|
|
|
|
|
さいしょの記憶は お月さま
群青の空に 夜の爪のように輝いていた
それから小さな赤いハート
フェルトでできたそのハートを
誰かの指がつまみあげ ちょいちょいちょい と
私の胸の 脇に開いてた小さな穴にいれました
そして器用なその指は
茶色い木綿の丈夫な糸で ちくちくちく と
縫いとじました
夜も更けた 誰もいない工房に
ずらりとならんだぬいぐるみたち
旅立ちの日を待っている
待ちきれなくて眠れぬ子も 不安でぽろぽろ泣いている子も
じっとその日を待っている
さいしょの声は 女神さま
星のようにキラキラと 遠い空から降ってくる
女神さまは言いました
ぬいぐるみたち よくお聞きなさい
あなたがたには 大切な仕事があるのです
この世の小さな女の子たちの
いちばん弱くて大事な時期を
そのふわふわの毛皮で
安心させておあげなさい
闇におびえて眠れぬ夜を
優しくささえて守るのですよ
守る?小さな女の子を?
女神さま だって私たちはただのぬいぐるみです
歩くことも 話すこともできません
いったいどうして そんなことができるでしょう
時が流れ 月が満ち
いつかきっとめぐり会う
その瞬間に 赤いハートは目覚めるでしょう
めぐり会う?
いったい誰に?
それはいつ?
待って待って 女神さま!!
そこで私は目を覚ます。
「きゃーーーっ!!まずいっ寝てしまったあ!!」
|
|
|
|
「い、いま何時?0時2分?きゃー!!」
…むぐぐ。
いかんわ、真夜中に叫んではグリさまが起きてしまわれる。
長旅に疲れて、めずらしく早い時間にお休みなのだ。
やっとお帰りくださってうれしいなあ、グリさまっ♪…あら?
ブランケットがぶっ飛んでる…(^^;)最近何かはげしいなあ。
掛け直して差し上げるついでにスリスリしちゃえ〜♪スリスリスリ♪
ああ、このままおそばで丸くなってぐーすか寝てしまいたいっ
でも。
私には、やらねばならないことがある。
グリさま、番熊ちょっと外出してきまーす!!
***
例によって、窓から脱出する。滑り止めつき軍手(さらに学習した)をはめ、窓のそばの大木の幹をするするとおりていくと。
「あっ番熊くーん!!遅いわよーっ!!」
「きゃーん、ごめんなさーいNOKO猫さんっ」
木の根元で待っていてくれたのはNOKO猫さんである。
亀を胸にアップリケしたおされーなTシャツをお召しになっている。
しっぽについていたアクセサリーが出世したものだ。
なんでもミサちゃんがじきじきにMYチャリで加工してくださったとか。
「こんな夜中にありがとうNOKO猫さんっ助かるわ〜」
「ふふっ脱走は得意なの♪さ、それじゃ早速ルートを説明するわよ〜」
NOKOさまに本日のルート説明を受けていると、育ての親のりょうさまがいらした。
「番熊ちゃーん!お弁当よー!!」
「あっりょうさまー♪お弁当なに?なに?え、シャケのおにぎり?わーいっありがとう〜」
「多めに持ってきたからちょっとここで食べてく?水筒にあったかい番茶もありますわよ。ドロシーさまお薦めの焙じ番茶よ♪あ、NOKOさまもどうぞ〜」
「まあっうれしい〜(^^)」
木の根元で1人と2匹が飲み食いしていると、まあさまとやまりんさまがいらして、心配げに声をかけてきた。
「な、なにしてらっしゃるの皆さま…番熊くん、早くでかけなくていいの?」
「あ、そうそう!!番熊もう行きますわっ!ごちそうさま〜」
「じゃあコレね、頼まれてたモノよ。キツめにしといたから。はいっ」
「あ、私も。はいっこれ。この前あげたのはとっくにないんでしょ?」
「ありがとうやまりんさま、まあさまっ!これで番熊、100匹力ですわー」
「番熊くん、じゃ、出発してもいい?」
「ごめんなさい、あと3分!皆さま、ここで待ってて!!」
ててて〜っと番熊が駆け出した先は、中庭の噴水前広場である。
そこにはなにやら三日月をバックに怪しげな人影が。
「番熊さま。待ちかねたぞ…」(←すでに芝居はいってる)
「かおるさま。いざ、勝負!」
出発前のウォーミングアップ、チャンバラゴッコ3分間1本勝負である。
番熊はペンタブレット一刀流、かおるさまはマニア垂涎ブランド色鉛筆二刀流(スペア多数)。
ちゃんちゃん、ばらばら。
「隙ありっ!!」
「きゃーっ!!」
勝負はかおるさまの勝利に終わった。
「お強いわー、かおるさまー」
「番熊さまのペンタブは重いから、相手の動きが速いとついていくの大変よ」
「うーんそうか」
「だから敵がこう来たらこうしてね」
「ふんふん」
かおるさまにナイスなアドバイスをもらい、準備はすべて完了した。
「皆さま、ほんとにほんとにありがとう!
