Mission3
マック・ハンバーガー100個計画!
その5
意外な展開と結論
その人物の存在に最初に気づいたのはスラッシュ君であった。
そして拙者は、チラッ、チラッとスラッシュ君が視線を動かしていることに気がついた。不審に思った拙者は、どうしたのか目で問う。彼の視線の先に特に変わった物はない。他の客はたくさんいるが、メンチ切ってる奴とか、明らかな変人とか、そーゆー種類の者も見当たらない。はて? いったいなにを見ているのか?
「なあ」
スラッシュ君が話を切り出す。
「さっきからあの店員さんがこっちをチラチラ見てるんだけど」
なるほど、言われてみれば、こっちをコソコソとうかがっている女性店員がいることに気づく。歳の頃は我々と同じぐらいか少し上。ショートの髪をボブ気味にまとめており、顔立ちはややケバ目ながら可愛らしい印象を与えるつくり。見るからに明るそうな雰囲気をもっており、ファーストフードの売り子としてはほぼ満点であろう。そんな女性が、こちらを盗み見ている。
「スラッシュ君の知り合い?」
「いや。僕も二人の知り合いかなぁと思って」
しかし、誰もその女性を知らない。はて? じゃあ、なんで彼女はこっちを見てるのか? 考えられる可能性は・・・
1:頭がおかしいから
2:実は我々のことを見ていない
3:我々に惚れたから
4:ハンバーガーを大量に頼んだから
仮に<1>が正解だとすると、我々にはどうしようもない。むしろ店長とかがなんとかすべきだろう。では<2>が正解か? 彼女から見て我々が陣取った席の奥には店舗の壁しかなく、そうなると彼女は壁の様子をうかがっていることになる。ってことは結局のところ<1>と同じってことだから、やはり店長になんとかしてもらいたい。すると正解は<3>か? たしかに日頃の我々の紳士っぷりはナオンが惚れるに十分値するが、しかしこの店ではハンバーガーを大量に注文しただけ。もし仮に彼女が「3人なのにハンバーガーをあんなに注文するなんて・・・素敵!」と思っているのであれば、やはりこれも<1>と同じなので店長になんとかしてもらわないと。
と、まあ、考えを進めていけば、必然的に残る可能性は<4>となる。我々が大量にハンバーガーを頼んだ様子を盗み見ているってことは・・・はっ!? まさか我々のミッションが店側にバレた!? そして彼女は我々を監視すべく送り込まれたエージェント!? すでに店の外はFBIとかKGBとかNHKとかで包囲されている!?
我々が事の重大さに気づいた時、彼女はゆっくりとこちらにむかって歩き始めた。
やばい!
緊張が走る。まだミッションが店側にバレたと決まったわけではないが、もしそうなら完全敗北だ。いや、ハンバーガーが全部そろうまでの時間をはかっていなかった時点でかなり敗北気味なのだが、しかし、まだ最後まで勝負はわからない感じのところもあるにはあるとゆー雰囲気(負けず嫌い)。だが、もしミッションがあらかじめ店側に察知されていたのだとしたら? ハンバーガーがそろうまでの時間がどうであれ、作戦は失敗である。店側になにも気取られてはならないことは、最初に確認した通り。そう、今、我々はミッション成功と失敗の狭間に立たされているのだ。
そうこうしている内に、女性店員は我々の目の前まで接近してくる。
そして、その口がゆっくりと開く。
はたして出てくる言葉は!?
「ねぇ、君達ってもしかしてファミレの人じゃない?」
はい?
ファミレ?
ファミレとゆーと?
拙者とスラッシュ君が所属している大学の軽音楽サークル「ファミレド市」のことですか?
