俺は教室を飛び出し、ただ只管走った。 小脇にベル坊を抱えて落とさないよう、でも全速力で。 家まで走る。走る。 我慢できない、もう無理だ。たった一日、されど一日。 俺じゃない俺を構成するこの身体の全部がもう耐えられないのだ、ベル坊には悪いが諦めてもらおう。 魔王のホームシック<俺の貞操。 そうしてようやくたどり着いた我が家の2階、己の部屋の窓から悠然とこちらを見下ろす ゴスロリ女に向かって、思い切り息を吸い込み、こう叫んでやるのだった。 「このクソ悪女っ!! てめぇの所為であやうく処女喪失とかありえねー事態になるとこだっただろうがあああああぁぁっ」 「・・・・・・ご近所様に丸聞こえだぞ、恥知らずめ」 |
彼にまつわる彼女のハナシ act.4 もう終わりでいいじゃない |
あの後意識を取り戻した俺は、未だ背後からすっぽり俺の身体を抱え込んだまま、 屋上の壁際に持たれかかって眠る東条の腕の中から這い出て、取り敢えず頬に一発と鳩尾に一発。 状況を把握できぬまま顔と腹を押さえる東条の脳天めがけて、足を大きく振りかぶり、踵を落とし。 ドサリと大きな体躯が地面に這い蹲ったとこまで見届けて、教室まで戻ったのだ。 しかし好奇な視線を向けられるのはあまり気持ちの言いものではなく、プラス古市が なんやかんやと煩かった事もあり、俺は暴れるだけ暴れて学校を飛び出した。 今からその時の教室の凄まじさを考えてみると、もしかすると一人くらい死人が出ているかもしれない。 そんな訳で今に至るわけだが。 「おい。やっぱこんなカラダじゃいられねー!今すぐ戻れる薬をよこせ」 「何故だ?貴様あんなに喜んでいたではないか」 「・・・・・喜ぶってナニ?!まさかテメ見てたとか?見てたのかオイィ!!」 「いや、それにしてもベルゼ様のホームシックはまだ治っておらんぞ、いいのか」 あの電撃を食らう毎夜が続いても。 「いやいや、はぐらかすな。今テメェは聞き捨てならん事を口にしました」 「いやいやいや」 同じ女だと容赦はいらない、そう思って掴みかかろうと試みたがするりとかわされる。 結局肝心な事は聞けずじまいで終わってしまった。 後で絶対吐かす。今は元に戻る事が先決。これ以上女の身体でいたらどうなる事か恐ろしくて仕方がない。 魔王の親どころかその前に、自分に本当の子供が“出来て”しまいそうで。 相変わらず無表情でこちらを見つめてくる女に、負けずと睨み返す。 唯一、のんきに可愛らしく「ふぁ」と欠伸をするベル坊だけがこの緊迫した空間を和ます存在だった。 「なんとか言えよ、戻る薬くらい用意してんだろーが」 テメェの仕出かした事だろう、と低く言い放ったが、一般人には通用する脅しもこの女には一切通用 しないのか眉ひとつ動かす気配がない。本当に図太い野郎だ。 「・・・・・・はぁ」 暫く膠着状態が続いていたがそれを破ったのは深い、それは深いため息。 少し俯いた加減で、女の天然の金髪が顔を隠す。そうしてもう一度俺のほうへ視線を投げると 失礼なことに再度深いため息を吐いた後、ゆるく首を数回横に振った。 「ないのだ」 「・・・・はぁ?何がないんだよ、まさか薬とか言うんじゃー」 「おお、ドブ男の癖に察しがいいな」 「マジで!!ちょ、マジで!!?」 「マジだ。さっきまで持っていたのだがな、ちょっと出掛けよううと窓から飛んだら懐からポロッと」 「ポロッとじゃねえええぇぇぇぇぇ!!」 そもそも出掛けるのに窓から飛ぶ必要ないし、そんな目立つ事して近所から変な噂流れるんじゃ ―・・・なんて心配してる暇などない。ない。薬もない。先も見えない。 だとすると俺は一生このまま、女として生きていかねばならないのか? ツッコみどころ満載のあまり勢いよく立ちあがった膝が、ガクリと落ちる。 そんな。まさか。 放心状態に陥った俺の肩に、ポン、と細く白い手が軽く添えられ、その伸びた手の先を見上げれば。 「ドンマイ」 花が綻ぶような笑顔とはよく言ったものだ。 俺はこの日こそ、女を心の底から殴りたいと思った日はありませんでした。 ********** そのあと余りにも受けたショックが大きすぎてか、食欲も失せ、夕飯も食べずに部屋で 不貞寝を決め込んでいた。だが悩んでも考えても現実は現実だ、どうにもならない。 ならないが、かと言って諦め切れるか。 と、もう一度あの女に噛み付いてやりたかったが指一本動かすことも億劫なほどで。 あぁ、と気づく。カチャリと部屋のドアが開いたことにさえ気づかないほど、俺は落胆していたのだ。 「男鹿」 真っ暗な闇に、開いたドアの隙間から入りこむ外の光。 それは希望の光なのか、否―・・・・それは悪魔の。 「男鹿、忘れていたが一つだけ戻れる方法がある」 「・・・・!?」 バタン!! 家の中から「辰巳どこへ行くの」と叫ぶお袋の声。 構わず真っ暗に更けた夜道を走った。もちろん忘れず、眠るベル坊を無理矢理背中に背負って。 時間がないのだ、今日が終わるまでの時間が。後どれ位だろう。 女から聞いた元に戻る方法とは至極簡単なことだった。 てっとり早く戻る方法は男の体液を摂取すること。早い話がセックスして中出しして貰えという話。 いったい何処のAVですか、とかそんなエロ漫画みたいな展開あり得ない、騙されるか、なんて。 