番熊がんばりますわ、行ってきまーす!!」
皆さまに見送られ、ツアコンNOKOさまに付き添われて、こうして番熊は(やっと)出発した。
|
|
|
|
月の輝く夜道を、熊と猫がつるんで歩いていく。
らったらった♪
意味もなく楽しげなのは、二匹ともナチュラルハイだからである。いたしかたあるまい。
おいしい夜食のあとの楽しいお散歩に、心も肉球もついつい弾んでしまうのだ。
やがて二匹は小さな店が軒を並べるにぎやかな街角にやってきた。
「はーい、まもなく到着です。あちらに見えますのが、居酒屋ボンヌ・ターブル。
毎晩月〜金の午前1時に、店の前から目的地まで深夜馬車が運行されてます。
あれに乗るんですよ〜」
「ねえねえNOKO猫さん、深夜馬車ってなあに?」
「それはですね、酔っ払って帰れなくなったんだけ
ど、個別に辻馬車が拾えないよー、というお小遣いの少ない気の毒なお父さんたちを
安い料金で乗せてくれる、大変徳の高い乗合馬車のことです」
「ほおお、すばらしい〜」
番熊はお得な話が大好きだ。
「いい、番熊くん。帰りがポイントよ。番熊くんが降りた後、乗合馬車は終点まで行って
引き返してくるから、そのときまでに用事を済ませてかならず同じ馬車に乗って帰ってきてね」
「ぎくう。乗り遅れたらどうなるの?」
「そしたら丸1日帰ってこれません」
「がーん。そんなことしたら、職場放棄で番熊をクビになってしまう…」
「そうよ、だから絶対乗り遅れちゃダメよっ」
「は〜い。じゃ、行ってきますわ!」
「いってらっしゃい、気をつけてね〜っ」
酔っ払ってぐーすか寝ているお父さんたちの足元をちょろちょろ走り抜け、
乗合馬車のすみっこにこっそり侵入。ほどなくして馬車は動き出した。
一番うしろに開いている窓からそっと外をうかがうと、
ほっそりした猫のシルエットが前足としっぽを振っている。
ああ、そんなにぶんぶん振ったら…あ。こけた(^^;)
ありがとうNOKO猫さん、き、気をつけて帰ってねっ…心配。
さて。ひと休みしようっと。
がたがた揺れる乗合馬車の中、だんだんまぶたが重たくなってくる。
すみっこにもたれて目をとじた途端、夢のつづきが始まる。
***
小さな工房の大きなテーブルに
ところ狭しとならべられた 大中小の化粧箱
色とりどりのリボン
ぬいぐるみたちはていねいに一匹ずつ詰められて
誇らしげにリボンをかけられて どこかへ運ばれて
いきました。
みんなどこかへ行っちゃった。
ねえねえ、私は?
私はここで置いてけぼり?
目の前に、使い古しの箱が置かれました
捨てられちゃうの?
