USA−P in 東京
 ・ エピローグ



 メールの返信で私の友人・知人の間で事件に巻き込まれた人はいない事を知って一安心した
もののすんなりと明日に備えて寝るって気分にはなれずにいて。なまじ今日の寄席、落語会が
楽しかった分だけその落差もあるのだろうが、まさにその寄席や落語会の都合で昨日まさに
自分らも歩いていたその場所、同じような時間に、あんな惨事が起こるとは。もしその都合次第
で私が今日秋葉原に行っていたのやもしれないのを思うと、そしてキングコングニー氏やY君に
「なんで皆、根拠も保証も無いのにこの場所が平和で安全だと思ってられるんでしょうね?」
 と問うていたその翌日に、というのもあるのだが、そう言う私も丸腰だった訳で。

 もし、自分が丸腰で被害に遭ったのならばまだしも、もしも自分にとってかけがえの無い人が
被害に遭ったのならば、私は丸腰でその場に行った事を一生、悔いる事になったろう。

 対人に於いて威嚇しか使用した事が無い私が、あのような情況で何が出来たとは思わない。
しかし所持している事で護れた可能性が僅かでも… それが犯人の殺傷も含めて… 上がって
いた事実がある以上、丸腰という装備判断をした事を私は悔いていただろう。

 TVでは犯人が携帯電話向け掲示板に滅多矢鱈と書き込んでいた言葉をさかんに垂れ流して
いたが、自分で自分の事を不細工だキモイだ何だと書き連ねていた犯人の顔は雰囲気を除け
ばごくごく普通のどこにでもいる人間にしか見えず、「誰でも良かった」という言葉が嘘なのと同じ
ように本心からの言葉ではなく裏返しの自尊心やらがありまくりに私には見えなくもなく。
「世間」への呪い、怨み、妬み、嫉みなぞ私にもあるし、腰の【装備品】に限らず殺傷目的に使用
し効果を得れる道具、装備はしているからいつでもやろうと思えば出来るが、私は辛うじてそれ
をしていない。と言うか、多分、自分自身に関しての事では出来ない。まして殺す事なぞ。確かに
結果的に死んでしまうかもしれないが構わないと腹を据えての暴力の準備はあるけれども、それ
は不特定多数の誰にでもいいというものではない。

 もし、私が彼とその事を話す機会があったなら、彼は私の日常を当然だと言うだろうし自分と
一緒にしてくれるなと言うだろう。同じように、彼が私と日常について話す機会があったのなら、
私は彼の日常を当然だと言うだろうし、一緒にしてくれるなと言うだろう。

 で。

 全く同じ言葉を言っても、彼は人を殺して私は殺せないが、しかし言葉が全く同じでも、多分
「世間」は卑劣な人殺しの彼の方に同情し、共感するだろうなぁ… とボンヤリ思ってたのまでは
覚えてはいるが、それが起きていてのものか夢の中なのかは解らないままに迎えた最後の朝。



 最終日どうしよう?と妻と話し合った結果、昼夜入れ替えが無い上席で夜席の最初が一之輔
さんというのもあったので池袋演芸場に行く事に。二日続けて同じ寄席に行く自分ってどうよ?と
思わなくもなかったんだけども、昨日の楽しさや小屋の雰囲気の良さはやはり妻にも味わって
もらいたくて。
 ついでに、やはりかつて通った事があるという妻の思い出の場所やらを歩いてみたかったって
のもあったのだが、精々が「いけふくろう」くらいで後は…

 これまた十数年振りに訪れた池袋駅東口のあまりと言えばあまりな姿に一瞬言葉を失って。
確かにこの十数年での西武グループの凋落を思えば仕方無いのだろうが、なまじ箱が大きい分
だけ痛んだままの外壁はさながら古城なりの旧跡を思わせて。

通りの向こうから乙女ロードを見つつ。

 所謂「乙女ロード」と呼ばれる場所が本当に通りの一角でたかが数件の女性向き同人誌取り
扱い店が並んでいるだけ、ってのも拍子抜けではあったが… まぁマスコミで流す情報を元に
のネットの情報なんてこんなもんかもしれんけれども

一服しながら見上げるサンシャイン60。

 これまた十数年振りに訪れたサンシャイン60の寂れっぷりにも寂寥感みたいなのを抱かなく
もなし。遺跡や名所ではない場所での変化をしようにも出来ない場所だからこれまた仕方無い
話だが、しかしかつての賑わいを思えばいくら今日が重い曇天から時折雨が降る天候とは言え

思わずパノラマモードで撮影。

エレベーター係りも喫茶店の兄ちゃん達も一日暇ぶっこくのがデフォルトなのに何仕事させやが
んだよ?ノコノコ来んじゃねぇよウゼぇなぁ…っという舌打ちでの出迎えを受けての展望台フロア
には見渡す限り誰もいない、静かで空調以上に冷え切った空気もまたブームの去った後の古跡
げに思えて。ただ、偲ぶ程の思い入れも無いし、窓の向こうは霧で全く見えないんだから感慨も
感傷も持ちようが無いんだけども…

 …といった有様で、そそくさと戻ってきた西口の富士そばでチョイと早めの昼飯にして演芸場
に入る事にして。

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 演芸場を出るとまるで滝のような大雨と雷音が叩き付けていた。
素敵な人達と出会えれた今回の旅行が今日終わるという私の気分にはちょっと強烈過ぎる荒れ
方だったがその様に辟易するでなくフっと
「これで電車、止まってくんねぇかなぁ… 」
 と素直に思った自分に今回の東京旅行がとても良かったものだったのを改めて感じた。

 共に、傍に妻が、友達が、尊敬出来る人がいて、借りのある人がいて、ほっとけない子もいれ
ばそんな心配なぞこれっぽちもしなくていい子もいる。生きている人もいるし、死んだ人もいる。
行方不明の人がいる。色々な人達がいたからこそ生きてこれた。その人達から貰った喜びや、
発見や、刺激や、そして笑いやら色々なものが叩きつけるような雨のように一気に重ねて思い出
して私は涙が出そうになった。



End


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