」


ちょっとは黙ってろ。余計暑くなるだろう、と。

廊下の板間にうつ伏せて寝転ぶ男鹿に、東条は団扇をパタパタと仰がせながら

呆れの混じった視線をやり、諌めるように言葉を続けた。

けれど大きな身体を億劫そうに起こして、彼のために冷凍庫で冷やしたアイスノンを

取りに行く姿は惚れた弱みか否か。

東条の家にはクーラーが備え付けられていない。あるのは古びた扇風機が一台だ。

それを承知でこの家に遊びにきたものの、さっきから噴き出す汗が止まらない。

初めはひんやりとしていた床も男鹿の体温で温められ、汗に濡れてとてもじゃないが

“家の中でもマシな場所”とは言い難くなっていて。

隣では同じように暑さにぐったりとしたベル坊が若干魘されながらも眠っている。


(ベル坊が熱出した時もキツかったけどよー・・・・)


今年の夏は例年よりも気温が高いらしい。

暫く日中は炎天下が続くやらなんだとニュースで騒いでいたのを思いだす。

蝉の声はいつまでも鳴りやまない。体感温度は2割増し。


「あ゛〜・・・・」

「ほらよ、アイスノンはベル坊の頭に敷いてやれ。お前はこの氷入れた袋でも抱いてろ」

「・・・・お前は?」

「オレぁ大丈夫だ。んなにヤワじゃねーし、気にすんな」


鮮やかな金髪がしっとりと汗に濡れて首筋にへばりついている。

流れる滴はきっと塩辛いもの。

己も暑いだろうに、彼はいつでも男鹿を優先するのだ。

板間に寝転がる男鹿の傍に身を屈ませて、氷の入った袋をそっと熱を持った頬に

当ててくる。冷やした場所から体温がスッと引いていくような感覚。

気持ちがいい。

目を瞑れば大きな手が額に掛った髪の毛を撫でていく。

氷の冷たさと、他人の体温、うだるような空間。放りだされた団扇と、

聞こえてくる蝉の声。

そういえば、最近東条がひとつバイトを増やしたという話を陣野から聞いた。

ニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべて、けれど何処か嬉しそうな顔で。

東条の友人は男鹿に向かってこう言ったのだ。








『虎のやつ、アンタのためにクーラー買いたいんだと。愛されてるな、男鹿』









なんて。

なんて馬鹿で、恥ずかしい―・・・・・・愛しい男。











「とーじょ」


名を呼ぶ声に真上から覆いかぶさるようにして見下ろしてくる東条の首元に、

腕を伸ばして。肉食獣を思わせる鋭い眼差しに一瞬視線を合わせて、

男鹿は薄く開いたその口唇に噛み付いた。

舌を差し込む際漏れた、クチャリとした水音が、沸騰しそうな部屋にやけに

大きく響いて聞こえる。

深く重なった口唇同士、角度が変わる度それが繰り返されるのだ、

答えるように絡んでくる東条の舌が、情を孕んで更に男鹿を煽っていく。

くちゅり、くちゃりと。

とっくに正常な思考なんて――・・・。





「ぅ、ん・・・は、ン、ンッ・・・おい、ッ―・・・」

「休むなよ」

「いい加減に、し・・・んァ・・・ベル坊、がっ・・・・起き、ッんぅ・・・!」

「男鹿、イイんだろ?好きだもんな、深いの」


上のクチも、下のクチも、な。

敏感な舌を嬲られて、吸われて、上顎を舐められる感覚に男鹿の身体がブルリと震える。

東条の上着を持つ手に力が入った。恐らく伸びてしまっているだろう。

最後にレロリと正に動物のように舌で口唇をなぞられ、甘噛み。

不覚にも「あ、」と漏らした男鹿の高めの声を、東条は聞き逃さなかった。






「―・・・・ふ、やっぱクーラーは買うべきだなぁ」

「・・・別に、オレは暑くても・・・・」

「思いっきりセックス出来ねーもんな?こんな中でヤったら熱中症もいいとこだ」

「・・・・・・・・・・・・」










あの感動をもう一度。




― 返して貰えはしないだろうか。















「え、ちょ・・・辰巳ちゃん?・・・おい、おっ・・・ごがッツ・・・ガファ!!」

「冷えたいアナタに男鹿くん流デッドオアアライブアイシング〜」














その後すぐ、偶然か否か西瓜とアルコールを持って遊びに訪れた陣野や

庄司によって発見された彼は。

何故か口の中に大量の氷を頬張っていたという―・・・・・。


















                            
 18: 大人











END













キスのお題その9。
大人ってナニ・・・・?とりあえず雰囲気出しとけばいいかみたいな感じになったんだけど・・・
やっぱり虎ってエロいよね、野生的だからかな。