私はいらなかったの?
私のご主人さまは どこにもいないの?
ああ女神さま、ごめんなさい。
せっかく大事なお仕事をもらったというのに
私はお役にたてません
そして私も運ばれていきました
無造作に古い箱に詰められて リボンもなしで。
***
ふと目覚めると、カーテンを引いた窓の隙間からなにやら建物が見える。
なんと!あれは目印の教会ではないか!?
「きゃあ〜っ!!い、いつのまにか到着してしまったあ〜〜っ!!」
|
|
|
|
「ロレーヌ到着で〜す。降りられる方、もういらっしゃいませんね?では扉を閉めますよ〜」
なぬ!?そ、それはやばいっっ!ええい、非常手段だ!
ころころころころ〜〜。
超高速で転がっていって閉じかけの扉をぎりぎりですり抜け、そのまま道路へ落っこちる。
ぽろりん。ぼてっ。ギャー!!いったーいっ!!
「…おのれぇ、砂利道とは卑怯千万。ちょっと!ちゃんとアナウンスしてよねっ!」
そんな負け熊の遠吠えなど、御者に聞こえるわけもない。
だいいち無賃乗車だから聞こえても困るし。
深夜馬車は番熊を落っことすと、終点目指してがらがら走り去っていきましたとさ。
「ふー。まあいいか。なんとか目的地についたし」
気を取り直してあたりを見まわす。近くに目印の教会が見える。まずはあそこで情報収集かしらね。
そう思って歩き出しかけた番熊に、近づく影があった。
「おい、そこの熊。見かけねえ顔だな。誰だおまえ?」
むむ。なんか態度のデカい手作りテディベア。
キルティング加工の布地でできた、いかにもママが娘に作ってあげそうなぬいぐるみである。
こいつも同業者かしら。番熊業務をほっぽって真夜中に散歩とは、けしからん奴め(←自分はどうした)
ここはちょっと北欧の貴公子ぶってみるか。
「熊に名前を訊ねるときは、自分から先に名乗るのが礼儀というものだ!」
「なんだとお〜っ!」
あらら。やっぱり相手がオスカルさまじゃないと通用しないか…
「おーい!誰かそのへんにいるかぁ!?」
あ。やばいっ仲間がいるのね!?に、逃げよっ!!
すたこらさ〜〜〜っ
「あっ!!こいつ逃げるか!?待て〜っ!!」
番熊は逃げ足はとっても速い。
ドッジボールもよけるのだけは大得意だ。
しかし、ただひとつだけよけきれないものがある。夜中にグリさまがぶっとばすブランケットだ。
2回に1回は巻き添えを食って飛ばされてしまうのである。
さすがはご主人さま、やっぱり美人は違うわ〜(*^^*)←関係ない。
などと言っている間に教会に無事到着。
「きゃー!!きっれー!!」
教会に飛び込んだとたん、番熊は思わす歓声をあげてしまった。
中央通路つきあたりの祭壇に、それはそれは美しいマリア像がまつられていたのだ。
後ろには見事なステンドグラスの薔薇窓。まさしくかおるさまのお絵描きのとおりだ。
「ううむ、さすがはわがチャンバラメイト…まあほんと、グリさまに似てる♪
じゃ、ここでマリア様を鑑賞しつつお弁当にしようっと」
がさがさがさ。りょうさまに作ってもらったおにぎりを取り出す。んぐんぐ。んまいっ!!
