これは事故だ、不慮の事故なのだ。 俺は悪くないんです、すべては小悪魔が悪いんです、そうあなたの恋人が。 だからそんなに怖い顔をしないで、あ、今にも殴られそう。 縦も横も一回り以上違うだろうか? 憤怒のオーラを静かに纏った東条が男鹿の斜め後ろに見える。 人間を数メートル吹っ飛ばす事くらい簡単に出来てしまう、あの強靭な右腕に 力が込められるのを見てしまったが、慌てる事もなく、否、人間恐怖に陥ると 逆に冷静に物事が見えてしまうのか―・・・状況とは裏腹に近づいてくる鬼に向かって 古市は乾いた笑いを浮かべた。 事の始まりは、学校の帰り道に少し寄り道をしようと寄ったコンビニで。 夏の暑さに火照った身体を手っ取り早く冷やすにはアイスに限る、とクーラーの中を 物色し始めた男鹿に習って、古市も適当にソーダ味のアイスを取り出した。 男鹿が選んだのは練乳入りの、これまた色々と妄想を掻き立てるにはもってこいの 黄金アイテムである、バニラアイス。 惜しくも形状は円柱状の棒アイスではなかったが十分だ、棒アイスには変わりない。 炎天下の下、溶け易いアイスは雫を滴らせ指に伝う。 「男鹿、垂れてる」 「お。やっべ」 コンビニの前に座ったりして屯するのは中高生の定番だ。 ベル坊を膝に乗せながら左手であやし、右手でアイスを食べる男鹿を、古市は暫く 頭の中でよからぬ妄想に塗れさせつつ横目で眺めていたが、突然ハッと目を見開く。 そこには垂涎もののワンショットが繰り広げられていたのだ。 細く整った指に、手の甲に。真っ白なバニラが線を描いていく。 解ける速度が速いのか、幾重にも伝い始めたそれを、赤い舌を突き出して 舐め始めたではないか。 まさしく男なら誰もが一度は夢見たであろう、使い古された、それでも古典的ながら 下半身直撃なこの光景を、あの男鹿が。 「ん・・・・ベタベタして気持ちわりー、うわこっちもっ」 いそいそと指を伝うそれを舐めとったあと、元を断たねばこの繰り返しなのだと 気づいた男鹿はアイスの付け根、つまり雫を流す下のほうから上へ舌を這わした。 れろり、と。 「天然がああああぁぁぁっ」 「おぅっ?!なんだ古市いきなり叫んで。つかお前のアイス、解けて全部落ちてるけど」 「アイスなら此処にある!」 「あー、俺のかぁ?仕方ねぇな、ちょっとだぞ」 「金だしたのは俺。だから食わせろよ」 アイスを持つ方の手首を掴んで引き寄せる。 ちょうど新たにバニラの線を描いた人差し指を、古市はぱくりと口に咥えた。 甘いそれが口腔内に広がるのに満足して、ちゅ、と吸い付いてから離す。 「あっま・・・やっぱバリバリ君ソーダ味でしょ」 「古市、こっちもまた垂れてる」 「りょーか、・・・・・・・・・・・・ぃ・・・」 まさしく今、男鹿の指に再度口唇を寄せようとした、今。 ふと古市が見上げた視線の先には、炎天下が生み出す陽炎にも勝るとも劣らない、 ゆらりゆらりと揺らめくオーラを立ち上がらせながら、ゆっくり近づいてくる男に 釘付けになってしまった。 金縛りにあったとはこのことを言うのだろう。 蛇に睨まれた蛙。巡る走馬灯。 「早くしろって古市。俺上から食べるんだからよ」 いやあの出来ません。あなたのカレシさんがめっちゃ凄い形相でこっち睨んでます。 きっとあの雰囲気からして見られてます、目撃されてます。 頼むから空気よめよ、余計な事を言うな。 ジャリ、と存在を気づかせるよう業と地面を靴で擦る音。 ようやく近づいて来た気配に男鹿がそちらを見やる。 「東条」 「お前メール送ったろ、迎えに行くって」 「そーなのか?見てねー」 「あ・の・なぁ・・・・まぁ“それは”許してやるとして・・・・時に友人の古市くんとやら」 声のトーンが明らかに違う。 古市に向かってかけられた東条の声は周りが凍てつくほどの鋭さがあった。 解っていないのは男鹿だけだ。この結末の諸悪の根源だけが。 「は・・・はい・・・・」 「吹っ飛ぶ覚悟くらい、出来てるよな?」 顔の形が変わりませんように、古市はそう祈りながら死刑宣告に コクリと頷くのだった。 02: 指 END |
キスのお題その7。古→男でちょっとだけアイスプレイ(笑)
夏といえばコレやるしかないでしょ。そんな役回りだな、古市。ベストポジション!
男鹿は古市に対して昔からの刷り込みがあるんで、基本なにされても
あんまり動じませんし受け入れます。