今の俺には反論できる余裕などない。そりゃないですとも、自分の人生かかってますから。 例えお約束な条件であろうとも実行しますとも。 フルスロットルで走って、走りまくって数十分後、最近良く出向くようになった家の前に着いた。 チャイムを押す。出ない。2度連続で押してみるが、出ない。 (・・・ケータイ持ってくりゃ良かった・・・・いねーのか) 家を出てくる時に見た時計の時間は22時半くらいだったか。 タイムリミットは今夜かぎり24時まで。 (こんな時に何処行ってんだよ、東条) キョロキョロと周りを見渡してみてもあたりは時間帯が遅いせいか静まり返っている。 ほのかに道を照らす街灯が余計静けさを煽りたてているかのようだ。 ドアの前でしゃがみ込み、膝を抱えて縮こまる。 (戻れなかったらとーじょーの所為だ、責任とらせてやる) あの男のことだから、よろこんでと言われてしまいそうだが。 (一生奴隷にしてやるっ) 「男鹿?」 ジャリ、とサンダルを擦る音。 不思議そうに名を呼ぶ声と、手に持っているのは愛用しているコンビニの銘柄が書かれたビニール袋。 声に反応してうつ伏せていたj顔を勢いよくあげた俺に、ますます不思議そうに目を見開く 東条がそこにいた。 その姿にほっとしたのか一瞬泣きそうになるのを堪えて、こちらへ向かってくる男の大きな身体に 勢いよく飛びつく。首に腕を回して足は腰に巻きつけて。ギュウ、としがみ付く。 「珍しいなお前から寄ってくるなんて。どうした?」 「・・・・うるせーなんでもねぇよ。いいからとっとと部屋に入れろ」 「解った解った」 東条は、しがみ付いた俺の頭をまるで機嫌の悪い猫をあやすかのように撫でながら、 ドアのカギを開けて中へと入っていく。 コンビニ袋を適当に机の上に放り投げて、迷いもなく歩いていく先はベッド。 説明をする必要も、抱いてくれと頼む恥もかかなくて済みそうだ。 体温が高いのか熱い掌がTシャツの裾から潜り込み、背中を這いまわる。 「あれから身体が疼くのか?」 「あぁ?」 「ガッコで一回イカせてやったけど。足りなくてアツイんだろ、ココ」 「な、バッ―・・・・・・」 ベッドに仰向けに身体を押し倒され、するりと撫でられた下腹部に顔が赤らんだ。 だがもうぐずぐずしている暇はない。時間が押し迫って―・・・・。 「そーだよ」 「・・・男鹿?」 「シたくて堪んねー。だから東条」 思うように腰やら足やらを撫でていた男の手をとり、捲りあげたTシャツから、たゆん、と 零れ出たそれに押しつけて。 「はやく。抱けよ?」 ********* チュン、チュンと雀のさえずりが聞こえるすがすがしい朝。 あちこち痛む身体を叱咤して、タオルケットの中から這い出るようにして起き上った。 何気なく下を向くと、世の女性たちが見れば誰もが羨むようなほど豊満で張りのある、形のよい胸が。 「あるじゃねーかあの女ホント何?苛めも過ぎると犯罪だぞ」 「散々楽しんでから言う科白ではないな、今晩は赤飯を炊くよう貴様の母親に頼んでみるか」 「だから窓は人が出入りするとこじゃねぇ!!」 いつの間にいたのか。神出鬼没な魔王の侍女は人様の家にも関わらず優雅に窓枠に腰をかけて 此方を見下ろしていた。 「てか身体!戻ってないぞコレ!テメェが言うから俺は」 「ああアレちょっとした冗談」 「よーし殴る。大人しく顔差し出したら一発で済ませてやるから」 「・・・・・いいのか?また落としてしまうぞ」 「それっ!まさかっ」 緑色した明らかに怪しい薬第二弾。 けれど言われなくても解る、それが元に戻れる薬なのだと。 「寄こせ」 「おや、さっき何処かの誰かが私を殴るとかなんとか」 「いいから寄こせっ!オラァッ」 薬を掴んだ方の手首を掴み上げれば、グラリと上体のバランスを崩した女の身体が揺らぐ。 あ、と言う小さな声が耳を掠めたと思った瞬間、カンカンカン、ガシャン。 勢いよく壁にぶつかりながら落ちていったそれは拾うすべもなく下の地面へと落ちる、そして割れる音。 時が止まるというのはこういう場面を言うのだろう。 「・・・・・あれは本物だぞ」 「魔界に行けば一つや二つ・・・・」 「今は作られていない。これから作るとすると材料集めから始めて何カ月、いや何年か・・・」 初めから呪われているに違いない。 魔王の親だなんてろくなことがない。 起こさないよう15M範囲内、隣の部屋に寝かせていたベル坊が起きたのか愚図る声が聞こえる。 早く行ってやらなければ電撃は免れない。 行かなければいけないが、身体が思うように動かないのだ、まさか2度目の放心状態。 そんな俺の肩に、ポン、と細く白い手が軽く添えられ、その伸びた手の先を見上げれば。 「ドンマイ」 あれ?これどっかで見た光景。 俺は本当に、本当に・・・・元の身体に戻れるのだろうか。 解っていることと言えば、ただひとつ。 取りあえず今はベル坊にミルクをやる事が俺に出来る最優先事項だということだ。 END |
これにて一応完結デス。女体楽しい。また番外編とか、違う設定で女体とか書いてみたい。
皆様も楽しんでいただけたなら幸いです。
男鹿さんは果たして元に戻れたのでしょうか?戻れなくても東条さんが貰ってくれるから安心ダネ!!