美人を眺めながらのご飯は楽しいなあ(←オヤジ)
さて水筒の番茶を飲もうと思い、視線を床に落とすと。
ちゅうちゅう。
「きゃー!!びっくりした〜。何よ、ネズミじゃないよ〜。
よかったわ、ミサちゃんがいなくて。いたら恐怖で気絶しちゃうわ。ちょっとお、何か用?」
「あのお。いい匂いがしたもんで。それ、ちょこっと分けてくれませんか?」
「これは育ての親に持たせてもらった貴重なおにぎり。タダではあげません。
お礼になにかしてくれる?」
「見れば旅人のようですが、真夜中に休憩とは訳ありげ」
「そうよ〜、訳ありあり、あるある大辞典の旅なのよ〜」
「シャレにもなってませんけど。まあいいでしょう。
あの、もし情報が必要ならうちのネズミ算式コンピュータで何でも調べてあげますけど」
「えっ、ほんと?じゃあさ、ルイーズって女の子の家がどこか知ってる?」
「あ、それ、この教会の隣です」
おおお、灯台元暗し。求めよさらば開かれん。熊も歩けばネズミにあたる。
知らず知らずターゲットに大接近していたのね!
えらいぞ、ワタシ!!(^^)←逃げてきただけ。
さっ、行っくわよ〜〜っ!!
|
|
|
|
|
箱の天井が 開きました
おそるおそる見まわすと
そこは小ぢんまりしたお店でした
いったい何屋さんでしょう?
ぬいぐるみやら アクセサリーやら
いろんなものが ならんでいます
優しくはたきをかけられたあと
私は窓際に飾られました
外はよく見えるけれど
陽が差し込んで毛皮の色が褪せたりしない
実にすてきな場所でした
道を通る人々が ときどきのぞきこみましたが
私はここが気にいったのです
どうか 買わないでね
必死で目をそらし 日々を過ごしておりました
ところがある日 通りかかった男の子と
ばっちり目が合ってしまいました
何度かそれが 繰り返されて
とうとう 彼はやって来て
小さなコインばかりを積み上げて
私を買っていきました
さようなら 名前も知らない小さなお店
こんどはどこに行くのかな
ご主人さまには いつ会えるのかな
***
「あのう。何ですか?それは」
ほっぺたにご飯粒をつけたねずみが訊ねた。
「ぽえむよ、ぽえむっ!わるい?」
「いや、別に悪かありませんけど。あ、こっちですよ。で、なぜに番熊がぽえむを?」
「はて何でだったかな?えーとね、たしか最初のぽえむはね、何かの歌を聴いてて思いついたんだったわ」
「それってパクリじゃないんですか?あ、そこの窓から入れそうですよ」
「あっそう。…失礼ね、『おやすみ』と『月』しかパクってないわよっ」
「やっぱりパクってたんだ〜」
「うるさいわねっ!パクリやネタかぶりが恐くてベルばらサイドが書けるかっ!!」
「あのう。お迎えが出てますけど…」
「え?」
窓から入ったその場所は、ビンゴ!まさしくルイーズの部屋。
壁際のベッドで彼女はすやすやと寝息をたてている。
そして。
「また会ったな」
がーん!!さっきのキルティング・テディベア…
そして共布で作られたその仲間たち、ジンジャーマン人形10体。
「こんどは逃がさねえぜ。あやしい奴、俺のルイーズに何の用だ!?」
なんてことなの!こいつ、ルイーズの番熊だったのね!?
|
|
|
|
こうなってはしかたがない。番熊同士、正々堂々と戦わねばならぬ。
「ど〜も〜、お邪魔してま〜す。私は不思議隊のフォルジュ総帥のもとで番熊を務めている者。
わけあってそこのルイーズちゃんに正義の鉄槌をくだすべく、ベルサイユから参上つかまつり」
「なんだよ、大仰だなあ。うちのルイーズがいったい何したってんだよ」
「これは異なことを。チョイ役の分際で、恐れ多くも我が主君グリさまに対しての「悪魔」呼ばわり、
その他罵詈雑言の数々。この望遠鏡にて全てお見通しです。かわいそうだが見逃すわけには参りません」
「へっ、いいだろそのくらい〜。笑って許してやれよ」
「謝れば許すけど〜。でも絶対謝らなさそうでしょ、この子」
「確かに。こいつ可愛い顔して結構気が強いからな〜」
「でしょ?主君の仇をとるのは番熊の務め、だから私が仕返しに来ましたのよ」
「まあな、あんたも番熊だからそりゃしゃあないわなあ」
「でしょでしょ?案外アナタも話がわかるわね〜(^^)じゃそこどいてくれる?」
「ダメ。そうは言っても事情はこっちもおんなじだ。
ルイーズがやられるのを指くわえて見てるわけにはいかないね」
「むむ!?…では?」
「…やるか?武器はなんだ?」
「ペンタブ一刀流にて。そっちは?」
キルティング野郎はドレッサーの上から何かを持ち出した。
「チークブラシ&リップブラシ二刀流」
おお、それは新しい!
