視線で人を殺せるならば。

俺はきっとあの瞬間、あの野郎を焼き殺していたに違いない。

焼くっていうか、なんか光線みたいなもので焼き切る的な?ジュッと。

あれ?なんでそう、思うんだ。






「人が絶不調のときにうっとーしーんだよテメェら」


人を殴るのはこんなにも簡単なのに。

― バキッ、ドサ・・・

右ストレートを食らった男が面白いほど吹っ飛び、壁に当たって落ちた。

ベル坊を背負って廊下を歩く俺の後ろには、喧嘩をふってきた馬鹿たちの屍が

そこらかしこと転がっている。だが殴っても蹴ってみても、機嫌は一向に浮上しない。

まったくもってすっきりしない。

キャッキャ、キャッキャとその地獄絵図のような道後に、歓喜する魔王のハシャギぶりに

大きなため息が出た。楽しいのはお前だけだ。

俺はちっとも楽しくない。さっきあんなものを見てしまったせいで――・・・・。


(ちくしょう、思い出しちまったじゃねーか)


あんなもの、見たくなかったのに。

すべてを信じていた訳じゃない、俺とアイツは男同士。

好きだといった言葉を鵜呑みにしたわけじゃない、だって真実という確証がない。

キスしたってセックスしたってそんなもで「繋がってる」なんて。

思えない。思ってなんてやらない。思える訳が。




― ねー今日はどっか遊びにいかない?

― そいえば英虎クンが探してるって言ってたお店見つけたんだ、そこ行こうよ!

― いいでしょ?アタシ達とデートして欲しいなぁ





フラッシュバックしたつい先程の記憶に、きゅ、と自然と握った拳に力が入った。

女3人と、東条。クラスメイトなのか随分親しげに話していたのを思い出す。

なんだ、そうか。あの時感じたアレは、認めたくないがアレは・・・・・嫉妬だ。

この俺が。嫉妬。

3年の教室が並ぶ廊下の先を曲がれば階段で、そこを降りて1Fまで降りれば

教室に戻れる。もー二度と来てなどやるものか。


(折角読みたいって言ってた漫画持ってきてやったのに)


古市のだけれど。










「男鹿ッ!」


ちょうど階段の螺旋に差し掛かったあたりで、俺を呼ぶ声が降ってきた。

無視してやろうと思わなくもなかったが、酷い切羽の詰まりようだったので

仕方なく、出来るだけ不機嫌な顔で声のしたほうへ振り返る。

俺は怒っているんですよ、さぁどうする?どうご機嫌とってくれるんだよ?


「男鹿、お前、来てたならなんで呼ばねぇっ・・・はぁ、間に合ってよかった・・・」

「息切らしてナニしてんだお前こそ。俺は他に行くところがあって」

「見え透いたウソつくなよ」


会いにきてくれたんだろ、と。呼吸を整えながら近くまで歩み寄ってくる。

走ってきたのか少し乱れた金茶の髪をかきあげる仕草、困ったように寄せられた眉。

そのまま広い両腕に背中のベル坊ごと、覆われるように抱きすくめられて、

身長差と階段の段差分足が浮く。

苦しくて背中を殴ったが離してくれそうな気配は東条から微塵も感じられなかった。

やっぱり気持ちがいい―・・・この男との繋がりなど何も信じていないが、

心地よいと感じるこの体温だけは信じてもいいと思えた。


「・・・・さっきの見てたろ?あれは違うからな、ただのクラスメ」

「で、行くのかよ、遊びに」

「断ったに決まってんだろ。お前がいるのに」

「怒んねーぞ?あのコ達と遊んだって」


解っていて嘘を重ねると、怒ったように口唇を奪われ貪られる。

そんな時の東条のキスはいつも荒くて、奪うというより犯すといった表現がよく似合う。






「・・・・それ以上言ったらこの場で抱くからな」

「バカヤロウ子供の前でナニ言い出す!」





お前が全部悪いんだ。

もっと信じさせろ、性別なんていまさらだと思えるくらい。

鵜呑みに出来るくらい好きだと繰り返せ。いっそ呆れて俺が根を上げるくらい。

どこかの漫画の科白のような百万回のキス、身体を繋げて溶け合えたなら。









俺からの初めてのキスは、照れくさいので下唇に噛み付いてやった。

















                            
 17: 痛っ









END











キスのお題その5。キスでは、ない!お題無視か。
すべての話は別軸で繋がってるようです、短編長編お題含む。進展していく虎辰。
男鹿さんからの初ちゅーはものっそ痛かったそうです。血がでました、血が。
あとベル坊はもう2人のちゅーくらい見慣れすぎてる模様。