ひげコンサルティング塾
  グループ学習
3−1.問 題:殺してくれりゃよかった−1

 ぼくが青年医師の頃の話である。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 意識のない脳卒中の患者さんが、救急車で運ばれてきた。ぼくは家に帰らず必死に治療し
た。和助じいちゃんは、危篤の状態を乗り越え、リハビリも大変うまくいって2か月後、杖
をついて、少し足をひきずって退院していった。
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 退院するとき、ぼくの手をとって、「先生、助けてくれてありがとう」と、とてもうれし
そうな顔をしてくれた。それから一週間後、ぼくが往診をしている途中に、和助じいちゃん
が道で歩く練習をしているのを偶然見かけた。 車を止めて声をかけた。「和助じいさん、
がんばってるね」
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 じいちゃんがぼくのそばまで来て、喜んでくれるかと思ったら、怒ったような顔をしてぼ
くにこういった。「先生、なんで助けたんだ。殺してくれりゃよかった」
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 唖然とした。はじめて聞く言葉だった。 耳を疑ったが聞き違いでないことは、和助じい
ちゃんの怒ったような顔が雄弁に語っている。
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 話を聞いてみると、じいちゃんにとって野良仕事をすることだけが生きがいだった。元気
になったと思って帰ってみたら、土いじりができる体になっていない。かがむこともできな
い。草取りもできない。なんとか杖をついて歩くだけ。その現実を知ったとき、じいちゃん
はぼくに殺してくれりゃよかったといったのだ。ぼくらが助けたと思った命が、「生きてて
よかった」と思っていない現実を見せられた。
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 病院のなかで必死にスタッフが働いて命を助けても、患者さんはちっとも喜んでくれてい
ない。ぼくらの一生懸命やった2か月間はなんだったのかなと思った。
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                  『がんばらない』(鎌田實著、集英社 P.197より)


1.【殺してくれりゃよかった−1】を読んで、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  あなたはどのように感じましたか? なぜそのように感じますか?
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2.あなたがこの担当医だったら、どうするでしょうか
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3.自身とグループとの意見の違いはどこでしたか?
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