…と感心している間に早くも相手の攻撃が始まった!
ああ、やっぱり戦うのね〜
けっこう強そうだなあこいつ〜
ケガとかしたらヤダな〜
ええい、グリさまの名誉のためだ、しかたがないっ!!行くわよ〜!!
ちゃんちゃん、ばらばら。
出発前にかおるさまと特訓してきて良かった、やっぱ二刀流は速くて気が抜けないわ。
片方を避けても、時間差でもう片方が迫ってくる。
なかなか攻撃のきっかけがつかめない。
ちゃんばら、ちゃんばら。
まずい、息があがってきた。
長旅の疲れもあるし、お弁当食べたばっかりだし、寝てないし(←嘘つけ)
ちゃんちゃん、かきーん。
わ、わたしは…負けるかもしれない…
だんだん周りが見えなくなっていく。
音が消えていく。
脳裏をよぎる、愛しのご主人さまの笑顔。
助けて、グリさまあっ!!
|
|
|
|
私を買った男の子は なんと失礼なことに
私をふところに突っ込みました
とくん とくん
心臓の音がきこえます
それから彼は 残りのコインをはたいて かすみ草を買いました
とく とく とく
なんだかとってもどきどきしているみたい
いったい誰に贈るのでしょう?
どうやらどこかに着きました
とくとくとくとく
彼の心臓が早鐘をうちだしたとき
私は ふところから取り出され
光の中に立っていた誰かに ためらいがちに差し出されました
その髪は金色の絹の糸
瞳は透きとおった翠玉
そこには 見たこともないほど綺麗な女の子がおりました
男の子の格好をしていたけれど
それはとても 凛々しく似合っていたけれど
どうしてでしょう
私には 一目でわかりました
女の子は びっくりして
しばらく私と男の子を見比べていましたが
やがて 輝くような笑顔を浮かべ
嬉しそうに腕をさしのべて
そして その手がついに私に触れたとき。
とくん。
これはなに?心臓の音?…私の?
女神さまの声が響く
魔法の呪文がよみがえる
時が流れ 月が満ち
いつかきっとめぐり会う
その瞬間に 赤いハートは目覚めるでしょう
ああ、この人だ…
この人を幸せにするために、私は生まれてきたんだ。
とくん、とくん。
きれいなきれいな瞳の奥で
寂しがりやの女の子が泣いている
強がっていても
大人のふりをしていても
ほんとうは甘えたくて
それが上手にできなくて
とくんとくんとくん…
どうかもう泣かないで
ずっとそばで 守ってあげる
どんなときでも
きっとあなたのそばにいる
この胸に 赤いハートが脈打つかぎり
グリさま。
あなたが、私の初恋だったのです。
***
「スキありぃぃ〜〜っ!!」
「はっ!」
すんでのところでチークブラシをよける。はああ、危なかった。
そうよ、こんなところで負けるわけにはいかない。
ぜったいぜったい、負けられない。
グリさまのために。
グリさまを泣かせるやつは、この番熊が許しませんことよっ!!
「てえぇぇ〜〜いっ!!」 かきーん。
「うわっ!!」
やたっ!!リップブラシを叩きおとしてやったわっ!ほーほほほ!
これで戦力半減、この勝負、もらったあ!!
いい気になって思いっきり油断したその一瞬。
ぶわあっっ!!
壁際のベッドからものすごい勢いでブランケットがぶっ飛んできた!!
