猫を拾いました。

今日は雨が降っていて、公園の滑り台の下で見つけた猫は濡れたのか、

身体を一生懸命に舐めていました。

放っておくことなどできない俺は、みゃあみゃあと鳴きながら暴れるそれを

無理矢理懐の中に抱き込んで家に連れて帰りました。

一緒に風呂に入って洗ってやって、毛を櫛で梳きながらドライヤーで乾かしてやると、

真っ黒い毛だと思っていたそれは濃い茶色だということが解りました。

余談だが、猫は水が嫌いだというのは思い込みでしか無いということも解りました。

シャンプーで洗ってやったときも、湯船に漬けてやったときも猫は怖がらなかったのです。

寧ろ気持ちよさそうに金色の目を閉じて、喉をゴロゴロ言わせていました。




今、その猫は真っ赤な舌を覗かせながら、暖かなミルクを飲むことに必死です―・・・









********









「みゃあ」


いつのまにか大きなアーモンド型の瞳が此方を見上げていた。

満足いったのだろう、皿に注いでやったミルクは綺麗になくなっていて

濡れた口の周りを舌で拭いながら足音も立てずに近付いてくる。

野良猫で警戒心をを露わにしない猫は珍しい。ソファに座った俺の足もとまで

近づいてきたそいつは可愛らしい声でもう一度、「にゃあ」と鳴いた。


「お腹いっぱいになったか?良かったな」


見上げてくるそいつの頭を撫でてやる。


「なーぅ・・・」


気持ちがいいのか、うっすらと瞳を細めて擦り寄るように身体を預けてくるものだから

動物が大好きな俺は堪らずそいつを抱き上げて、胸の中に収めた。

少し苦しそうにしていたが逃げる気はないのか暴れない。

さっき雨の中で出会った時の事が嘘のようだ。

シャンプーでふわふわになった毛並みの手触りが何とも言えず頬の筋肉を緩ます。

ずっとずっと、こんな可愛い猫を飼いたいと思っていた。

運命の出会いだと思う。普段寄ったりしない公園前の道、猫の鳴き声が聞こえた訳でも

ないのに呼ばれたような気がしてふらりと立ち寄ったのだ。


「今日からお前は俺ん家の子だ。待ってろ、明日首輪買ってきてやっから」

「にゃあ」

「そっかそっか嬉しいかー、俺も嬉しいぞー」


動物が大好きな俺はどういう訳か動物に嫌われる傾向がある。

こちらが心を開いて近寄ろうとしても、動物たちは警戒を解いてはくれないのだ、

だから今までも猫や犬に触りたいと思っても逃げられてばかりで。

この猫が初めてまともに触らせてくれた、自分から近づいてきてくれた猫なのだ。

それ故、実のところ先ほどから、猫を、それも血統付きのように美しい毛並みと容姿を

持った猫を抱きしめることが出来て舞い上がり気味なのである。

正直小躍りし始めたいくらい感動していた。


「あ、お前名前はどうする?カッコいいの付けてやんねーとな」


そうだな、俺が虎だからお前は竜。

風呂場で洗った時に確認したがオスだったから丁度いいだろう。

りゅう、リュウ、同じ訓読みするならタツか?


「どうよタツって。ちょっとカッコよくね?」


呼び掛けに頷くことはないけれど、きっと気に入ってくれてる筈だ、違いない。

その証拠に真剣に聞いてくれているのだろう、ピンと耳を尖らせて。

ゆらゆら揺れる長い尻尾は時折俺の腕を掠めるように擽っていく。

ニヤリ、とタツが笑ったような気がした。

了承、と言いたいのかザラとした猫特有の舌が下唇を舐めるのに、一瞬だが

心臓が早まった事は内緒にしておこう。どうしようと相手は猫なのだから。


「俺は英虎だ、覚えろよ?これからよろしくなタツ」

「みゃあん」


可愛く「解った」と返事をするように鳴くので(俺にはそう聞こえる)、堪らずタツを自分の

顔近くまで持ち上げてちょん、と触れるだけのキスを一つ、口元に落とした。

先ほど飲んでいたミルクの味がする―・・・・・。







ボン!!









「お前、猫にちゅーする趣味あるわけ」


ズシリと膝の上に猫ではない重みが乗っかっている。

大きな音とともに目の前に現れたのは、猫のタツに良く似た全裸の男。


「・・・・?!誰だ??」

「よく見ろ。この耳、この尻尾。お前がさっき丁寧に洗ってくれたからフカフカだ」


まぁ合格だな、と。

ひゅん、と洗いたてのいい匂いのする尻尾が自己主張するように左右に動いている。

耳もなんだか好きな人が見れば萌えとか叫びそうなフサフサしたのがついている。

中でも確証が高いのは男の瞳だ、タツにそっくりな鋭い眼差し。

いやしかし、そんなバカな。でももしかして――・・・・。


「タツ・・・・か?本当に?」

「おう。ホントの名前は辰巳だけどな。一瞬俺の名前知ってるのかと思ったぜ」

「でもタツは猫でさっきまでニャーって言ってたけど」

「アレも俺っつーかアレが正体っつーか?」


ますますもって事情は良く解らないが、とにかく目の前の男はタツで本当は

辰巳という名で猫から人間に変ることが出来る不思議な奴ということだけは解った。

え、漫画?

ツッコみたい。けれど膝の重みは十分現実だという事を知らしめていて。










「とりあえず・・・・ヒデ、トラ?服くれ、服。あとメシ、あれじゃ足んねーよ」







ざり、と人型になっても変わらないのか猫特有のざらついた舌を、数分前猫だった

タツが舐めてきた場所と同じ処に這わされて。

人間になっちまったからな、と不敵に笑う未だ全裸の男に。

人間というにはものすごく中途半端だけどな、とはツッコむ余裕はありませんでした。





「なぁ、早くくれよ・・・?」






にゃあんと何処かで猫の鳴く声がした。



















                               
12: 頂戴!














END・・・・??












キスのお題その9。お題に沿ってないな。そして突発的にパラレルやりたくなりましたので猫男鹿で。
本当は最後猫から男鹿に戻ったとき、ヒルダさんの悪戯で猫になってたオチに
しようかとおもったんですけどパラレルで!
猫男鹿は素直です、そしてナチュラルに誘い受けのようです。
恐らくまたこの設定で書くことがあるかと思いますのでまた読んでやってください。