「やっぱりぃ! ね、ね、あたしのこと覚えてる? あたしもファミレなんだけど」
覚えてるもなにも見た事すらないんですけど。
だが、ここでそれを言うと色々とややこしくなると思われたので、黙っていることにする。するとスラッシュ君には思い当たる人がいたらしい。「もしかして先輩ですか?」と聞くと、女性は嬉しそうに何度もうなずいた。
「あたしあんまり部室には顔を出してないから、覚えられてないと思った」
いや、まんまと覚えてなかった人間がここに一人いるのだが、ここは話をあわせて「あー、あー、思い出しました」と適当なことを言っておいた。嘘は言っていない。実際にいろいろと思い出したんだから。小学校の運動会とか、中学校の修学旅行とかを。←こっちの方がダメダメ
まあ、些細な事は良いとして。
それよりも問題なのは、なぜこの先輩は我々の様子を見に来たのかだ。まさか超能力で「同じサークルの人がいる!」とわかって現れたわけではあるまい。彼女には我々を観察する理由があった、そしてその過程で自分のサークルの後輩であることに気づいた、そう考えるのが普通であろう。ならば、その理由を探らねばならない。
そんな拙者の思索をよそに、先輩はとんでもないことをサラッと言ってのけた。
「今、下で君達のこと凄い話題になってるよ」
ええっ!?
なんで凄い話題になってるの!?
あんなにさり気なさをアピールしてきたのに、どうして!?
「30個だからねぇ。それであたしも見学にきたわけ。また中学生か高校生かと思ったけど、まさか君達だったとは」
そうか・・・やはり30個とは、それだけで興味を引かれてしまうぐらいの数なのだ。店員が見学にきてしまう程に。まあ、考えてみれば当り前の話だ。拙者が店員だったとしても、ハンバーガーを30個注文する客がいたら興味を持ってしまうだろう。いや、ハンバーガーだけの話ではない。なんであれ30個を一気に注文というのはインパクトがある。たとえこれが鉛筆だったとしても。消しゴムだったとしても。ポテトチップスだったとしても。うまい棒だったとしても。犬だったとしても。おじいちゃんだったとしても。風俗だったとしても。とにかく、根本的にこのミッションは秘密裏に遂行できない類のものだったのだ。
だが、しかし、秘密裏にできないことと、ミッションの目的がバレることは、必ずしもイコールではない。彼女が興味をもったのは30個というハンバーガーの量にだ。つまり、大量にハンバーガーを注文する客がまた現れたとゆーだけで、我々のミッションの目的がバレたわけでは・・・
ん? まてよ? 「また現れた」だと?
もう一度先輩の言葉を反芻してみる。
「また中学生か高校生かと思った」
中学生か高校性だと思ったってことは?
「中学生とか高校生がハンバーガーたくさん注文することってあるんですか?」
「うん、あるよー。50個とか、100個とか」
100個!?
意外な事実発覚である。まさか中学、高校生達がハンバーガーを大量に注文することがあるとは。しかし、はたして連中に大量のハンバーガーを購入する資金があるのだろうか? いや、金があったとしても、それを全てハンバーガーに費やしてしまうってことは、なかなか考えられない。
そんな素朴な疑問を先輩にぶつけてみたのだが、答えは単純明瞭だった。部活である。学校の部活単位で注文にくるのだそうだ。例えば、部員が30人いる野球部なら、一人3個注文すればオーダーは90個になる。一人2個でも計60個。我々のように小人数で大量注文するのではなく、大人数で少量注文するわけだ。なるほど、それなら納得がいく。
しかし、中・高生とは。これは完全に予想外。とすると、この店舗は大量注文に慣れているのか?
「うーん、そうとも限らない。中学生とかって、事前に電話で注文があるのよ。それを代表の人が取りに来るって感じで。君達みたいにカウンターで30個注文して、しかもそれを持ち帰らないで食べてくって人はいないなぁ」
なるほど、我々の様な連中は他にはいない、と。なんとなく虚栄心が満足。遠回しに「あんた達、非常識」と言われているよーな気もするが、たぶん気のせいだろう。
まてよ、これは使えるのでは? 我々はマックのファーストさを調査しにやってきた。ところがハンバーガーの陰謀(?)によりその測定に失敗。だが、ここでサークルの先輩(知らない人)と出会い、中・高校生の大量注文の話が出てきた。これを利用して、店側の人間からマックのファースト具合を聞き出せるのでは?
