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遠藤耕太郎
草木言問う世界と死―納西族・彝族の神話と日本神話をめぐって―

日本が古代国家を建設するなかで作り上げた国家神話には、草木言問う世界が登場する。『日本書紀』は天孫が降臨する以前の葦原中つ国の状態を「磐根、木株、草葉も、能く言語ふ。夜は?火の若に喧響ひ、昼は五五月蠅如す沸き騰る」と記し、こうした世界は天つ神によって「邪神及び草木石の類を誅ひて、皆已に平け」られる。自然は天つ神に侵害されるべき存在だという考えがここにはある。谷川健一は「自己の存在を確保することは他者の存在を侵害することとは同一の行為であった」国家以前の社会では、人間は言葉の呪力によって他者である自然を侵害してきたのであり、それが歌の発生につながると述べている。果たしてアニミズム的自然は人間に侵害されるべきものとして認識されてきたのだろうか。発表では納西族や彝族の神話のアニミズム的自然に触れながら、神話世界における自然(環境)と人間との関係を考えてみたい。