ダダダダダ、と勢いよく階段を登ってくる足音が家じゅうに響いている。

今日学校で出された宿題を自室で片付けていた古市は、聞き覚えのあるその騒がしい

足音が此処へ向かっているのにゆっくりと教科書から目を離し、ドアの方を見やった。

小学生というのはやたらと課題が多い。皆この時間帯はその片づけに忙しい頃だろう、

それを物ともしない人物なんて古市の知る友人の中では1人しか。


「たかゆき!しばらく俺をかくまえ!」


駆け上がってきた勢いのまま、ドアを乱暴に開けて入ってきた想像通りの人物。

いや、想像通りとは少し違っていた。


「・・・・・辰巳ちゃん、なにそのカッコ・・・・」

「アネキに遊ばれたんだよ」


あの野郎覚えてろ、と眉を顰めて物騒なセリフを呟く辰巳ちゃんこと、男鹿辰巳。

頭の両サイドに兎の耳のように結わえられた髪の毛が良く似合っていて可愛らしい。

古市は暫く頬を染めて呆けたように見つめていたが、男鹿は気に入らないのだろう、

括られた部分に絡んでいた薄い青色のリボンを忌々しそうに解いて床に叩きつける。

それもそのはず。

彼は列記とした男なのだから。

だがリボンと同じ色のフリルのついたワンピースは彼の性別を完全に否定する。

恐らく誰が見ても、10人中10人が女の子だと答えるだろう。

丈の短いワンピースは殆ど太ももを隠していない。

ムくれてドカリとその場に座った男鹿は惜しげもなくそのしなやかで細い生足を

放り出してバタつかせていた。


「このカッコで出掛けるってゆーから飛び出してきた。だからしばらくかくまえ」

「え、あぁ・・・いいよ。それ、着替える?服貸してやるけど」


少し考えるように首を傾げる仕草、意志の強そうな切れ長の瞳。

机に向かって椅子に座っている古市からは、男鹿の視線が丁度上目づかいに見える。

初めて出会った瞬間一目惚れした彼にとって男鹿の行動ひとつひとつが

心臓をバクバクと忙しないほど速めた。

女の子の格好をしているというのも相まって顔が赤らんでいくのを止められない。


「別にたかゆきだったら見られてても嫌じゃねーし。このままでいい」

「あっそ・・・・」

「しっかし見ろよ、アネキのやつパンツまで女モン履かせてくるんだぜ」

「はぁ!?や、捲るなバカッ」


ほら、と只でさえ短いワンピースの裾を持ち上げれば下半身を覆うものがなくなった

そこにはこれまた可愛らしいリボンとフリルのついた白い下着が。

何も知らず、無意識で小悪魔、なんたる罪な想い人。

鼻の奥がツキンと痛む感覚に古市は思わずそこを手で押さえて、未だワンピースの裾を

持って下着を丸だしにする男鹿の頭をペシリと叩いてやった。


「もーいいからヤメロって!そんなんだからお前
 ヘンな大人のヒトに襲われたりするんだろ!自覚しろよ」

「ここはたかゆきの部屋で、たかゆきしかいねーし」


だからいいのだと、返してくる男鹿に古市は言い訳あるかと怒鳴りつけてやる。


「俺だって男の子です!!」

「俺も男だけど」


ああ言えばこう言う。

そういう性格だとは知っていても頭に来ることはあるというもの。

自分に自覚のない鈍感な人間には、身をもって体験させ覚えさせていくのが

一番効果的なのだ。古市は正面同士で向かう男鹿の後頭部に手を回して引き寄せる。

驚いたのか力の抜けた身体はすんなりと倒れ掛かってきて、互いの口唇が

重なり合うのは容易かった。

事実これが二人のファーストキスになる訳だが―・・・・。

古市はこの時、自分の仕出かしたこの事が、後々高校生に成長した頃大きな波紋を

呼んでいくとは、彼の不幸の芽生えだとは思いもしていなかった。







「・・・・解ったかよ、あんまりむぼーびだと危ないって」

「でも、たかゆきだしな」

「まだ言うかお前!!俺信用しすぎだろ!!」







信用されすぎても手が出せない。

絶対の信頼は嬉しいけれど少し迷惑。



だってアナタに見てはもらえないでしょ、恋の相手として。






子供だってレンアイはします、早く気付いて罪な人。














                                     19: 子供














小学5年〜6年くらいでしょうか、古市と女装男鹿さん。きっと可愛いと思う。
中学上がる頃までは下の名前で呼んでるといい。
このころからもう古市は振り回される事が決定してました(笑)
どうしても男鹿さんに告白できないのも最後までもつれ込めないのも彼故です。