同じことを他の二人も考えていたらしい。我々はそれとなく目配せをしあう。
「いやぁ、しかし、大変でしょ、ハンバーガーを50個も100個も作るのって」
「だよねぇ。1個作るのも大変そうなイメージあるもん」
「時間も凄いかかりそうだよねぇ」
「そんなことないよ。時間的には1個も10個も50個も大差ないから」
かかった!
彼女は我々の策略にまんまとひっかかり、自ら店側の機密事項をしゃべりだした。
要約するとこーゆーことである。基本的にハンバーガーは挟めば完成する食べ物なので、材料さえそろっていれば作る時間はほとんどかからない。早く挟めば早く挟むほど時間は短縮できる。ただ、ある程度の時間が絶対的にかかるものがひとつだけある。それはハンバーグを焼く時間。だいたい一枚焼くのに3分弱かかるらしい。これだと50個とか作る時に凄い時間がかかりそうだが、ハンバーグを焼く鉄板が半端じゃなく大きいので、一回で最高50枚は焼けるのだそうだ。つまりハンバーガー100個分作るのであれば、鉄板をフルに使って2回焼けばそろう。あとは挟めばOK。ちなみに鉄板の大きさは店舗の規模によって差があるかもしれないそうだ。それでも20〜30は焼けるはずらしいが。
「だいたい5〜6分もあれば10個ぐらいは作れるわね」
「じゃあ、30個ぐらいなら?」
「30個も同じ。結局ハンバーグの時間次第だから、10も30も50も同じってわけ」
10も30も50も同じ・・・力強い言葉である。そりゃ数が違うのだから多少の時間差は生まれるだろうが、だが、基本的な時間は変わらないわけだ。10個で5〜6分かかるとすると、これが30個ならだいたい7分ぐらいだろう。って、これは勝手な推測だが、おそらくそう違ってはいないはずだ。思い返してみれば、今日だってだいたいそれぐらいでハンバーガーが全部出そろったような気もするし。というか、7分だった。7分でいく。決定。
30個7分だとすると、1個あたりの時間は14秒。予想の10秒よりは遅かったが、これでも十分速いと言える。しかもこの速さは50個でも大差がないわけだから、もうマックをファーストであると認めないわけにはいかないだろう。
よって我々はここに宣言する。
マックはファーストである!
ファーストフードの看板は伊達ではなかった。もう誰がなんと言おうと間違いなくマックはファーストである。この結果を知った上で異論がある奴はいないとは思うが、とにかく速いのだ。恐るべきマック。そう、「恐るべき」としか形容のしようがないスピード。凄いぞマック! 強いぞマック!
それにしても我々はツいている。ハンバーガーが出そろう時間をはかっていなかったのに、先輩の出現によりおおよその数値がわかってしまった。ミッション失敗の危機がからくも回避されたのだ。先輩は我々の恩人である。しかも、食べきれなかったハンバーガーを入れる持ち返り用の袋までくれたし。ありがとう先輩。誰だかわからないけど本当にありがとう!
誰だかわからないと言えば、マックを出てからスラッシュ君に「さっきの先輩って誰?」と聞いたのだが、その答えにビックリした。
「え、知らないよ。宰相が知ってるもんだとばかり」
・・・。
・・・。
・・・。
・・・いったい本当に彼女は誰だったんだろう? マジでわからん。その後一度もあってないし。冗談抜きで拙者達が大学を卒業するまで一回も見かけてないぞ。本当にうちのサークルの先輩だったのだろうか? もしかしたら拙者達の幻覚? いや、絶対に彼女は実在の人物だった・・・はず。ま、まあ、誰だかわかんないけど、とにかくありがとうってことで。
さて、我々のマックのファースト検証はこれで完了したわけだが、このミッションには例によって後日談がある。吹奏楽部のマック100個計画がどうなったのかってのもあるし、それらについては続きを読んでいただきたい。