強くなりたいと願ったあの日から、オレは負けた事がありませんでした。 一度も、誰の前でも膝をついたことなどありません。 口にした事はなかったけれど、強さはオレの誇りでした。 なのにオレは今日。 ある男に負けてしまいました。 負けると言うことは、一番ではなくなると言うこと。学校ごときのナンバー1なんて どうでもいいし興味もないけれど、絶対に譲れなかったのです。 一番と言う事は強いと言うことだからです。 けれど別に負けた事が悔しい訳じゃありません、いや悔しいけれど。 ただオレは、あいつに出会ってあいつに負けて、強さの本髄を知ることができました。 憧れだったあの人は、何の為に強くあったのか。 オレは何の為に、強くなろうと願ったのか。 何故と己に問いかけて出てこなかった答え。 なにゆえに。 ― だからオレはアイツに勝てなかったのだろうか―・・・・。 「どこいっちまったんだ、あいつは」 男鹿辰巳との盛大な喧嘩の後、怪我人を病院へ送っていったオレは打ち身に擦りキズ だらけの身体を引きずるようにして家に帰ってきた。 部屋に戻ればタツがいる。相変わらず愛想のない猫だがオレにとってはこれ以上 ないほどの特効薬になるのだ。プラス癒し付き? そう、あの極上の洗いたてのふわふわ毛に癒されたくて、と言うか慰めてもらいたくて 病院に行ったにも関わらず診察も受けずに帰ってきたのに。 なのに、あの日を境にタツは部屋からいなくなってしまった。 何処も彼処もくまなく探して、近所も随分と探したが一向に見つからない。 普通とは違う、ちょっと変わった猫だったからもう何処かへ行ってしまったのだろうか。 タツは猫でありながら、人になれる猫だった。 その姿はあの男鹿に瓜二つで、タツと暮らし始めてからのち、喧嘩をする きっかけとなった河原で男鹿を初めて見た時は少なからず驚いたものだ。 思わず「タツ?」と呼びかけてしまって、馴れ馴れしいと思われたのか実に怪訝そうな 顔で睨まれたのを覚えている。仕方ないだろう。 本当にそっくりなのだから。 それは兎も角タツがいなくなって3日目、夏休み中とあって日がな一日探し回って いるが見当たらない。庄司やかおるにも頼んでみたが成果なし。 「タツ・・・」 いつでも帰ってこれるよう、部屋の窓は猫が通れるほどの隙間を空けてあるが 待てど暮らせど生温かい外の空気だけが流れ込んでくるだけ。 すぐそばにあった温もりが突然消えてしまう虚しさとは、こんなにも辛いものなのか。 飼い始めて、というかタツが住み着いてから日にちはそれほど経たないが やはり“当たり前”になっていたそれが無くなる悲しさとはこんなにも。 「お前のことも、諦めなきゃいけないのか・・・?」 部屋の隅に置いてある、身体に合わせた大きめのベッドに寝転がる。 仰向けばいつもの天井。 「運命、だと、思ったんだがなぁ・・・」 あの喧嘩に負けた後からオレは少し弱くなったのかもしれない。 ずっと何処か気落ちしていた自分に気づいていたが、無視をしていただけにすぎない。 幼い頃から強さはオレにとって絶対で、矜持そのものだったから。 目を瞑っても電気の明るさが瞼を通して浸みてくる。 熱いものが込みあげてくるのは気のせいだ、光の刺激で少し目が潤いを欲したのだ。 「にゃあ」 ふと瞼の裏が暗くなったと思ったら、トン、と胸元に軽い重みと口唇へ毛の当たる感触。 それからズシリとかかる重みとその体温。ゆっくりと目を開くと、恐らく猫から人へ 変ったのだろうタツの、長い睫毛が視界いっぱいに入り込んだ。 なんでもタツが人に変化するには変化する物の生命エネルギーが必要だという。 それってオレ死ぬだろ、と前に問いかけた事があったが、「精々意識が昏倒するくらいだ」 と良い笑顔で返されたのは記憶に新しい。 だが何度もマウストゥマウスで奪われているがブラックアウトの経験は、まだ、ない。 「・・・・た、」 「なんて顔してやがる。泣くなよバーカ、オッサンのくせに」 決して長くはなかったが、少しの間押し当てられただけの口唇から伝わった熱が、 離れた後も消えずに残っている。 言葉づかいはぶきらっぽうだが声の柔らかさを隠し切れていなくて。 しょうがねえヤツ、と目の上に落とされたキスに堪らずタツを力いっぱい抱きしめた。 「タツ・・・オレは弱いか」 「人を抱き枕にしてる時点で弱弱だ、弱弱もいいとこだろ」 「そうか・・・じゃあタツ。オレが本当に強くなるのを、これからも傍で見てろ」 「・・・・・・さあな、先の事なんて解らねーよ」 「オレが離すか。覚悟しとけ」 知るかよバーカ、といつもの無愛想な表情の、少し口元を緩めて。 お前からの慰めるような瞼へのキスは、二度目も変わらず不器用で優しい。 04: 目 「・・・・・・・・ッタツぅうう!!超かわいー!!」 「いでえええぇっ!離せっ、ゴリラかテメーは!」 「何だよ、ぎゅーさせろ!そーいえば3日も行方不明になりやがって・・・・って、タツ?」 「肋骨イテーんだよ。加減をしろ加減を」 よく見れば口元の端が赤く切れている、ほかにも治りかけだが大小さまざまな傷が たくさんあるではないか。 「タツ・・・・・・お前もしかして」 「・・・・・・・・・・」 「縄張り争い、か?」 「へーぇ、こんなところに殴られるのが好きなドMがいるなんてなぁー」 オレがドSで相性いいな。 人間サンドバックって、受けた事ある? END |
キスのお題その11。猫男鹿第二弾ですか・・・・なんか変な設定になってしまって・・・・。
今回はシリアスだったのと、虎さんの過去編にも触れたかったのとでお題なのに
長くなってしまいました。短いのでやってこうって始めたお題だったのに・・・・な・・・・。
ともあれ猫男鹿、萌え要素がない猫化なんでビックリしますがまた書きたいです。