「きゃ―――っ!!!」
「うわ―――っ!!!」
|
|
|
|
「ち、畜生…動けねえ…」
床の上で、キルティング・テディベアがブランケットにからまっている。
そのそばにすっくと立ち、勝ち誇るワタクシ。
「あーら、お大変ねえ。助けてあげるけど、その前にルイーズちゃんに復讐させていただくわね。
ちょっと…かわいそうだけどね…にやり。ふっふっふっ」
グリさまのぶっ飛ばすスピードにくらべたら、あ〜んなのスローモーションよ。
余裕でよけたわよ〜(^.^)〜♪
「く、くそっ…おおーい、てめえら何やってんだよ!!」
「あ、お仲間さんたちねえ。あのお人形さんたち薄っぺらくて軽いから、風にあおられて
窓の外まで飛んでっちゃったわ」
「こ、ここまでか…許せ、ルイーズ…」がく。
あ、気絶してしまった。
ルイーズの番熊さん、あなたもよく頑張ったわ。とっても手強かったわ。
お互いこれからも頑張って番しましょうねえ。
えーと、このままでは風邪をひくわね。
同志の健闘をたたえ、ブランケットをすっぽりかぶせてあげましょう。←さらに泥沼では。
さてと、復讐復讐♪
まずは壁際のベッドによじのぼる。よいしょっと。
このような大騒ぎにもかかわらず、ルイーズちゃんはすやすやと熟睡中である。
けっこう大物かも。
それでは脇の下あたりをちょっと肉球でくすぐったりなんかしてみましょう。
こしょこしょこしょ。
「う〜ん。くすくす…」
いまだっ!!
すばやくやまりんさまからいただいたインフルエンザ菌入りカプセルを取り出し、
わずかに開いたルイーズの口の中に放り込む。ぽいっ!
「ん。…ごっくん。…すやすやすや」
よ〜〜〜しっ!!(^^)
恐ろしい復讐、完了!!
ふふふ〜、私のグリさまの悪口を言った罰よ。
1週間くらい熱を出して寝込むがよいわ!ほーほほほっ
どうだっ恐れいったかあ〜♪
「あのう。」
「うわっ!びっくりした!…ねずみさん、まだいたの?おにぎりもうないわよ」
「見物してました。いやあ、お見事でしたねえ」
「そ、そお?(*^^*)」
「よけるのだけは」
「……」
「実に面白い戦いでした、武器も斬新ですし。普通はスプーンとかフォークなんですけどね」
「そんなもので戦ってたらお腹が空きそうでしょ。まだ何か用?」
「そうそう。お仕事は現役の番熊でしたよねえ?」
「そおよ〜。いまさら何を」
「もうすぐ夜明けなんですけど」
「あ、ほんと明るくなってきたわね〜」
「ご主人さまのところに帰らなくていいんですか?」
「!!」
しまったあ!!
忘れてた、馬車の時間っ!!
げ、もう過ぎてる!?
やばいっ!撤収―――っ!!
|
|
|
|
「きゃーっ!その馬車、止まってえええーーーっ!!」
って遠く道端でぬいぐるみが一匹騒いだところで、回送馬車が止まってくれるわけがない。
必死で走って追いかけるものの、どんどん距離は開いていく一方だ。
どうしようどうしよう〜っ!!
もう、大パニック!
せっかくグリさまの仇をとったのに、職場放棄で番熊をクビになってしまっては元も子もない…
ふええん、なにか馬車を止める手立てはないかしら〜〜
半泣きで走る番熊の視界に、いまや夜明けと共に消えていこうとする三日月が映った。
その瞬間、何かが閃いた!
「そ、そ、そうだあ!!」
走りながら背中のリュックに手を突っ込み、タオルの包みを取り出す。
タオルをぽいと投げ捨て、さらに保冷材でくるんでおいたものを手に取り、素早く構える。
それは、まあさまからいただいたつららであった!
番熊用に、ちゃんとブーメラン形に成形されている。愛を感じるわ♪
よし、これでいってみよう!!
それ行け、月の輪ブーメラン〜〜〜ッ!!
