・『アイズ・ワイド・シャット』 − 2002/05/07

 スタンリー・キューブリックの遺作と言われてる『アイズ・ワイド・シャット』(以下「EWS」)
を妻と観たのだが… 時間の長さはさして感じないのに全体としてもっさりとした、締まり
も緊張感も無い印象で、どうにも落ち着かない気分が観ている間、ずっと続いていて。

 画面は綺麗だと思う場面もあるけど(秘密クラブでの尋問前、とか、赤と青の使い方は
本当に美しい)、セットに見える街並みの画面の小ささも含めてこれ迄のキューブリックの
作品と比べて画面の密度的には薄い、と言うか散漫な印象がずっと続いていて。

 人間、死が間近になるとこうなるものなのだろうか?
 それとも老いとはこういうものなのだろうか?

 と、観ていて寂しく思った反面、冒頭にわざわざ出る
「この画面指定(いわゆるTVサイズで、シネスコサイズで無い)はキューブリック
の意志によるものです」
 って注意書きを信じたくないように、この映画が本当に最後までキューブリックが編集を
し終えたのか私にはすごく疑問なくらいに、素材そのものは決して悪くないしシーンだけで
言えばいいものもそれなりにある。でも、今までのキューブリック作品からすると映画の展開
に無駄が多い、っか、カッタルイって言うか… 娘の独断と気分で編集されたものなんじゃぁ
ないのかね、コレ? と疑いの目で観ちゃう気分が半分ある中じゃぁ、あんまりスッキリ作品
に集中出来なかった、ってのが正直なトコで。

 でも、出来はよくないと思うんですけどね…
 30分は切れる、って印象がしてて…

 それと、
私が男だからなんだろうけど、主人公である筈のビル(トム・クルーズ)の中途半端っぷりが
どうにも腹立たしくて… 結局、傍観者でしかなかった、ってのは兎も角、妻に拒否られた
腹いせに女を買おうとするのも、言い寄られての優柔不断も、買った女の前でのカッコつけ
にしても、変に好奇心だけはあるけど警戒心も覚悟も無いし、ダセェよ… 、ってのに加えて、
最後は泣き言と言い訳をブチ撒けきってアリスに赦してもらう、って事しか選択させないよう
に(結果的に)仕向けてるのって現実のトム・クルーズとダブってど〜も私的には駄目なんです。
「お前、何しとんねん」
 って。
 ハリウッド・パッケージのハッピーエンドを「EWS」、というかキューブリックに求めていた訳
ではないが、あのビルの自分の言動や行動の無自覚さが引っかかってね…

 って言うかね、

 あの終わり方は私には
「アリス(奥さん)にビル(旦那)が捨てられる」
 というのはアリでも、結果(内容、実質?)として
「ビルがアリスを捨てる」
 という事が無さげな終わりかたに思えたんですが、夫婦ってそういうものなのかな?
あそこの夫婦はああだった、ってのだけで映画を作るキューブリックとは思えないが、それ以外
のテーマってあったんだろうか? あったのかもしれないけど、作品的には要素が散漫過ぎて
いるから、ボンヤリとした印象しか無い。別にちゃんとしたオチなぞ要らんけど、だったらもっと
やりようはあったんじゃぁないのかなぁ…
 
 夫婦間のすれ違いをコミニュケーションで回復、って結論はいいの。
でも、それぞれが勝手に、何もしないで、すれ違いのママの中で色々勝手にやってて疲れてワケ
わかんなくなって「御免なさい」って、そんなのアリかぁ?
 破綻すりゃぁいいってのでもないし、徹底すりゃぁいいってものでもないけれど、でもさ… 元鞘
っか、纏まったからいいってもんでもないでしょ?
 特に、こんな纏まり方なんて。
それでも良し、って出来るのが夫婦… ってのにしたって、こんな事、また繰り返すだけじゃん…
アリスは巧妙になるかもしれんけど、ビルは阿呆のまんまで、結局何が問題で何をドジってヘマ
して、馬鹿やってたのか、ってのを自覚してないんだからベッドでの拒否からの繰り返しにしか
ならんのじゃぁないの? ってしか思えないから結論が薄いし軽ぅく見えてねぇ…

 それとももうちょっと歳食うと、違った見方、出来るのかなぁ?


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