ひげコンサルティング塾
   経営者講座
1.ある社長さんとの出合い



 ある日、税理士さんから電話がありました。以前、私の講演に参加してくれた方で、顧問先の
工務店で経営コンサルタントを紹介して欲しいという。どんな内容か分らないまま、とにかく訪
問することにしました。工務店の社長さんは忙しく、会うのは夜ということになり税理士さんと
6時に最寄り駅で待ち合わせました。
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 築20年ほど経っているかと思われる一般住宅を事務所にしていました。日焼けした小柄の、
元気のいい社長さんが奥さんと迎えてくれます。橋や共同溝など、コンクリを打つための型枠を
作る工務店で、社員は30名あまりとのこと。これから会社を大きくしていくために、幹部にな
る人を育てていきたい。コンピュータもうまく使っていきたい…といった話が続きました。
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 事務所の奥にはデスクトップ・パソコンが2台。大きなコピー機が1台、そのコピー機と同じ
ようなカラープリンター1台、さらにドットプリンター1台が目に入りました。・・・・・・・
 「社長さん、これは何に使っているんですか?」 奥のコンピュータを見ながら訊ねました。
「イヤー、これは飾りですよ。ハ、ハ、ハ」社長さんはそれ以上話そうとはしません。奥さんも
黙っています。私は仕事の進め方について話し始めました。
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 後日連絡があり、コンサルティングを実施することになりました。毎週、土曜の午後を中心に
訪問し、U社長との対話が続きました。何回か訪問しているうちに、例のパソコン機器は2年ほ
ど前に、有名なベーンダーから導入したものであることがわかりました。当時で1000万円。
給与計算のための導入でした。3回までの訪問指導は無料だが、後は有料ということで、いつま
でも動かせないため打ち切りにし、パソコンは飾りになったのでした。
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 1000万円もかけて、給与さえ動かせない!私はむなしさとともに、何かとても腹立たしく
なっていました。思わず、「社長さん、ベンツを買った方が良かったですね」と。 社長さんは
黙って笑っていました。私は依頼された「業務標準書」をまとめるかたわら、知人のWさんにア
ルバイトを要請しました。
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 社長とWさんを引き合わせ、1000万円の無駄遣いを話し、ベンツの方が良かったと繰り返
しました。真面目で善良なWさんは驚き、協力してくれることになりました。 その後、何度も
ベンツの話をする私に、 社長さんは口を尖らせ「先生、騙すより騙される方がいいでしょうが
…」と、私は言い過ぎを反省しました。
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 知人のWさんは市販の給与計算パッケージ約8万円を買い求め、テキパキ仕事を進めてくれま
した。アルバイト料わずか10万円、バックアップ用MO約2万円で合計20万円あまり。テス
トを含めて2ケ月、ついに給与計算システムが稼動しました。
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 給与明細を出し終えた頃、茶髪の若い型枠大工さんが部屋に入ってきました。出力したばかり
の給与明細を見せると「社長、ウチは進んどるね、カッコエエやんか!」と派手なパフォーマン
スを見せてくれました。社長もWさんも思わずニッコリ。奥さんが出してくれたコーヒーは味も
香りも格別でした!
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