ぶーん!
方向音痴な番熊が繰り出すやっぱり方向音痴なブーメランは、
いま御者を目指して飛んでいく。・・・って、そりゃ当たらないのでは・・・!?
ぶぶーん!ごちっ!!
ご心配なく、御者を目指してハズしても、ちゃーんとお馬さんに当たりました!!
ひひーん!!
「わーっ!!なんだなんだ!!急に馬が・・・!!」
驚いて暴れる馬を静めようと御者は必死で手綱を引きまくり、馬車は急停止した。
いまだっ乗り込め〜!!
てててて〜〜〜っ!!ぴょんっ
「どうどうどう、何だったんだ?急に・・・よしよし。さ、行くぞ」
ようやく馬も落ちついたようだ。
ベルサイユを目指し、再び馬車は走り出した。
空っぽの内部の座席によじ登り、ぜいぜいと息をつく。
よ、よかったあああ〜、乗れて・・・
これでお屋敷に帰れるわ、グリさま、まだ起きないでねっ
番熊、すぐおそばに参りますわ〜!!
30秒後。
すっかり安心して気が抜けた番熊は、今度ばかりは夢も見ず、眠りこけておりました。
すやすや♪
|
|
|
|
ちゅんちゅん。
「・・・と思わないか?エスカッシャン」
ん?グリさまの声が聞こえる・・・
「・・・だな。・・・ったほうがいいな。・・・と・・・と、どっちがいいかな?」
「本熊に選ばせよう。ほら、朝だぞ、起きろ」
え?
「まあったく、こんなに汚れて・・・しょうがないなあ、いったいどこに行ってたんだ?」
あ、やっぱりグリさまだあ♪ただいまっ(^^)
「こらっ!スリスリはダメッ」
えええ〜っ、なんでえ?(><)
「泥だらけだから。サヴォン・ド・マルセイユと不思議隊特製シャンプー、どっちがいい?」
いっ!?どっちもヤダー!!
「やっぱりこっちだな。エスカッシャン、お湯は?」
「準備できたぞ」
あ〜れ〜っ!!!
ぶくぶくぶく・・・
***
そういうわけで。
とっても汚れ落ちが良いと評判の、不思議隊特製シャンプーで丸洗いされてしまいました・・・
おかげですっかりきれいになったけど、水を吸って体が重くなっちゃった。
乾くまで動けません、しくしく。
グリさまとエス君は私を陽あたりのいい窓際に座らせて、今日もお仕事に出かけていきました。
いってらっしゃーい。
お帰りになる頃にはきっと私も乾いているわ。
そうしたら思いっきりスリスリしちゃおうっと〜(^^)
ふああああ。
うう〜ん、徹夜(?)の任務明けは心地よい。
どうせ動けないし、ひと眠りするとしましょうか。
月がまた昇る頃、グリさまが帰ってくる。
それまでここで待っていましょう。
あなたを想って最初に書いた、ぽえむを思い出しながら。
『お月さまといっしょに』
おかえり きょうもがんばったね
ゆっくりお休み ずっとついていてあげるから
とびっきりにうれしかった日も
ぼろぼろに泣きたかった日も
いつでも ここで待っているから
大きくなって おとなになって
そのとなりに誰かが眠る日が来ても
きっとずっとそばにいる
きみの安らかな寝顔を見守っていく
やさしいひかりをふりそそぐ
あの空のお月さまといっしょにね
おしまいっ
"Diary of the Guardian Bear"
TSUKINOWA FILM Presented
Dedicated to GURI-sama (Heart)
Special Thanks to: BETH-sama as MEGAMI-sama, NOKO-sama,
RYO-sama, DOROTHY-sama, YAMARIN-sama,
MAA-sama, KAORU-sama and MISA-chan
Original: "The First Love" written by SEPIA-sama
Screenplay: written by KUMA
Ending Poem: "With the Moon" rescued from the BBS-river
No animals were harmed in this motion picture (^^)v
|
|
|
|
|
|
|